第2話 もったいない

 図書室のあの子と出会い、話すようになって1週間が経過したある日。

「あっ!?なんじゃそれ!?」

「しーっ!声大きい」

「あはは、すまんすまん」

 さとしに図書室の妖精さんについて話していた。

「んで、あの空席がその子なんだな?」

「うん、幽霊さんじゃなかったよ」

「なら安心だなー!」

 僕も安心している。

「何の話?」

「おー!優愛ゆめ!」

「はぁ・・・」

 小園こぞの優愛。去年から同じクラスの女子。

 黒髪でポニーテールが印象的で前髪をいつも気にしている。

 目はキリッとしていて目力が半端ない。

 性格がサバサバなので、頼られるリーダー的存在。

 サバサバ女子、苦手なんだよなー。

「図書室の妖精の話」

「何それ?詳しく教えなさい」

 怖い、怖いよー。

「嫌と言ったら?」

「絞める」

「ごめんなさい、白状します」

 僕は弱い。でも言い振らすような2人ではないから、いっか。



『なるほどね』

『うん』

『なら放課後突撃しましょう!』

『えっ』


 てなわけで、放課後。

 僕は聡と優愛を図書室に案内した。

 トラブルになったら、僕はもうあの子と話せなくなる。

 困ったけど、どうしようもない。

羽咲はなさきさーん」

「あっ!弦大げんた君!」

 わおっ!いきなり下の名前。

「まだ下の名前で呼ぶのは早かった?」

「ううん、大丈夫。良いよ」

「ありがとう。私の事も“みずき”って呼んでね」

 こんなに距離が縮んでいたなんて、分からなかった。

「あのさ、えーっと、みずき、さん」

「はい?」

 みずきさんは首を傾げる。小動物みたい。

「僕のお友達2人を連れてきまして」

「えっ」

「あー、嫌なら帰らすよ」

「ううん、会いたい!」

 みずきさん、良いんですか?

 煩いのとサバサバだよ?

「んじゃぁ・・・あの、どうぞ・・・ぐへっ!」

 優愛が僕の事を邪魔だと言わんばかりに押されて倒れ痛い目に。

 そんな僕に手を差し伸べることなく、笑いながら無視していく聡。

 なんなんだこの2人。

「あなたがあの空席の子?」

「そう、です・・・」

「ごめんなさい、怖がらせて。いや、怖がらせてはいないんだけど」

「いえいえ」

 あーあ、教えなきゃ良かったかな。

「私も2年B組」

「俺も!」

「そうなんだ!」

 あれ?

「私は小園優愛」

「俺は弓河ゆみかわ聡!」

「私は羽咲みずきです!」

 流れが良好?

「みずき、よろしくね♪」

「よろしくー羽咲さん!」

「こ、こちらこそ!小園さん弓河君!」

 おー、打ち解け早ッ。

「みずき、優愛で良いよ!」

「あっ、えと、優愛、ちゃん」

「はい、よく言えました♪」

 小園はみずきさんの頭を撫でた。

 スキンシップがスムーズ。

 こうして、みずきさんにお友達が2人増えましたとさ。



「さて、みずき!」

「はい!」

「もったいないわよ!」

「ん?」

 首を傾げるみずきさん。

「事情はどうであれ、教室に来ないのはもったいない!」

 あー、なるほどー。

「で、でも・・・」

「顔出すくらいなら良いでしょ?このままあの空席の噂が大きく膨らんで良いの?」

 確かに。変な噂が増えるとめんどくさそう。

「それはー・・・だね」

 悩むみずきさん。

「それに、うちのクラスはみずきを歓迎するから!誰も何も言わないし!」

「優愛ちゃん・・・」

 小園の言葉に背中を押されて決心したのか、みずきさんの表情が引き締まった。

「先生と親と相談してみる」

「親はいいの!」

「へっ?」

「いちいち親の許可取るとか、もう高校生なんだから!」

「高校生、だから・・・なるほど・・・」

 どうするのかな?

「とりあえず、顔合わせからどう?」

 みずきさん、どうする?

「無理やりではないけど、あの空席の噂を消すチャンスじゃないかな?」

 空席の噂を消すためには、出るしかないよね。

「みずきさん」

「弦大君?」

「頼りないけど、僕がいる」

 頼られるのは嫌だけど、何故か言った。

 すると、みるみる目に光がさし輝いてきた。

「私、行く!教室!」

 この決意が明日どう出るのやら。

 上手くいきますように。

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