第38話 闇の回廊
北向き、最大の横穴以外の三つは、途中でかなり狭くなっていて、人は通れるけど無理して調べることは止めた。
念の為、エフテがアリオに簡単に連絡しておく。
「窪地の大穴に横穴を発見、そっちの岩山に向かってるみたい。少しだけ探索してみるわ」
『気を付けろよ? こっちも岩山の洞窟をいくつか見てる、散発的に会敵あり』
「時間になったら合流するわ。位置的に横穴を2キロも進めば着きそうだけど」
『上下が合わない可能性大。大群が潜んでたらまずい。ちゃんと地上から来いよ』
「了解です。じゃあね」
エフテが通信を切る。
縦穴の中でも通信は問題ないな。
それぞれの索敵ドローンが中継してるんだろうけど。
「じゃあドンちゃんが先行ね。空間マッピングと自分の位置とわたしたちの位置を表示。移動に支障のない程度の照明で。わたしたちが10メートル以上離れたら待機」
エフテの直接音声による指示を受けたドローンがふよふよと進み始める。
時速は2~3キロ程度。
全方位照明が穴の奥を映し出しながら進む。
「ドンちゃんて、なに?」
「識別よ。索敵ドローン一号! とかいちいち呼んでられないでしょ?」
「どんちゃん……うふふ」プロフも小さく笑う。
「なによ。へん?」
「変じゃないよ、ただ、緊迫した場面でちゃんと呼べるかなって」
「そんな場面が無い事を祈りましょ。さて、横幅もあるから並んで行きましょう。プロフが真ん中で」
エフテは言いながら左側に位置するので、僕が必然的に右に移動する。
「後方監視はどうする?」念の為聞いておく。
「直上に残したドローンからの……そうね、ちゃんと自分たちで後ろも見ておきましょう。キョウ、お願い」
「あいよ」
言いながら右の壁を背にして横歩き気味に歩きながら、電磁砲を前後に素早く往復させる。
プロフが微妙な顔をしているけど気にしない。
傍から見れば滑稽だろうとも、安全には変えられんのだ。
基本的には下り傾斜の道。左、右と大きく湾曲し、20メートル程度しか進んでいないのに、後方に見えていた入口の光が見えなくなった。
「前後の照度が足りないな」少し不安になる。
「うーん、光は便利だけど相手からも良く見えちゃうんだけどね、ドンちゃん、前後ハイビームで」
周辺に比べ前後、かなり遠方まで視界が開けた。
とはいえ、まっすぐじゃないから見通すまではいかない。
「岩が多いな」
横壁から突き出したような抱えられそうな岩や、地面の凸凹も大きくなってきた。
自然に浸食されてできた洞窟なんだろうか。
「そのおかげで、ここでは004も通れないだろうけどね」
確かに、いつの間にか3メートル四方くらいまで狭くなっている。
そのまま歩き続けるとさらに狭くなっている気がする。
ピンクボムが通ろうとしてもぎゅうぎゅうになるだろうけど、あいつ、ぐにゃぐにゃしてたよな。前後に伸びれば……。
「ちょっとこれ以上は危険じゃないかな」急に不安になる。
「まだ100メートルも進んでないけど、そうね、いったん戻ろうか」
「なんか、匂う?……」
エフテの提案に被せるようにプロフが囁く。
ゴーグルに毒などの大気成分アラートは出ていない。
「プロフ、何の匂い?」エフテが素早く聞く。
「けものっぽい……」
エフテもプロフも前方に電磁砲を構える。
そりゃあそうだ。
さっき風は奥から流れてきた。
敵の匂いがあるなら、それは前方からだろうさ。
止まった僕たちをそのままに、ドンちゃんはゆっくり前に進む。
光源が離れ、周辺の光がゆっくりと闇に浸食されていく。
ゴーグルに索敵情報は来ない。
でも、僕らの緊張感は増大していく。
同時に、嫌な予感と気配が増えている。
敵を発見するためにドローンをそのまま先行させた。
先手を取るために。
視認以外で相手を発見したという事実が欲しかったんだ。
これまでの地上での戦いの様に。
サーチアンドデストロイ。
先に発見され、狩られる立場にならないために。
ふと、後ろを見る。
いつの間にかそこは闇に塗り固められていた。
手を伸ばせば、見えない何かに触れそうな、何かを隠すにはちょうどいい闇の
ここまで横穴なんか無かった。
入口にはドローンが待機してる。
ゴーグルのマップ情報も洞窟の軌跡と僕らの位置を表しているだけだ。
ごり
例えれば岩が動く、そんな音が聞こえた。
「エフテ、ドンちゃん戻せ!」
「キョウ?」
僕はヘッドライトを点け後方を照らす。
照度はドンちゃんに劣るが、右に湾曲する通ってきた道が見える。
と同時に何かが駆ける音!
「後ろだ!!」
牽制に電磁砲を10発ほど斉射する。
「なんで後ろ! 何もいなかった!」
プロフも声をあげつつ後ろに構える。
同時に索敵アラート。003が三体!
素早い影のような奴らはいつもの二足歩行じゃなく、四肢で跳ねるように接近する。
速いし不規則だ。
残弾を気にせず電磁砲を振りながら乱れ撃つ。
動くモノがいなくなったと理解した時、僕の残弾は8になっていた。
「プロフ、残弾は?」
「21……」
「なんで、後ろから?」静寂の中、エフテの呟きは、後方からの騒がしさに消える。
「まずい、大群だ。奥に逃げるぞ」
現時点で確実なのは、後方からの襲撃なんだ。
退路は前にしか無い。
二人を促し走り出す。
「メロン! 聞こえるかメロン!」
走りながら音声発信した結果は、NO SIGNALの表示でエラーとなった。
「通信途絶!」
すぐにドンちゃんに追いつく。
「ドンちゃんスピードアップ。前後ハイビーム照度最大」
エフテが的確に指示。
冷静さは失っていないみたいだ。
プロフは、どうだ?
三人とも足場の悪い中、荒い呼吸をしながら懸命に走る。
僕らだっていつまでも走れない。
どこかで打開しないと。
でも、武装は三人の電磁砲とサバイバルナイフ。
ドンちゃんにぶら下げてあるバッグに地下探査装備。
それだけだ。
ミサイルランチャーも手榴弾も無い。
「も! ダメ! はしれ、ない」
プロフが止まって膝に手を着き荒い呼吸を続ける。
「少し先、広がった、空間がある、そこで、要撃しましょう!」
確かに、前方50メートルほど先に直径10メートルほどの空間があることをゴーグルのマップが教えている。
同時に、後方に索敵アラート。
003が、10、12体!
距離は50メートル。
くそ、あいつらなんで暗闇で動けるんだよ!
「エフテ走れるか?」
「わたしは大丈夫!」
返事を聞き、電磁砲を捨て、すぐにプロフを抱きかかえる。
「え、ちょ! キョウ」
「黙ってろ!」
気合を入れて走り出す。
膝が悲鳴を上げる。
エフテと二人で、先行したドンちゃんの待つ広間に駆け込む。
寸前、位置情報アラートが大音量で鳴り響く。
飛び込んだ先に、足が着く床は無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます