#8ー1
#8
その夜、圭は学校関係者からリークがあった連絡網を使い、あの三人の自宅へと電話をする。
一方大樹は、改めて本日の来訪の礼も込めて、素子と加奈の家へと電話を掛けた。
圭は手始めに、愛美の家に電話を掛ける。二度のコールの後に母親が出て、愛美に繋いでくれるように頼むと、あっさりと本人が出る。
「もしもし? 伊勢愛美ちゃんっすか? 今日インタビューさせて貰った時に居た、楢井崎っす」
「ゲッ、マジで! やっぱ連絡先とか分かっちゃうもんなんだね」
「まぁ、学校の連絡網なんてザルも同然っすからね? 突然、家庭教師の勧誘とか、英語教材の営業の電話とか掛かってくる事、無いっすか?」
「……あるわ、めっちゃある」
「そう言う事っすよ」
「なんか社会の闇に触れた気分だわ。んで、私に聞きたい事ってのはなんなん?」
「大したことじゃ無いんすよ、愛美ちゃんの事って言うより、莉子ちゃんの事を聞かせて欲しいんす」
「莉子の事?」
「今日、うちらとの会話中逃げるように走って行っちゃいましたよね。あれはなんでなんすか?」
「ああ、あれね。うちらもビックリしたんだけどさ、聞いてみたら別に大した事無い理由だったわ」
「と言うと?」
「刑事さん、莉子んちが結構すげぇ家だって知ってる?」
どうやら愛美は、圭の事も刑事だと勘違いしているようだった。
「お父さんが菱川グループの総帥、菱川雷太さんだって事くらいっすね」
「そうそう、すげぇ偉いおじさんなんだよね。だから、おじさんのスキャンダルとかを狙って、記者とかテレビ局とかがいつも張り付いてるらしいのよね。んで、最近はあの事件のせいもあってさぁ、莉子が狙われる事も多いらしいのよ。この時代、何がスキャンダルって言われるか分かんねぇじゃん? だから、取材関係は全部逃げるようにしてるんだってさ」
「ほーん、成程成程~。ちなみに愛美ちゃんは、今回の事件について、どんな感じに思ってるっすか?」
「ん~、私は別にどうともって感じかな~。あ、でもここだけの話ね、あの事件があってから、莉子の様子がちょっとおかしいのよ」
「おかしい? 今日の走って逃げるようなのとは違う部分でですか?」
「そうそう、走って逃げるのは毎度なんだけど、学校内でも、事件の話してる奴がいたら、研二や昌司に言って、止めさせるようにしてんのよ。なんか、過敏になってるって言うか、ちょっと怯えてるくらいの勢いで」
「それ、研二君や昌司君は、従ってるんすか?」
「そらそうよ。友達って言う風になってるけど、ぶっちゃけうちら、莉子の舎弟だもん。でも、一緒にいて楽しいし、お金出してくれるし。それを抜きにしても、私は莉子の事嫌いじゃないしね。口は悪いけど、あの子だと不思議と嫌な気はしないのよね」
「そうなんすね~、分かりました、夜分にありがとうございましたっす」
「はぁい、水原でぇす」
「夜分にすいません。昼間お邪魔しました、三枝です」
「ああ、刑事さぁん、お昼はどうもぉ」
「今大丈夫ですか?」
「丁度仕事明けだからぁ、大丈夫ですよぉ」
「……酔ってらっしゃるんですか?」
「だからぁ、ヒック、言ったじゃないですかぁ、仕事明けだって」
「はぁ、成程」
「んで、どうしましたぁ?」
「昼間のお礼をと。それから、何か更に思い出した事とか無いかなと思いまして」
「何か更にっすかぁ?」
「そうです、例えば、桜さんが誰かにいじめられていたような事は無かったか、とか」
「ああ、そう言う事ですかぁ? あったと思いますよぉ」
「……は?」
「いや、だからぁ、いじめられてたとかって事ですよねぇ? あったと思いますよって」
「あったって! それは、どう言う事ですか?」
「いや例えば、帰ってきたら泥だらけの上履き洗ってたりとか、制服びしょびしょだったりとかはしょっちゅうだったんでね。あれでいじめ受けて無かったら、逆にどうしたんだぁみたいな感じですよねぇ」
「何でそれを昼間に言ってくれなかったんですか?」
「いや。だってぇ、聞かなかったじゃないですかぁ?」
「聞かなかったとしても、そんな大事な事……。それ、お母さんはどうしたんですか?」
「聞いたんですよぉ。あんた、いっつもボロボロんなってんねぇ。いじめにでもあってんじゃねーの? ってぇ」
「そしたら?」
「もう逆ギレもいいとこっすよぉ! あんたには関係無いでしょ! 放っといてって! それと、この事は誰にも内緒にしてて! って、そんな風に言われちゃったらぁ、こっちもカッチーンと来てぇ、ああ、はい、そうですか、ってなるじゃないっすかぁ?」
「いや、そうはならないでしょ」
「まぁ桜も自殺しちゃったんでぇ、誰にも言うなとは言ってたけどぉ、もう時効っすよねぇ。あ、何か役に立ちましたぁ?」
「……えぇ、とても。また何かあったら、連絡させて頂きます」
「はぁい。こっちもぉ、新しい証拠品とか見つかったらぁ、連絡させて貰うんでぇ、んじゃ、よろしくでーっすぅ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます