第6話 キョウの戦闘

 現在稼働できる隊員は僕一人なので、船外活動にはいくつかの制約がある。

 戦闘の有無に関わらず、外に出るのは二日に一回。

 しかも4時間以内。

 途中、船内で休憩する場合など考慮しての合計時間となる。

 更に、移動可能圏内は船の周囲、半径1キロ以内。

 敵性生物の追撃などもこの範囲内で行う。

 自分が逃げる場合は必ず船内に戻る。

 

 なんとも過保護な規制だけど、実際の僕はこれらの制限の半分くらいで行動してる。

 外出自体は、船内にいても退屈なので二日に一度を守っているが、2時間以上外にいたり、500メートル以上船から離れたりしたことはない。

 ビビりで結構!

 石橋を叩いて渡らない慎重さが僕を延命させるのだ。


『何も手に入りませんけどね、具体的には経験値』


「お前が言ったんだ、長く生き続けることが目的だって」


 僕がいつも通り船の周囲をゆっくり歩いていると、それを呆れて指摘するメロン。

 位置情報は筒抜けなのだ。


 正直な話、この仕事? に対するモチベーションなんて、274年と忘却の結果、はっきり言って皆無に近い。

 何もしなくて済むなら、毎日、船の中でのんべんだらりと過ごしたい。


『声に出てますよ? 反逆罪で粛清されますよ?』


「誰にだよ」


『本船の執行者』


「こんな辺境の惑星になんか来るもんか。 大体、本体から274年分は離れてるんだろ? 量子通信でもちゃんと届くか怪しい」


『試してみます? 謀反の疑いありって惑星破壊爆弾が飛んでくるかもしれませんよ』


「たたた試さんでよろしい!」


 くそう、このスパルタ監督者め。

 正直な話、僕程度の少年を含む六人が送り込まれたという時点で、なんとも微妙な話なんだ。

 一隻の宇宙船、六人の隊員、一体のホムンクルス。

 これで一つの惑星を掌握しろって話。

 そう言った計画の話としてのデータは大量にあるのだが、実例とか参考データがコモンデータの中で閲覧禁止の時点でお察しだろうがよ。

 メロンは「モチベーションを維持するためです」なんて言ってたけど、そもそものモチベーションが無いんだから維持もへったくれもない。


『まあ気を落とさず、捨石じゃなく、エリート集団という可能性だってありますから。くすくす』


 読むな心を。

 お前が笑ってる時点で嫌な予感しかしねーよ。


 ゴーグルに索敵情報が浮かぶ。

 1キロ先に複数の敵性生物だ。

 索敵範囲自体は最大で半径10キロ。

 ただ、僕の移動範囲は1キロなので、先日のE―004(ピンクボム)みたいな脅威度でもない限り、戦闘可能区域に入らないとアラートが出ない設定にしてある。

 この惑星の中で、もっとも脅威度の小さい、敵性生物が少ない場所に着陸したのは隊員が健全にレベルアップするための安全措置だ。

 ゲームで言う始まりの村みたいな。


 そして今、索敵範囲に入ったE―001(ホーンラビット)たちは、各所に存在してる。

 角の生えたウサギ。

 ウサギ本体はラブリーな容姿でモフりたい衝動に駆られる。

 だが角がいかん。禍々しすぎる。

 捻じれ曲り、脈動している赤黒い槍は、それ自体が寄生生物のように見え、正気度がダダ下がる。

 それにこいつら、どんな理由かわからないけど、僕をめがけてやってくる。

 メロンは匂いと言ってたけど、どうもそれだけじゃない。

 あれか? 索敵スキル的な何かを持ってるのかも。


 もちろん僕だって科学の力で索敵能力を持っているんだから、おあいこではあるんだけどさ。

 それに、あいつらと違って長距離攻撃手段がある。


 僕は電磁砲を構える。

 筒を小脇に抱えると言った方が明瞭か。

 トリガーもスコープも無い。

 ゴーグルと連動した照準に合わせ、視線でトリガーを

 慣れるまでは大変だったけど、慣れてからはこれしかできないって思う。

 ポイント交換可能な銃器の中には指で引き金を引くタイプの銃もあったけど、こっちの方が断然いい。

 トリガーを引くという物理的な動作が無いだけで的中精度は段違いだ。


 僕は合計3体の「E―001」を狩り終えて船に帰ろうとする。


『後方182°方向、距離1万に新たな敵性生物。目視で確認願います』


 メロンからの事務的な指示に、面倒と思うけど異論を唱える理由はない。

 岩山に偽装してある船を小走りで大きく回り込み、後部から指定方向をズームする。

 鳥か?

 速いな。すでに相対距離は5キロ以内だ。


「鳥形、猛禽っぽい、撃っていい?」


『連射推奨、射線予測モードに移行』


 高速移動体の場合、射撃位置と着弾位置に差ができる。

 そのため移動予測位置を撃つ必要がある。


 予測位置に三連射。

 緩急をつけて躱された。

 これはヤバいかも?


 鳥型は、僕に向かってほぼ一直線に飛んでくる。

 更に三連射。

 左右上下に避けやがる。


『螺旋を描きながら範囲を広げて』


 メロンのアドバイスに従う。

 三連射しながらゆっくり砲身を回す。


『弾速調整こっちでします』


 総装弾数は50発。

 すでに30発以上消費。

 メロンを信じ回し撃ちを継続する。

 残弾数が赤文字の5になり、ゴーグルのズームを必要としない近距離で、やっと銃弾は鳥の体を引き裂いた。

 断末魔の咆哮がうるさいくらいに聞こえる。


『E―005に登録しておきますね』


 僕はしばらく動けない。

 この星で活動を開始して以来初めて感じた命の危険。

 どこかでゲームの様に感じていたぼんやりした脳みそに、大きなパンチを浴びたみたいに動けなかった。


『キョウ? 大丈夫ですか?』


 珍しく心配そうなメロンの声に呼ばれ、やっと硬直した体が再起動した。


 警戒しながら船に戻る。


 洗浄中、全裸の体は寒くもないのに震えていた。

 恐怖、なんだろうな。

 漠然と考えていた、この星の生物を駆逐するという行為が、自分の命を賭けていることにやっと気付いたと言うべきか。


 着替え、居間に入る。

 サポートしてくれたメロンに感謝を伝えようとするがいない。

 寝台か彼女の私室か、いずれにせよ立ち入り禁止区域には入れない。


 とりあえず休もうと居住区の通路に入る。

 最奥の僕の部屋の手前、扉が開いてる。

 覗きこんだ室内のベッドには知らない誰かが横たわっていた。

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