第63話 ポイント集計の結果

 僕の保護者権を譲り合うかの様なプロフとの駆け引きはエフテが折れた。


「見てられない、ね。まあそういう事にしておきましょうか。仲間を大切に思うのは大事だからね」


「正直、キョウに関して言えば庇護欲をそそられるのは事実だけどね。みんなもそこは前提でしょ? 色恋とかじゃなくてさ。使命感みたいな? それに、キョウが弱いから守りたいってのは違うもんね。キョウは強いでしょ」


 サブリがまとめるように言うが、僕としては強いなんて自覚は無い。

 ていうか積極的に戦いたいって気持ちは薄いんだぞ?


「強いからこそ、キョウを失えないって気持ちが俺たちの無意識下にあるのかもな。いや、忘れてしまった記憶に理由があるのか?」


 いや絶対アリオの方が強いだろうが。

 

「唯一、過去の記憶を持つサブリだからこその感覚かしら。でも覚えていないんでしょ? キョウと、ミライ? のことは」


「特殊任務を帯びた戦闘特化メンバーだった?」


 エフテとプロフの妄想も捗るな。


「そっか、あたしたちの研修旅行は、戦闘に特化した非合法の戦闘員をとある惑星に送り届ける秘密作戦のためのカムフラージュだったんだよ!」


「何が秘密作戦だ! 何がカムフラージュだよ! 記憶を無くして無自覚な僕に妙な配役を振るなよ! だいたいさっきから、たまたま僕が短刀をうまく使えたり、ボス敵の名前を知ってたり、そのボスを倒したり……」


 あれ、これって疑惑に塗れてないか?


「語るに落ちるとはまさにこの事ね」


「とにかく! 僕は知っている事以外は知らない、ただの貧弱な坊やなの! これからだってビクビクオドオドしながらのんびりやるんだよ」


 まあ、三年の期限は守るつもりだけどな。


 ふいに『ピロン』と通知音が全員のデバイスから聞こえる。

 同じ動きで内容を確認し、ほぼ同時に声が上がる。


「な、んだと?」「おお……」「ちょ、あたしも?」「レベル3?」


「このタイミングで……キョウ、催促されてるわよ?」


 エフテに指摘されるまでもない。

 デバイスのモニターに表示された各員のレベルとポイントは、僕らを次のステージに誘うことを示していた。


 キョウ―LV3:20000P

 アリオ―LV5:40000P

 エフテ―LV3:20000P

 サブリ―LV3:20000P

 プロフ―LV3:20000P


「何が集計中、だ! これ絶対途中でめんどくさくなっただけじゃん!」


 責任者出て来い!


「俺の場合、レベル5の装備が選べるってことだよな。どれどれ」


 アリオは早速ポイント交換可能な装備の確認か。


「アリオ、リストをコモンに送ってくれる?」


 堅苦しいルールの制約があるから、個々には到達レベルのリストしか表示されない。

 なのでアリオに開示されたレベル5までのリストを共有するようにエフテが頼む。


「あいよ、ちょっと、待って……ほい、上げたぞ」


 エフテがテーブルのモニターに表示させる。

 僕らに開示されたレベル3からずらりと並ぶ新装備の数々。


 ・1000:L3 短刀(キョウ専用)

 ・3000:L3 高振動ブレード(よく切れる)

 ・4000:L3 連射式ボウガン(自動装填式。装弾20本)

 ・5000:L3 火炎放射器(射程10メートル)

 ・10000:L3 レーザー銃(射程10キロ。連射不可。5秒チャージ)

 ・10000:L3 10連装有線ミサイル(超小型20ミリ×100ミリ。手持ち、有線誘導)

 ・10000:L3 全天候強化スーツ(耐火、耐熱、耐冷、耐ショック)

 ・10000:L4 オフロードバイク

 ・12000:L4 ショックアブソーブシールド

 ・12000:L4 高機動シューズ

 ・15000:L4 4輪バギー

 ・18000:L4 Dドローン(直上待機、自動防御)

 ・20000:L5 水上バイク 

 ・30000:L5 装甲車

 ・35000:L5 Aドローン(直上待機、自動攻撃)


 これ、どうすりゃいいんだ?

 到達レベルぎりぎりのポイントしか持っていないわけだから、たとえ低ポイントの短刀を一つ選んでも、僕のポイントは19000になり、レベルも2に戻ってしまう。

 アリオなんか最高の35000ポイントでAドローンとやらを選ぶと、残りポイントは5000。一気にレベル1に逆戻りだ。


「重要なのは、それぞれの特性に合わせて特化した装備を選びつつ、レベル2をキープすることかしらね」


「なんで? とりあえずレベル3の装備に10000使って、残りはレベル2の装備選べばいいんじゃないの?」


 エフテの提案にサブリが頭をひねる。


「訓練するつもりがないならそれでもいいけど……」


「そっか、娯楽室、訓練室はレベル2以上だもんな。でも外で倒してきた方がポイントは高いんじゃないのか?」」


 プロフが諭し、アリオも納得しつつ新たな疑問を呈する。

 そりゃあ、戦闘シミュレーターより実戦の方が、積める経験は圧倒的な差があるだろうけど。


「その分、外で稼げればいいんだけどね。わたしたちの倒したギガスが、この辺りの生態系にどんな影響を及ぼしているか確認してないでしょ? 外に出たら誰もいなくてポイントを稼げない。戦闘シミュレータも使えない。詰みでしょ?」


「なるほど! さすがエフテ!」


 素直に頷くサブリと、汗をかいているアリオ。

 こいつ、さては限界までポイント交換するつもりだったな?

 それにしても。


「帰って来てからまだ外に出てないのか?」


「みんな心配しながらキョウを待ってた……」


 ぐ、罪悪感を抉るなよ。


「確認したいことはいろいろあるのよね。竪穴に残したドローンや、岩山の地下空洞とか」


 プロフの声に金色の巨人を思い出す。


「えっと、エイジスは結局どうなったんだっけ?」


 帰りの車の上で聞いたかもしれないけど、確認しておこう。


「全員を引き上げてくれて、こっちの質問に答えずに飛んで帰ったわね」


「で、誰が乗ってたんだっけ?」サブリが首をかしげる。


「聞いたけど回答は無かったわね。無人、メロン、六人目。または見知らぬ第三者。そもそもこの船の装備かも、それ以前にエイジスかどうかすら分からないけどね」


 エフテの呟きに疑問を抱く。


「そうなの?」


「そうなの?って、元はと言えば、あなたがエイジスって言ったのよ?」


 そうだっけ、覚えてない。


「でもあれがエイジスだとするならばさ、俺はあれがほしいな! もうこれからポイントは溜めるだけにしていいか?」


 アリオの鼻息が荒い。


「そこは保留にさせて。さっきも言ったけど、外の脅威を確認することから再開しましょ。ポイント交換はそれからでも遅くないわ。キョウも起きたし、わたしとしては外に出てみたいんだけど」


 エフテの提案に、皆が頷く。


「調べるついでにさ、あれも調べたいな、ギガスの武器」


 サブリは思い出したとばかりに言うが、それを聞いた僕は、何故か不快な気分が湧きあがった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る