Tale20:紙装甲のリリア様は攻められまくりです

 ふわっとした浮遊感、そして視界が白く切り替わる。


「リリア、相談がある――どうしたの?」


 白い空間に戻ってきて、私は挨拶もそこそこに本題に入ろうとした。

 しかし、なぜだかリリアがほくそ笑んでいるような気がする。

 口元に手をやっているのは、笑っているのを隠しているからではないだろうか。


『いえ……申し訳ございません、続けてください』


 そう促すリリアからは、なんとなく好奇の眼差しを感じる。


 この反応、以前にもあったな。

 確か、初めて掲示板を賑わせたとき。


「ぁっ!? やっ、ちょ、見ないでっ……!」


 セッチさんに着せられた小悪魔のコスプレ、着替え忘れていた。

 またやっちゃった、早くリリアと話したいと思っていたからだ。

 働いているときよりも、どうしてかリリアの前の方が恥ずかしい。


 空いたお腹や脚を隠そうとするけど、けっきょく腕も肩も露わになっているからどうしたって露出度は高い。


『ふふっ、お可愛いですので、堂々となさっていていいと思いますよ?』


 どこを見て可愛いって言っているのかしら?

 答えによっては、ぶっ飛ばしますわよ?


「いいから、早くもとの装備に戻してっ」


 トイレに行くのを我慢しているみたいな姿勢で、私は懇願する。

 傍から見たら滑稽だろう、笑うがいい。


 はーい、と返事をしたリリア。

 でも、んー……と思案しているような声をあげて、なかなか装備を変えてくれない。

 絶対にわざとなんだけど、こちらからは文句が言いづらい。


『しゃららら~ん――はい、変えましたよ?』


 前までそんなことしてなかったでしょ!

 人差し指で宙にくるくるくるーっと魔法をかけるようにするリリアに、喉までツッコミが出かかる。


 しかし、リリアの言うとおり、私の装備は青いワンピースと白いショートパンツのセットに戻っていた。

 まあ、じろじろ見るのに十分なぐらいの時間は経過していたけれど。


「……ありがとう」


 この空間ではリリアの権限が強すぎて、感謝の言葉を述べるしかない。

 しかも、『いいえ、どういたしまして』と微笑まれたら、もう可愛すぎて許すほかなくなるのだ。


『それで、相談というのはなんでしょうか?』


 どうやらおふざけはここまでのようで、リリアはいつも通りのサポートNPCの表情を向けてきた。

 こういうギャップもたまらないんだよね――おっと、私も真面目モードに戻らないと。


「えっとね、この前ドラゴンの攻撃を受けた感触から考えると、もし攻撃を食らってしまったらどんな装備でも一撃でやられちゃうんじゃないかと思ったの」


 あのとき、魔法耐性の付与された中級装備を着ていたが、一瞬を耐えることもできなかった。

 これは仕方のないことで、『テイルズ・オンライン』において装備によるステータス補正はそこまで大きくない。

 いくら上級の装備で身を固めようとも、重要なのは基になるステータスなのだ。


『ふむ、そうですね……攻撃の種類によりますが、もし以前と同じ攻撃を受けるとしたら、確かに装備の良し悪しは関係ないでしょう』


 リリアの口振りから、超広範囲の攻撃を全身に一気に受けたことも瞬殺された理由のひとつなのかと思う。

 スライムの性質による修復が間に合わないダメージ量だったのだろう。


「だから、どうせ耐えられないんだったら、防御に関する耐性は諦めて、物理攻撃とか魔力を上昇させる装備にしたいの」


『なるほど、百を貫く矛が相手の場合、盾が一枚だろうが二枚だろうが大差ないですからね。いい考えだと思います』


 私の言葉を聞いて、大きく頷いてくれるリリア。

 聞き上手なところも大好きだ。


「でも、街の防具屋さんには汎用的な性能の装備しか売ってないじゃない?」


 いま装備しているものを買ったときにいろいろ見て回ったことがあるのだが、防御や魔法耐性の上がる装備がほとんどで。

 それに付随するオマケのような形で魔力や幸運が微上昇するものぐらいしかなかったのだ。


『そうですね、街の防具屋はやはり“防具”を売るところなので、尖った性能の装備はないでしょう』


 リリアが言うのだから、あのラインナップが基本なのだろう。

 やっぱり聞きに来て良かったな。


「リリアに相談したかったのは、そういう攻撃に特化した装備が存在するのか、存在するとしたらどこで手に入れられるのかっていうことなの」


 なにやら考えるように、中空を眺めるリリア。

 その遠くを眺める眼差しは、凜々しく美しい。


『ふむ、まず、リリア様が望むような装備は存在します。そして、入手方法はいろいろありますが……』


 口元に指を添える姿は絵画のように、私の視線を奪っていく。

 視線の先で、微笑みが口角を上げる。


『うん、キャロ様に頼んでみてはいかがでしょうか?』


「キャロちゃん?」


 ふいに思ってもいなかった名前があがったから、オウムのように聞き返してしまう。

 ただ、突然のことで疑問に思っただけで、すぐに合点がいった。


「――そっか、クリエイターだ」


 クリエイターがどんなジョブでどんなスキルを持っているか、詳しくは知らない。

 しかし、こうしてリリアが言うのだから、おそらくキャロちゃんは装備を作成することができるのだろう。


『はい、キャロ様もとても優れたクリエイターです。きっとリリア様の力になってくれると思いますよ』


 そう話すリリアの表情は、まさに女神そのもので。

 ドキリとさせられてしまい、「ねえ、私は? 私はどんなテイマー?」などという軽口はついぞたたかれることがなかった。

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