あの子は必ずここにいる

奏流こころ

プロローグ

 子供の頃から、何を考えてるのか分からない、と言われてきた。

 親にも言われてきた。


 “ぼーっとするな”。


 先生にめちゃくちゃ言われて、酷い時は怒られた。

 周りを見ているつもりでも、ちょくちょく誰かとぶつかるような、そんな毎日を過ごしていた。

 唯一の楽しみは花の面倒を見ること。

 学校の花壇の手入れに水やり、家では観葉植物の手入れに水やり。

 あとは声かけ。

 話し相手は花だけなんじゃないかと。

 そんな僕でもなんとか、のらりくらりと、高校生に成長し、今は2年生。

 子供と大人の本当に中間のど真ん中。

 高校でも花の面倒を見たくて、1年の時から園芸委員になった。

 さて、花壇とプランターに水やりに行こうかな。

 ゆっくりと席から立つと。

弦大げんた!」

「何?」

 彼は同じクラスの弓河ゆみかわさとし

「相変わらずぼーっとしてんな!」

「うーん」

 高校に入学して間もない時に友達になった。

 髪型は坊主で合体は良く、力には自信満々だとか。

 野球部の捕手兼4番を任されている。

「どこ行くんだ?」

「花の面倒を見に」

「心優しい少年だな!ガハハッ!」

 笑うと豪快、煩いな。

「ところで」

「ん?」

「今年もあるな、あの空席」

 聡が指さした先にある謎の空席。

 去年からうちの学年にあって、いつしか噂が立つようになっていた。

 幽霊の席とかあの席に触ると呪われるとか。

 変な噂ばかり。

「なぁ?本当に幽霊の席なんかな?」

「うーん、知らない」

「おいおい」

 幽霊さんなら幽霊さんなりに、居ますよーって知らせるべく、今頃勝手に机か椅子が動くはず。

 触って不幸があれば是非教えて欲しいもの。

「じゃあ中庭に行くね」

「へいへい行ってらっしゃい」



「今日も元気だねー」

 風でサワサワと揺れる花たち。

 まるで「水やりいつもありがとう」と言っているように聞こえる。

「よし、また明日ねー」

 じょうろを元の場所に片付けに歩くと、なんとなく空が見たくなり上を見た。

 青空、太陽さんさん。うん、日光浴には良い。

 さて戻ろうと目線を下げる途中、ふと図書室の方に目がいった。

「誰だ?」

 見かけない女子生徒が、はたきを持って掃除している。

 リボンの色が赤なため、僕と同じ学年。

 一通り把握しているのに、あの子は知らない。

 その子を見かけてから気になり出し、授業に集中出来ずに過ごすこととなった。

 お陰で何回も先生に怒られた。

 まあ、いっか。



 園芸委員会担当の先生から、花に関する本を借りて調べて欲しいと頼まれて、今まさに図書室前にいる。

 丁度良かった。だって、水やりの時に見たあの子がいるかもしれないから。

「失礼しまーす」

 図書室に入ると人の気配がない。

 おかしいなー。

 とりあえず、おつかいの本を植物コーナーから探す。

 何冊か見つけて、広くて大きな机に置いて丸椅子に座り読む。

 うん、綺麗な花ばかり、癒される。

 ちょっとテンション上がってきたところで、誰かが図書室に入って来た。

 顔を上げると、あの時に見た子だった。

 綺麗な顔をしている。

 銀髪で、長さはセミロングくらい。三つ編みしながらハーフアップで結んでいる。

 ジーッと見ていると。

「あの・・・何か?」

 ヤバい、ぼーっとの進化系である見つめてしまった。

「ごめんなさい、ついじっと見てしまい」

 おどおどしていると、クスリと彼女は笑った。

「大丈夫」

 怒ってなかった、良かった。

「何年生?」

「2年生」

 やっぱり。

「何組?」

「B組」

「えっ」

 てことはー・・・。

「空席は君だったんだ」

「あっ、うん」

 幽霊じゃなくて安心した。

「僕もB組」

「わっ!同じクラス!」

 こんな子と同じクラスなんだ・・・。

「僕の名前は宮藤くどう弦大」

「あっ、私は羽咲はなさきみずき」

 みずき、さん。いや、まだ互いに知らないから羽咲さんと呼ぼう。

「よろしく」

「よろしくね」

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