ヴィジターキラー異空譚「異世界転生者を許すな」

戯言ユウ

第1話 始まりの災禍

 ある日のことだった。


「ふわぁ~・・・・・・・今日はテストかぁ・・・・・嫌だなぁ」


「数学でちょいちょいテストしているのだって、何度もやっているだろ」


 僕が口にした不平不満に俊也が突っ込む。確かにそうだけどさ・・・・・憂鬱なものは憂鬱じゃん。


「それとも、この前みたくご褒美がなきゃやれない口か?」


「クリーム、パン・・・・・!?」


「お前はぶれねぇな」


 そりゃだって、甘いもの大好きなんだもん。仕方ないさ。


「でも、僕たち、色々な事に対して随分慣れたよね」


「まあな。魔法だとか何だとか、ゲームの中の世界だと思っていたからな」


 僕たちは今、「異世界事件」に直面している。この世界と別の世界でつながりが出来た人間が巻き起こす、凄惨な事件。僕たちはそれに巻き込まれる形で様々な事を体験した。


 詳しいことは省略するけど・・・・・・要するにとんでもない事だ。


「今なら何が起きても動じない自信があると思う」









「目の前で人がいきなり爆発したりしない限りは——————」


 直後、目の前を歩いていたサラリーマンの頭が破裂した。









「ぎゃあああああああああああああああああああ!?」


「なっ、えっ?!」


 あまりの出来事に、僕は思わずたじろいでしまった。歩いていた通学路に耳をつんざくような悲鳴が上がり、たちまちパニックに陥る。


 そして、それも続かなかった。


「がぁああっ!?」


「ぎゃぁあああああ!!」


「俊也、これ、どういうこと・・・・・?」


「知るか!!俺だって何が起きて—————————」


 と言って上を見上げる俊也。すると何かに気付いたらしく、僕の制服の襟首をつかんで乱暴に店の軒下に投げ込んだ。


「うわぁっ!?」


「上から何か降ってきている!!」


 言われて軒下からのぞき込んでいると、何やら光の矢が雨のように降りしきっていた。それに当たった人は体が裂けたりはじけ飛んだりして、凄惨な光景を作り出す絵の具となっていく。恐怖と驚きの絶叫が、今では苦痛と慟哭の混じる断末魔に変わっていた。


「っ・・・・・・・・・・!!」


「しばらく隠れていろ。死ぬぞ」


 死ぬ。俊也の口にした一言が、今までに無いくらい生々しかった。死の雨が降り終わるまで、僕らはただそこに隠れているしか無かった。













『○○、××、・・・・・・地区の皆様、不要不急の外出は控えるよう、お願い致します。こちら○○市役所で—————————』


 その日は、臨時休校になった。正確には、この事件が解決するまでは僕らの住む町の人々は外に出ないように、とのことだ。先ほどの様に死の雨が各地で確認されたらしく、その原因の解明を警察が行っているらしい。幸いにも建物の影に隠れたりすれば避けられるようで、怪我人は案外少なかった。


 でも、それは「怪我人」。「死人」じゃない。


「カルマさん!!俊也さん!!」


「華!!」


「ウサ公も来ていたか。カルマの姉貴はどうした?」


「海香さんなら家に居るわ!」


 通行規制をかけられた現場から離れると、息を切らしながら華さんとウサムービットが駆け寄ってきた。


「あれはなんだったのですか?!あんなに・・・・恐ろしいことが・・・・・」


「多分、異世界がらみの事だと思う。こんなこと、この世界じゃ起こるはずがない」


「あたしもそう思う!!こんなの非道すぎるよ・・・・・・・」


「まあ、順当に考えればそうだろうな」


 雨も降っていないのに雨宿りする僕ら。俊也はしきりに空の様子を気にしている。


「問題は、ここからどう動くかだ。さっきの光の矢がいつどこから飛んでくるのか解らない以上、下手に動けないぞ」


「そうですね。一歩間違えればあんなことになると考えると・・・・・・」


 華は青ざめた表情で頭を抱えている。そりゃあ、あんな惨状を目の前で見たら・・・・


 すると、ウサムービットが遠くの方を指さして声を上げる。


「ねえ!!あそこに誰かいる!!」


「本当だ!!あんなところに人が居る!!」


 どこかのビルの屋上に、人影が見える。なんだろう。黒い生地に水色のラインが走る近未来的なコートに、同じ水色の蛍光色に発光するマフラーを巻いた人間が立っていた。あんなに目立つ格好なのに、なんで誰も気付かないんだろう・・・・・・・・


 すると、その人物が不意にこっちを向いた。








目が、合ってしまった。








「へえ、こんなところにも隠れていたのか」


 好戦的な微笑みを浮かべる男の人が、目の前に居た。直後、水色に輝く剣のようなものを振り下ろしてきた。









「うわぁあああああああああああああ!!」


「きゃぁあああああああああああああああ!!」


 僕らは悲鳴を上げながら裂けるように避けた。ヒュン!!とやけに軽い音とともに水色の剣戟で一瞬壁が出来る。恐らく刀身は、目測で1メートルは優に超えているだろう。


「あれ、こんなに簡単に避けられるなんて。“俊敏性”が高いのかな?」


 男の人は意外そうな表情で華さんを見ている。よく見ると握られている剣は柄の部分が機械で出来ていて、刀身の部分は水色のエネルギー体で構成されている。うわ、なんかCMで見たことある。確かこんな近未来的な装備をした剣士が、3Dのマップを自在に駆け回るオンラインゲーム・・・・・・・何だっけ?


「まあいいや。そしたらこっちのが都合が良い」


 と言うと、男の人は大剣を虚空に消して、新たに片手剣と拳銃を手に取った。やばい。流石に銃は・・・・・・・


「(何でも良い!!何か、何か・・・・)」


 必死にポケットを探ると、いつものカセットレコーダーとカセットテープが握られた。


「え?カセットテープ・・・・・?いつの間に回したっけ・・・・・・」


 僕はまだ、コロポンのところに行っていないはずだ。コロポンを回していないのに、カセットテープがポケットに入っていたなんて・・・・・そんなこと、あり得るのか?


 兎も角、今はこうするしかない。


「ええい、ままよ!!」


 僕はレコーダーにテープをセットして、「再生」ボタンを押す。すると辺りがみるみるうちに明るくなっていく。


「あっ!!逃げる気だな!?」


 男の人が僕の行動に感づいて、拳銃をこっちに向けてくる。間に合ってくれ、早く——————









バァン、という破裂音が、鳴った。

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