Tale13:新たな光に出会うことになるでしょう

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【スキル】灯火を取得しました!

暗闇の状態異常への耐性が、小程度だけ増加します。


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 冒険者ギルドから外に出ると、目の前に黒い画面が現れた。

 あいかわらず、このスキルが取得できた理由はわからない。

 しかし、暗闇の状態異常耐性がもらえるのは素直に嬉しい。


 タコのような魔物が、その状態異常を使ってきたことがある。

 確か、名前はプップッパ・オクトップだったかな。

 そいつのまっ黒い墨を吐いてくる攻撃を食らうと、ダメージはそこまで大きくないけれど暗闇を付与される。

 『テイルズ・オンライン』での暗闇の状態異常は、視界が暗くなるのではなく、見えなくなるのだ。

 目を開けていて闇さえも見えないという感覚は、なかなか慣れるものではない。


 状態異常には、毒、火傷、麻痺、睡眠、混乱、恐怖、欠損、暗闇、石化の九種類が存在するが、後半の四種類の治療薬は入手がひじょうに困難だ。

 もし治療薬を未所持のときに恐怖、欠損、暗闇、石化の状態異常を受けてしまったら、時間経過による回復を待つかヒーラーやプリーストによって回復スキルをかけてもらうか、それぐらいしか解除方法はない。


 そうした、ちょっと厄介な状態異常に耐性を持っておくということは、ソロプレイヤーの生存率向上に役立つだろう。


「お姉様? 行きましょう、ドラゴンはすぐそこですから」


 やる気ぷにぷにで先に進んでいたスラリアが、わくわくを隠しきれないといった表情で振り返る。

 さっきまでぷんぷんしていたのに、スライムだから感情の柔軟性も高いのだ。


「うん、いま行く!」


 右上を触って黒い画面を消して、かけ足でスラリアのもとに向かう。


 いっしょにドラゴンを倒すというのは、スラリアの目標でもある。

 この子のためにも、私は私にできることを精いっぱいやらなきゃね。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ひたすら東に、森を進む。


 散発的に遭遇する魔物は、いずれも強力な部類に入るものだ。

 ドラゴンとの戦闘も想定されるので、できるだけ魔力を温存して進みたい。

 しかし、同調のスキルを使用して戦わなければ倒せない魔物も多く、少しずつ消耗させられていく。


 どこかで長めの休憩を取らなければ、ドラゴンのもとまでたどり着く前にデスしてしまうかもしれない。

 そう思ってはいるのだが、視界の悪い森の中は、どこから魔物が襲ってくるかわからない。

 そんな状況で、ゆっくり休むことは難しそうだった。


 基本的に、街中以外に転移先を設定することはできない。

 今日のところはここまで進んだから明日はこの続きから始めよう、といった通常のゲームでいうセーブのようなものはないのだ。

 そのため、日を改めて挑むとすると、またこの道程を踏んでいかなければならない。


 そうして、休むタイミングを窺いつつも、その機を逸し続けてしばらく。

 私たちの視線の先、木々のすき間から森の奥深くに緑色ではない物体が見えた。


 手近な樹に登って眺めると、遠くの森の中に岩山がそびえているのがわかった。

 かなり巨大だな、印象としては都心にあるドーム球場より二回りぐらいは大きそうだ。

 ただ、そのようにのっぺりと丸いのではなく、岩山はごつごつとしていてかなりいびつな形状だった。


「とりあえず、あそこまでは行こう。登れば見晴らしもいいし、休憩できそう」


「はい、わかりました」


 返事をして、同じように樹の上にいたスラリアが先に飛び降りる。

 その後に続けて、私も森の地面に戻っていった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 岩山を登るのは、その文字の通りにちょっとしたロッククライミングだった。

 もし現実で同じ岩山に登れと言われたら、いくら装備が整っていても私には難しいだろう。


 頂上はところどころ隆起して台になっている箇所もあるが、かなり広い範囲が平坦であった。

 そのため、頂上の景色は遠くまで視界に入れることができる。


「……綺麗ですね、お姉様」


 スラリアの言葉には主語がなかったが、なにについて言及しているのかは明白だった。

 私も見とれてしまって、返事をすることも忘れるほどだったからだ。


 岩山の中央付近に、隆起の中でひときわ高台になっているところがある。

 その上に優雅に寝そべり、陽の光を受けて輝く――純白のドラゴン。

 まだ距離があるためはっきりと見えなくても、白い龍鱗のひとつひとつが美しく、翼膜に走る青みがかった筋によって、さらに白さが際立っていることがわかった。


 ドラゴンに対するイメージであった、“屈強”や“頑健”は覆されて。

 代わりに、触れてはいけない硝子の彫刻に抱くような、“繊細”や“流麗”というイメージを得る。


「行こう、スラリア」


 触れることが許されないからこそ、もっと近くで見たい。

 そんなことを考えたのかどうか定かではないが、私は、ドラゴンに吸い寄せられるように歩を進めるのだった。

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