#8-2


「はい、妹尾っす」

「おお、いきなり本人が出てくれたっす! ラッキー!」

「おお、その声は、昼間の姉ちゃん?」

「ザッツラーイ!」

「よく家の番号分かったなぁ」

「その辺りは、ちょちょいのちょいっすよ! そんで、聞きたい事があるんすけどいいっすか?」

「でも俺、多分大して役に立てねぇよ?」

「そんな事無いっすよ! そんで、研二君は今回の事件の事、どんな風に考えてるっす? 一応学校関係者っすもんね」

「今回の事件かー、実際あれってどうなん? 二人で飛び降りた心中事件なの?」

「その辺も警察からの発表待ちだったりするんすよ。遺書は一人分だったし、自殺を止めている内に落ちてしまった、みたいな話かもしんないっす」

「あー、でもそれあるかもしんないよなー。門倉は真面目な奴だから、恋人が自殺しそうになってたら止めるんじゃないっすかね」

「は? ちょっと待って下さいっす! 研二君昼間は、事件についてはよく知らねぇって言ってたっすよね?」

「あ、やべっ!」

「どう言う事っすか? 教えて欲しいっす!」

「あー、でもなぁ……」

「知ってる事がちょっとでもあるなら話して欲しいっす」

「……分かりましたよ。でも、俺が話したって、絶対に内緒っすからね」

「秘密は守るタイプっす」

「特に、莉子には絶対に内緒で」

「命に代えても言わないっす」

「実はっすね、俺、小学校の頃、あいつとクラスが同じだった事が、一回だけあったんすよ」

「門倉桃慈君とっすか?」

「そう。あいつ、誰も世話したがらないウサギ小屋の世話したり、喧嘩の仲裁をしたりして、悪ガキだった俺からみたら、うぜぇなぁって当時は思ってたんだけどさぁ、今思えば、正義感の強い、いい奴だったのかもしんねぇなって」

「成程」

「でもよぉ、あいつ、確か夏休みの直前くらいで、急に転校する事になったんだよ」

「夏休みの直前? それは妙っすね。普通は夏休み中とかに引っ越したりするもんっすよね」

「いや、何かさ、門倉んとこ、工場経営してたらしいんだけど、それが上手くいかなくなって、潰れちゃったらしいんだよ。噂によると、その時、門倉の親父さんが、工場で首を吊っちゃったらしくてさ」

 圭の頭の中に、幼い頃に桃慈が父親を亡くしていると言うエピソードが思い起こされる。

「んで、これも噂なんだけどさ、その工場が潰れた原因に、莉子の親父さんが関係してるらしくてさ。当時は、俺は別のグループとつるんでたんで良く知らなかったんだけど、莉子と門倉は同じグループでよく遊んでたらしいんだよ。それが、工場を潰した親父の娘と、工場を潰されて自殺した親父の息子だろ? そんで、俺も全然人の事言えねぇけどさ、小学生位のガキって残酷じゃん。本人達よりも、周りがいじったりからかったり色々あったらしくてよ。それに対して莉子はブチ切れるし、門倉はそんな状況に耐えらんなくて転校しちゃうし、そんな状況に更に莉子がぶち切れたお陰で、学校は菱川家からの寄付が無くなるかもしれないって慌て出して校長やPTAも大騒ぎになって、もう学校中で散々だったってのを、最近聞いたんだよ」

「ほうほう、貴重な情報、感謝するっす」

「これ、俺が言ったって、マジで莉子には言わないでくれよ?」

「命に代えても。ところで、研二君はなんで今は莉子ちゃんとつるんでるんすか?」

「なんでって、あいつ口は悪いけど、可愛いし、それに金持ちだから遊び代とか全部出してくれるんだぜ? そりゃお姫様扱いもするだろ? でも、自分の秘密とか勝手に喋ったとかってなったらマジでぶち切れて、超怖ぇんだから。頼んだぜ?」

