第37話 地下へ誘う

「さて、話はだいぶ反れちゃったけど、結論としてあの穴に爆発物を投げ込むのは保留。実際に中を調べてみましょう」


「そうだね、僕らは僕らでちゃんと考えて行動しないと」


 知らず知らず、いつでもメロンを頼る癖がついているのも事実。

 アシスタントとして運用するのは間違いじゃないけど、過分な信用は避けるべきだろう。

 それこそ、いざという時に自己判断が出来なくなる。


「それに、誰かさんの事は全力で守ろうとしてるみたいだし」


 穴に向かいながら独り立ちを決意しているとエフテが小声で言う。


「なんのこと?」


 エフテはゴーグルを外して続ける。


「さっき、キョウが先行したとき、メロンが何か言ったの?」


「うん。止まれって、聞こえなかった?」


 エフテは、やっぱりね、と呟きながらゴーグルを着け直す。

 

「少なくともあなただけでも死なせない意志が見えるわよ。あなたがメロンに対しロボット的な義務感しか存在しないと思うなら、それは間違いだと思う」


「?」


「言ったでしょ? あなたたちを見てると、狂言回しの気分になるって」


「よく分からないんだが……」


「分からなくてもいいから、あなたはあなたで、他人の価値感なんか気にせずにいればいいの。そしてちゃんと自分の想いに向き合ってほしい。なんとなくだけどね、あなたとメロンさえいれば、なんとかなるんじゃないかって思うから」


 ニコッと笑い、話はこれで終わりとばかりにエフテは僕の側を離れる。

 きっとエフテは僕を励ましてくれたのだろう。

 その証拠に、僕の心はずいぶんと軽くなっていた。


 大事なことは想像から類推する推測じゃない。

 実際に体感した事実だ。

 過去や明日じゃ無く、今とその先に求める未来。

 少なくとも、僕は無事に帰還して、今日メロンに助けてもらったお礼を言おう。


 そう思ったんだ。



「横穴が、あるね……」


 大穴に辿り着き覗き込むと、穴は8メートルほどの深さがあり、プロフが呟いた通り不規則な間隔で四つの横穴があった。


「ざっくり調べてみたいな」


「そうね。ねえメロン、索敵ドローンは地下での運用は可能なの?」


『……太陽光が拾えませんので、内臓電池のみで約4時間。進入可能空間サイズは1メートル四方。但し、こちらからの遠隔操作ですと通信不良になる恐れがあります』


「自律で移動して映像を送るだけなら?」


『位置によって通信が届かない場合は同じなので、録画したものを後で見る形になります。また緊急時、ドローンに帰還指示が出せない恐れもあります』


「……随伴なら?」


『……隊員と通信の届く範囲であれば双方のリンクは保たれますが、隊員とこちらのラインが途絶する可能性があります』


「その場合メロンのサポートは望めない、か。どうする?」


 エフテは僕に向き直る。


「通信不良って、ありえるの?」


 電波だかレーザーだか分からんけど、星の裏側や外宇宙にだって信号は届くと思うんだが。


「正直、違和感はあるけどね。可能性だけで言えば通信波に影響を与える鉱物とか、ジャミングする生物がいるのかもしれないから、安全マージンを多く見積もってるのかもしれない」


 そうだな。実際には今だって、ゴーグルとかの通信端末が無ければ、電波が通っていても通信できないもんな。


「スタンドアロンでの行動も早めに経験しておく必要があるか」


「一人でなんか行かせないわよ」


「そうじゃないよ、言い方が悪かった。保護者抜きってこと」


「あら、不良息子は親の目を盗んで異性と三人で何をしたいのかしらね」


 エフテは悪そうに笑うが童顔なのでちっとも悪そうに見えない。

 それでもメロンに対し十分な挑発になったみたいだ。


『……お、お好きにどうぞ! ワタシだってずっと見てるほど暇じゃありませんから』


「ドローンのいない場所なら……」


 一瞬だけニヤリと笑うプロフ。

 なに、僕の貞操の危機なの? あれ貞操の定義ってなんだっけ?


「冗談はともかく、実際に横穴を確認するということでいいわね」


 エフテのまとめに僕とプロフが頷く。


 横穴は大きいもので4メートル四方ほどの開口部がある。

 最少でも縦2メートル。途中までは十分人が入れる大きさだ。


「メロン、ドローンに照明はあるのよね」


『……あります。照度や照射範囲によって稼働時間に変化がありますが』


「よし、じゃあ索敵一機とコンテナはこの上に残して、周辺索敵。索敵範囲が10キロモードだと、せいぜい動くものを発見できる程度なんだっけ?」


「そうだよ。詳細情報は1キロモード」


「じゃあ1キロモードで。何かあったらすぐに警報ちょうだい」


『繰り返しますが、横穴の深度や遮蔽物によって、正確な通信に異常をきたす可能性もありますのでご注意を。できれば詳細な調査はアリオたちと合流してからが望ましいと進言いたします』


 なんとなく不安そうな声色に感じた。


「大丈夫だよ。光が入るギリギリくらいまでしか行かないから」


「それじゃ調査にならない……」


 そんなプロフの言い方が、臆病者と責められている感じがした。



 コンテナから地下探査用の装備が詰まったバッグを取出し、随伴するドローンにぶら下がって竪穴の底に降りる。


 地下装備の中からヘッドライトを取出し頭に装着しておく。

 こいつの内臓電池は点けっぱなしでも三日くらいは保つらしいから用心だ。


「ドローンって意外と力持ちなのね」


 続いて降りてきたエフテが言う。


「この前コンテナにぶら下がって移動したときはもっとスリルがあったけどね」


 アリオの戦場に駆けつける際は騎兵隊の気分も味わった。

 それにしても、補助用のドローンでこの性能なんだ。

 恐らく解放を待ち構えている高速高機動用の戦闘ドローンに期待大だ。

 それ以前に、早く歩きに頼らない移動手段がほしいもんだ。


 最後にプロフが降りてきて、二人にもヘッドライトを装着させておく。

 ドローンに残りの荷物をぶら下げ直し、随伴の準備を行う。

 索敵ドローンの形状はコンテナドローンに似てるけど、コンテナ部がまるまる省略された形。

 大きなキノコか椅子にも見えるな。


「北向き、岩山方面の穴が一番大きく、他の三つは意外と小さいわね」


 どれも自然に出来た洞窟って感じの横穴。

 ざっと見る限り、北以外の穴は閉塞感を感じる。

 北向きの横穴は4メートル四方、まるで地獄へ誘う入場口のようにも感じた。


「風が吹いてる……」


 プロフが目を細め不安気に言う。

 少し冷たい風が奥から流れている。

 臭気は、特に感じない。

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