秒針の先に刻まれた想い(塔の正位置)
「タワーさん、これほしいの?」
「え……どうし、て……?」
「さっきからずっと見てるから……欲しいのかなって」
私の部屋に、珍しく一人で来たタワーさんこと、『塔』の正位置さんは、部屋に置いてある置時計をずっと眺めている。この置時計は親友から誕生日プレゼントにともらったものだった。私の好みに合わせて、猫がモチーフになっている。
あまりにもずっと見ているので、もしかすると欲しいのかと思い、声をかけたのだが、反応を見るにそういうわけではないようだ。
「僕……秒針が、好きなんだ……」
「秒針ってこれ?」
「うん、小刻みに動いているでしょう……? これを見るのが、好き……なんだ……」
彼が見ていたのは、置時計の中の秒針。彼の言う通り小刻みに動きながら時間を示している。
そこでふと不思議に思った、今までにも腕時計や壁掛け時計など、さまざまな種類の時計を目にしているはずなのだが、何故この置時計にのみ興味を示したのだろうか。
「ねぇタワーさん、今まで他の時計もあったと思うんだけど、どうしてこれだけ……?」
「今までのも素敵ではあるけど……その……込められてる想いが違うから……」
「込められている想い……?」
タワーさんが見ていたのは、秒針とその先に視える想い。置時計をプレゼントしてくれた親友が抱く、私への想いが、秒針に合わせて刻まれていっているのだという。秒針が動くたびに、想いも同じように動き、時間とともに刻まれていく。その様子がお気に入りで、つい魅入ってしまうらしい。
「……親友が言ってた。これを見つけたとき、絶対私が気に入ってくれると直感したって……そういう想いもここに込められているんだね。」
「貰った時の想いも、渡したときの想いも……秒針と一緒にいつも刻まれているから……それを見るのが……綺麗だなって思うんだ……」
時間はあっという間に過ぎ、その時の思いも時間とともに薄れていってしまう。しかし、その時の物には、その時の想いが残っていて、見えない形で存在している。
彼にはその見えない存在の姿も、声も想いも、知ることができるのだろう。同時にその存在を肯定し、美しいと讃えることも。
きっと彼だけが見出せる価値観なんだろうなと感心しながら、私も同じように、見えはしない秒針の先をじっと見つめるのだった。
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