第26話 理解

 羽咲はなさきみずき side


 私は小学生までは普通に生活が出来ていた。

 友達と公園で遊んだり、両親と一緒に旅行に行ったり。

 学校にもみんなと元気に行って教室で授業に出席していた。

 しかし、中学生になってから変わった。

 中学2年の時に悲劇が起きた。

 仲の良い友達2人に、休みの日に遊ぼうと言われて、私はその誘いに首を縦に振った。

 そして訪れたこの日。

 お昼ご飯を食べた後、本屋に行って雑誌を見たり、雑貨屋に服屋に寄って見て回って、ゲームセンターではプリクラを撮ったりして、休日を楽しんだ。

 気付くと午後4時を過ぎていた。

 私は「帰らなきゃ」と言って、親に連絡のメールを打とうとすると、いきなり携帯を取られた。

 そして、友達の1人は「ちょっと来て」と怖い顔をしていた。

 嫌な予感がした。ついて行ったら、ダメな気がした。

 私は「ごめん」と言って、駅に向かって走り出した。

 案の定、友達2人は追って来た。

 その内の1人は誰かに電話をしていた。

 ますます恐怖心が強くなる。

 走って走って、懸命に走った。

 が、途中で転んでしまった。

 マズイ、どうしよう。

 友達2人が追いつき、私は両腕を掴まれて体を無理やり起こされた。

 その後、見知らぬ男2人と女1人がやって来た。友達2人の知り合いだろうか。

「よし、来い」

 いかつい男が先頭になって後ろをついて行く事になった。


 着いた場所は、閑散とした公園。

 午後6時過ぎ、もう暗い。

 友達2人に両腕をしっかり掴まれた状態の私。

「なるほどね・・・」

 私の顔をじろじろ見てくる男2人。

「悪くない」

 何が?意味分かんない。

「離して下さい!」

 わざと大きな声で言った。

「それは出来ない」

 ですよね。それでも。

「家に帰りたい!」

 また大きな声で言った。

「威勢の良い子だね」

 女がニヤニヤした顔で言った。

「そろそろ、良いか?」

 えっ

「良いよー」

 女は携帯をこちらに向けて笑っている。

「ちゃーんと、撮っとくからさ」

 うそ、一体何を・・・

 すると、男2人は私の服を脱がし始めた。

 私は全力で懸命に抵抗する。

「止めて、止めてー!」

「煩いな、黙ってろ!」

「いやああああああー!」

 大きな声を出せば、誰かが来る。

 そう信じて大きな声を出し続けた。

 だが、男にお腹辺りを思いっきり殴られてしまい、声が出なくなった。

「うっ・・・いた、い・・・」

「やっと大人しくなった」

 もう、だめ・・・私という私が、死んでしまう・・・

 誰か・・・誰か・・・

「コラー何してるんだー!」

「ヤベッ、警察だ!逃げろ!」

 私の両腕を掴んでいた友達2人は、乱暴に私を放り投げて、男2人と女と共に逃げて行った。

 乱れた服、下着は辛うじてずれていない、良かった。

「大丈夫?」

 女の警察官だ。私は警察官に体を起こしてもらった。

「1番最初にここを見付けた警察官が追ってるから」

 良かった・・・良かった・・・

「大きな声が聞こえていたから、探してね」

「そうでしたか」

「大きな声を出すって勇気のいる行為だから、怖かったね」

「うぅっ・・・」

 私は泣いた。

「とっても・・・怖かった・・・」

「よしよし、大丈夫、大丈夫」

 救急車も来て、念の為に病院へ。

 調べた結果、異常なし。

 検査が終わる頃には両親が迎えに来てくれた。

「お父さん、お母さん・・・」

「みずき、ごめんね!怖かったね!」

「もう大丈夫だからな!」

 両親の顔を見たら声を出して大泣きした。


 この日を境に、私は学校に行けなくなった。

 また、外にも出られなくなってしまった。



「だから私、教室に居られないの・・・狭い空間が、あの時を思い出してしまうから。誰も私を攻撃してくる人は居ないのに・・・分かっているのに」

 みずきさんの表情が暗くなる。

「あとね、家にいる時間が長くなったから、勉強しかやる事なくて。それで続けた結果、中学3年の夏には高校3年間の勉強は終わってしまったの」

「それで賢いのか」

「そんな事ないよ、今もテスト前に復習すると忘れている事もあるから」

「でも復習すると思い出すんでしょ?」

「うん」

「それを賢いというんだよ」

「そんなことないのになぁ」

 自分なりに遅れないように努力もしてきたんだね。

「あの日以来、家から出て居なかったけど、高校受験の日にやっと出たの」

「うん」

「実際に出て、気持ちが軽くなったから、大丈夫かなーって思いつつ、やっぱり受験生の人集りに気持ち悪くなりそうになったけど、別室で受けれるからそれが救いだった」

「なるほどー」

 頑張ったんだ。僕は何も考えずに、みずきさんの頭を撫でていた。

弦大げんた君・・・?」

「頑張ったなーって」

 僕はこれしか出来ない。

 話を聞く事と優しくする事しか。

 それでも、彼女の傷がほんのちょっとでも軽減出来るなら。

「ありがとう、弦大君」

 潤んだ目のみずきさん。泣かないで。

「無理はしちゃダメだからね」

「うん、分かってる」

 これで、心が通じ合ったかな?

「話してくれて、ありがとう」

「こちらこそ、聞いてくれて、ありがとう」

 互いに笑った。


「何かあれば、必ず助けるから」

「うん」

「守るよ」

「頼りにしてる」

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