第19話

「チェンジで。」


あまりにも牛の時と様子が違い過ぎるので違和感しか感じられない。

地雷踏んでると思っている。

あと大事な部分は髪の毛で隠れている。


「………あの…もしかして……角…邪魔でしたか……?」


おっとり無口系だけども牛形態の時に猪突猛モウ進してきたのが恐怖でしかない。


角をシュッとしまえばパブみを感じられるおっとり系美人。

花とかが普通に似合いそうな人なんだけど……

あと動物だから俺の傷跡なんて気にしないと言えば気にしないんだろうけど。


「なんで恩人のあの方は受け入れないんでしょうか?貴族の中では据え膳食わぬば男の恥と言わしめるほどの格言がございますのに。」


姫様の国では貴族の場合は人妻でもなければ女性の誘いは断ってはいけない決まりがある。

女性の方も男性に一生添い続けたいという意味を込めて行うため風紀が乱れることはない。

ちなみに一夫多妻制だ。


「あのな。姫さんは知らないかもしれないが庶民は基本的に1人のパートナーと添い続けるんだ。

 もちろん大きな商家の家は一夫多妻のところもいると聞くけど、あの兄ちゃんは修羅場を潜ってきたようだがまだまだ女の方を追いかけたいと思う年頃でもないし、あいつはコンプレックスがあるから早々に人を信じきれないんだろう。」


盗賊は刀赤が幼い頃からあの手の傷を負っていることを察していた。

人と違うモノを持つ人たちは畏怖の象徴かそれとも神の使いかと相場が決まっている。

それだけにどのような人生を歩んできたかをきちんと想像できていた。


「姫さん、あんたのところの騎士に名誉の傷を負った奴らのことを知っているか?」

「え?はい、もちろん存じ上げておりますが、

 彼らは国のために尽力したモノたちとして治療魔法で傷跡が残らぬように治療します。

 それでも傷跡ができてしまった場合は名誉の傷として褒賞を与えておりますが、

 それが……?」

「それだけじゃねえんだよ。

 あのあんちゃんの持ってるものは庶民の間ではドラゴンの呪いって言われている傷だ。

 幼い頃からドラゴンに魅入られているからドラゴンが火を吹いて毒やら呪いやらを撒き散らしたって言われている庶民が医者にかかったんじゃ莫大な費用を取られてしまうから一生治すことのできない傷って言われているぜ。」

「あの方にそんな傷が……なら本国に行って治して差し上げれば!」

「根本的な解決にはならねえよ。

 一度畏怖の目で見られているんだ。

 心の底から自分を受け入れてくれる人間じゃないと許すこともしないし治す気にもなりゃあしねえよ。」


そんな会話を尻目に俺は牛に迫られていた。


「………どうし…て……?」

「初対面の存在を信用しろと言う方が難しいだろ。」

「…ニンゲン……求愛…匂い………違う…………?」

「違うとも言えるし合ってるとも言えるが少なくとも俺はそれでは信用することはない。」

「……交尾…なぜ……無理…?」

「俺には子どもなんて到底作れそうにない。」

「mou(´;ω;`)」


牛は涙をボロボロと流し始めた。


「「あ、泣かせた。」」


盗賊と姫さんの声が一致した。


「牛様どうか気を落とされないようにお願いいたします。あの人のことなんて忘れて別のあの人よりも良い男性を探してあの人を見返してやりましょう。」

「moumou(´;ω;`)」


牛さんは姫さんにヨシヨシされていた。


「あんちゃん、告白されたとかそう言ったのも初めてかもしれねえけど少しは相手の気持ちを考えてやったほうが良いと思うぞ。まああんちゃんは自分のことを考えてもらった経験が少ないかも知れないがちょいとは信じてやらないと信じてもらうこともできやしねえぞ。」

「それよりもあんたらがここにきた理由は?」


おいおい、それどころじゃ無いだろと思いつつも牛さんも泣き止んでいたのでこのまま説明したほうが良いのか迷っていると…


「…私……あなたと……居たい…それから…もう一度……良い………?」

「その土地の常識の範囲内であるのなら構わない。」

「……わか…った…。」


とりあえず牛をそれで放置した。


「それであんたらここにきた目的は?」

「あ、ああ。姫さん。」

「私はあなた様にお礼を言いにきたのです。私の名前はボジタット王国の第5王女、リザベル・マリア・ボジタットと申し上げます。以後お見知りおきを。」

「そうですか。これは丁寧にどうも。私はあなたに謝罪される筋合いがあってもお礼を言われる筋合いはありませんのでこれで失礼します。」

「お、お待ちを。我がボジタット王国は大国に劣る中堅国家とはいえ礼儀を知らぬほど愚かではありません。それに謝罪がご必要ならば日をあらためて再度謝罪させていただきますので何卒お願い申し上げます。」

「姫さんそれは辞めとけ。謝罪の押し売りは悪手中の悪手だ。」

「しかし……。」


盗賊のあんちゃんは姫さんを引っ張り上げて引くよう求めた。


「とっと騎士の野郎どものところに戻るぞ。そろそろ日も暮れる騎士どもに俺らを夜の中捜索させるつもりか。」

「で、でも。」

「でももない。相手が要らないと求めているしこちら側に非がある行動の謝罪の前にお礼から入っているんだから筋違いにも程がある。

 あんちゃんもすまなかったな。俺が連れてきてしまったばかりに不快な思いをさせちまって。」

「構いませんよ。あなたからは謝罪を受け取っていますしね。それと盗賊は辞めたんですか?」

「ああ、今は騎士の監督役ってことになってるよ。

 今回のことで騎士の実力不足を実感したんだとよ。

 少なくともあの化け物が理解できるくらいには強くさせてみせるからその時にあらためて来させてもらってもいいか?」


少し悩んだ後、静かに了承した。

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