私と彼等の日常は、あまりにも非現実的過ぎる2(正位置編)
死神の嫁
目には癒しを、心には温もりを(愚者の正位置)
ふと、何気なく思っていた事を実行したくなることがある。きっかけは様々だが、衝動に駆られて後先を考えずに実行することも、少なからずあるだろう。
「……結局、買っちゃった」
この日、私の中で無性に花火がしたくなり、気が付けば花火お得パックを買っていた。何時もなら、悩んだ挙句諦めるのだが、この日は頭よりも先に手が動いていた。しかも、沢山入っているお得パックの方を買うとは、やってしまったなと早々に後悔していた。
「主、これはなんだ?」
「あ、愚者さんおかえり。これは花火だよ」
さてどうしたものかと悩む私の前に、旅から帰ってきたであろう『愚者』の正位置さんが通りかかった。好奇心旺盛な彼に、試しにと一本渡してみると、角度を変えたりしながら不思議そうに見る。それがおかしくもあり可愛らしさを抱いた私は、ふと彼と花火を楽しみたいと思った。
「ねえ愚者さん、今夜私に少し時間をくれない?」
「構わないぞ! 然し何をするのだ?」
「それはお楽しみ、じゃあ夜になったら呼びに行くね。絶対部屋にいてよ?」
その夜、約束通り彼を呼びに行くと珍しく部屋で待っていた。聞くと私との約束が気になって、ずっと部屋で考えていたらしい。じっとすることが苦手な彼が珍しいなと思いつつ、外へと連れ出す。
「じゃあ始めようか、予め用意はしておいたんだ」
「これは……バケツと蝋燭か?」
「そう、花火をするのに必要なの」
そう言いながら、適当に選んだ花火に火を近付ける。程なくして火がついた花火の先端から、カラフルな火花が飛び散り暗闇を照らした。音と色に驚いたのか、彼は目をまん丸にして私と花火を交互に見ていた。
「あはは、びっくりした? 愚者さんもやってみてよ、楽しいから。火傷には気を付けてね?」
そういう私に、彼も花火をひとつ手に取り、恐る恐る火に近付ける。同時に赤色の火花が飛び散り、驚いて手を離そうとする彼の手を掴み、そのまま終わるまで持っているように促した。
暫くして慣れてきたのか、彼は歓喜の声を上げながら花火を楽しみ始めた。楽しそうな彼に安堵しつつ、遊び終わった花火をバケツに入れ、しっかりと消火を行う私。最後の一本になる頃には、バケツが遊び終わった花火でいっぱいになっていた。
「これぞ夏の風物詩……なんてね。締めくくりはやっぱりこれだね」
「それも花火か? 先程のものより細いのだな!」
「これは線香花火っていうの。さっきの花火よりは地味だけど、締めくくりにはもってこいなんだよ」
線香花火に火をつけ、ただじっと火花を見つめる私と彼。ちりちりと音を立てて、小さく震えながら四方八方に火花が飛ぶ。やがて惜しむように火が消え、終わりを静かに感じた。
「ね、締めくくりにはもってこいだったでしょ?」
「……」
「愚者さん……?」
「これ程までに美しいものがあったのだな……この世界にも」
「火は危険をもたらすこともあるけど、花火は人の心を癒す力があるのかもね。一人でも大勢でも、同じ癒しを与えてくれる……人が作るものも、案外悪くないでしょ?」
私の言葉に、彼は深く頷いた。
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