iris
第61話 戦士の休息
「え、どちらさま?」
「けだもの……」
「腎虚になるわよ?」
「まあ、そのくらいにしておいてやれよ。ところで右腕はどうだ?」
「そ、そうなんだよ、やっと完治したけどさ、右腕の治療で面会謝絶でさ、感染症の恐れもあってさ、みんなにも迷惑がかかるからさ」
「あたしの名前覚えてる?」
「ケダモノ……」
「それだけ元気ならもう何も心配ないわよね」
「まあまあ、俺たちだって静養できたわけだし」
「と、とりあえずさ、えっと、おはよう」
「……いじり甲斐がないわねぇ、ま、いいか、おはよう!」
「わんわん」
「おはよう。それで腕は本当に大丈夫なの?」
「おはよ、ってそれ俺が聞いただろうが、ま、みんな揃ったことだしメシにしようや」
久しぶ……三日ぶりに会ったみんなは少し懐かしい感じがする。
いやあ、正直な話、二日間は意識不明で、昨日やっと覚醒したんだよな。
それだけ地下の戦いが激しかった……ま、その後の戦いも激しかったんだけどさ。
「なにニヤニヤしてんのよ」
トロピカルフルーツ盛りを貪るサブリにジト目を向けられる。
「記憶の反芻?」
プロフの前。カラフルなハンバーガーかと思ったら、でかいマカロンかよ。三つもあるぞ? 思い出してねーよ。何をだよ。
「まさかこの三日でピンク色の記憶に染まりきっていないでしょうね。この後はたっぷり反省会をするんだからね」
淡水魚の串焼きをぱくつきながらエフテが睨んでくる。
「えっと、反省会、やってないの?」
くそ、エフテのことだからとっくにやってると思ったのに!
なんで面倒な作業を残しておくんだよ。
「いや、キョウ、めんどくさそうな顔してるけど、お前の話を聞かないと始まらんだろうが」
「それより、何? その丼」
「これか? 見ての通りうどん丼だけど?」
見ても分からないっつーか、分かりたくないから聞いてんだよ!
ごはんの上になんでうどんが載ってんだよ、バカかお前は。
「アリオも、激辛カレーに抹茶アイストッピングする味覚破綻者に言われたくないと思うわよ。もう、メニューに制限するって話はどうなったのよ」
エフテはため息を一つ、僕に問う。
「僕に聞くなよ」
「……メロンがいないから、あなたに聞いてるの」
「直接言ってくれ」
「会えないから、言ってるんじゃないの……」
まあ、この三日間、ほとんど僕の部屋にいたみたいだしな。
ていうかずっと隣で寝てたみたいだ。
ちなみに今朝は見ていない。
帰ってきてすぐの騒動もあるから、みんなと顔を合わせづらいのかもな。
もしくは、前にエフテが抱いていた疑問が解消され、その結果、一緒にいられないと思っているのかもしれない。
人間とホムンクルス。
でもな、彼女の流した血液と、僕らに流れる血液の色が違うからなんだってんだ。
肌の色だって、髪の色だって、目の色だってみんな違うだろ。
血の色だって、個性の一つだろ?
あいつは、僕たちの活動に不可欠だ。
……いや、そうじゃない。
少なくとも僕にとって、失ってはいけない存在になっている。
そのことをまずは認めよう。
―――――
「それでは改めて反省会を開きたいと思います。キョウ以外とはそれなりに情報交換をしたけど、キョウに教える必要もあるから、繰り返しになってもごめんね」
「全然構わないぞ。むしろ助かる」
「ていうかアリオはずっと娯楽室に籠りっぱなしだったじゃないの! とっかえひっかえあたしたちを連れ込んでさ!」
アリオが何も考えて無さそうな顔で言うとサブリが反応する。
え、みんなで乱……僕も混ぜろ。
「キョウがワクワクした顔をしているから説明するけど、この鬼教官に三日間、体を休めるどころか地下行軍よりハードな生活を送らされたのよ? あなたが起きるまでって条件で」
エフテ姉さんが怖い顔で睨んでくるんですけど、助けてプロフ妹!
「私、嫌だって言ってるのに、無理やり、何度も何度も……」
いや、洒落にならんからそんな顔して呟くなよ。
「でもさ、これで分かったでしょ? あたしに戦闘能力は無いってさ」
ドヤ顔のサブリ。この状況下で弱さを誇るってメンタルもすげぇな。
「いやそんなこと無いぞ? サブリは広域の空間認識能力と対象の軌道予測が抜群に上手い。中、遠距離からの支援攻撃は群を抜いている」
群を抜いている事を抜群て言うんだろうが。
「え? そうかな?」サブリもあからさまに照れるなよ。
「ついでに言っておくと、プロフは動体視力と機動力、相手の脅威度予測が天下一品だ。いわゆる避けタンク的な守備力が抜きん出てる」
「地下でさ、盾の使い方が見事だったのよね。あの素材の盾でウサギの角は保たないはずなんだけど、当て方がすごかったよ」
アリオのプロフ評に、うんうんと頷くサブリ。
当のプロフはぼんやりとした顔で呆けている。
「そうね、地下に潜る前の003との近接戦もすごかったし、地底湖での007との戦いも大したものよ」
「007って?」初耳な言葉。
「E―007、ムカデスネークだって。ネーミングセンスを問いたいわよね」
エフテが苦笑する。
今までも、エネミーリストはコモンデータにいつの間にか登録されていたけど、そうか、登録するのはメロンだったか。
「よく敵の特徴が分かるな、って行動記録から?」
「そう。回収されたゴーグルの記録からでしょうね。個々の行動、言動、バイタルはメロンに筒抜けだからね?」
エフテの指摘に、さぁぁぁと頭から血が下がる感覚。
どんな行動、発言をしたか高速で思い出す。何故って? 言い訳を考えるためだ!
「視線もばれちゃう。興味深いデータ……」
プロフの呟きに戦慄。
どこを見てたとか言い訳できないじゃん!
えっと、発育具合から類推した戦闘力の確認、とか?
僕のプライバシーが息をしてないぞ?
「キョウの嗜好や性癖はさておき話を戻すわよ。アリオ教官のしごきで個々の特性と言うかいろんな事が分かったのは収穫よ。簡単に言うとね、なんでポイントやレベル制限みたいなものが設定されているか、キードリンクの効果とかね」
「因みにエフテは状況判断に特化してる。戦闘はCだけど戦略・戦術立案といったいわゆる軍師的な素養は東西一だな」
天下一品だの東西一だの、評価基準を統一しろよ。
まあ、アリオに評されるまでもなく、地下の旅でエフテの冷静さはよく分かったからな。
「で、アリオの特性は?」
「聞くまでもないでしょ? 戦闘マシーン。アンド鬼教官」
サブリがげんなりと答える。
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