「成程成程、夜分にありがとうございましたっす! また何かあったら、連絡させて下さいっす」


「もしもし、門倉さんですか? 夜分に失礼します。本日ご挨拶させて頂きました、三枝です」

「ああ刑事さん、こちらこそ、ありがとうございました。何かお役に立てましたでしょうか。あれから何か、進展はありましたか?」

「すいません。あれからは特に捜査に進展はありません。ですが、必ず真実を明かして見せます」

「そうですか、ありがとうございます」

「そう言えば門倉さん、聞きそびれていたのですが、失礼ですが、ご主人は?」

「ああ、主人は桃慈が幼い頃に、経営していた工場が上手くいかなくなって、それで……」

「それはすいません、辛い記憶を……」

「いいんですよ。それに、当時は下請けだった菱川グループの総帥の、菱川雷太会長にも直々に謝罪をされて、工場が潰れても、私たちが生活していけるように、今でも援助をして頂いているんです。菱川さんとこの莉子ちゃんと桃慈も、幼い頃は同じ学校で、良く遊ぶ位仲が良かったんですよ。確かに、大企業の急な方向転換でうちの工場は潰れました。でも、あの時頭を下げ、今でも援助をして下さる菱川さんを、恨んだりしてはおりませんよ」

「そうだったんですね。所で門倉さん、水原桜さんのご両親にはお会いした事はありますか?」

「いえ、ありませんが、あんなにお淑やかで可愛らしい子だったので、余程育ちのいいお家で育ったのでしょうと想像しておりました。なのに、あんな事になって……。刑事さん、桃慈達が、自殺や心中なんかする訳がありません! もしかしたら……、いえ、きっと、他に犯人がいる筈です」

「門倉さん、落ち着いて下さい」

「あ……、すいません、私とした事が……。刑事さん、どうか、どうかよろしくお願いいたします」


「はい、田村」

「ああ、夜分にすいませんっす。私、楢井崎と申しますっす。田村昌司君の、お父さんですか?」

「いや、俺が昌司だよ」

「おお、本人だったっすか! 声低いから気づかなかったっす」

「ああ、電話だとよく言われるよ。昼間の刑事の姉ちゃんだろ? 俺になんか用か?」

「話が早いっす。とりあえず、昌司君は今回の事件、どう思ってるっす?」

「どう思ってるも何も、俺達は本当に全然知らない奴らだし、別にどうとも思っちゃいない。たまたま学校の中で、知らない内にいじめが起きてて、たまたまその犠牲者になった奴が飛び降りて死んだ。それだけの事だろ」

「クールっすね。じゃあやっぱり、飛び降りの原因はいじめだと思うんすね」

「知らねぇよ。テレビとかでも、自殺の原因はいじめを苦にした自殺だ、心中だって、散々騒いでんじゃねぇか。そうなんじゃねぇの?」

「成程、じゃあもう一つ、菱川莉子さんの事について聞いてもいいっすか?」

「……莉子は関係ねぇだろ?」

「いや、関係があるか無いかとかでは無く、どうして莉子さんとつるんでるのかなーとか、どう言う関係なのかなーとかを知りたいんすよ」

「あいつには、世話になってる。親父がリストラに遭った時に、俺が莉子と知り合いだって理由だけで、親父を拾って、菱川グループの系列会社に入れてくれたんだ。そのお陰で俺達家族は、今もこうして生きられてる。莉子には、そして菱川グループには恩義がある。俺が一緒にいられる時は、何があってもあいつを守るつもりだ。あいつの為なら、何だってする」

「成程、男らしいっすね」

「そんな格好いいもんじゃねぇよ。ただ、世話になった恩は忘れねぇって言う、当たり前の事をしているだけだ。莉子には言うんじゃねぇぞ」

「ふんふん、ありがとうございましたっす。また何かあったら、連絡させて下さいっす!」

 昌司との電話を切り、圭は一つため息を吐いた。

「成程成程、怪しいっすね~」

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