Tale12:その灯火は、かくもまばゆくて

「ごめんね、取り乱しちゃって」


 受付の女の子にかぶりつき続けていたところを、いよいよ嫉妬したスラリアに引き剥がされて。

 私は、反省の意を示すために窓口の前で正座していた。


「いえ、あの、ちょっとびっくりしただけで……べつにぃや……ぁっ、ですけど……」


 窓口から身を乗り出して、こちらを見下ろす受付の女の子。

 後半は口がもにょもにょしてしまって何を言っているのかわからなかったが、スラリアの手助けなしで声が届いているし、声量の問題はかなり改善していた。

 やはりボディタッチは仲を深めるために有効な手段なのだなぁ。


「私、お姉様がセクハラ行為でペナルティを受けるなんてことになったら、恥ずかしくて女神様に合わせる顔がありません」


 背後から、まだ怒っているスラリアの声が浴びせられる。

 恐くて振り向くことができないけれど、おそらく腕を組んで仁王立ちしていることだろう。


 自分だってオーリに抱きついていたじゃないの。

 そう思わなくもないが、もしかしたら、ああいう行動は私を真似している結果なのではないだろうか。

 スラリアが人型でなかった頃から、よくぎゅっと抱きしめたりしていたし。

 だとすると、当然スラリアに文句をつけることなどできない。

 冒険者ギルドにいる大勢の前で恥をさらしている、この状況を甘んじて受けるしかないのだ。

 

「えっと、話を戻すけど、銀色の大きい狼は、この街の東に広がる森の守り神なのよね?」


 正座をしたまま、私は念のため確認してみる。

 こうして向き合うと女の子がより俯いてしまうことがないから、その可愛い顔がよく見えていいね。


「はい、森に入って迷ってしまった子どもが、守り神様に助けていただいたこともあるのですよ」


「ふぅん、なるほど……」


 先ほどからそうだったが、狼ちゃんについて話すときの女の子は穏やかに微笑んでいる。

 おそらく、見たことがなくても心から信じているのだろう。

 もし、いまは狼ちゃんが森にいないと知ってしまったら、きっとこの笑顔は曇ってしまう。


 この子のためにも、あの狼ちゃんが故郷に帰られるようにしてあげないといけない。 


「わかった、知りたいことを教えてくれてありがとう」


 そう言って、私は立ち上がった。

 それに合わせて、自然と女の子の顔が上向く。


「はい、お役に立てたのであれば嬉しいですが……?」


 女の子は、この冒険者の人はどうして“森の守り神様”について知りたがったのだろうか、といった表情を浮かべていた。

 ただ、その疑問に答えようとすると狼ちゃんの実在と不在を教えることになってしまうので、あえて気づかないフリをする。


「じゃあ、行こうか、スラリア――そうだ、あなたのお名前は?」


 振り返りかけて、大事なことを聞き忘れていたと向き直る。

 可愛い女の子の名前は、ひとつでも多く知っておいて損はしない。 


「えっ、はい……シャニィ、です」


 あら、可愛らしい名前だ。

 恥ずかしがりのシャニィちゃん、覚えたぞ。


「私はリリア、これからよろしくね。ふふっ、今度来るときは髪留めでも持ってこようかな」


「ぇっ!?」


 去り際、シャニィちゃんの顔がよく見えるように、その長い前髪をまとめて横に押さえた。

 眼鏡越しに、驚いたことでさらにぱっちりと開かれたお目々と視線が重なる。

 しかし間近で眺めると、可愛らしいというよりも美人さんという印象を受けた。

 横長でシャープな眼鏡を掛けているから、それによる効果かもしれないけどね。


「えへへ、勝手に髪を触ってごめんね」


「ぁう、あの、ぃえっ……」


 謝っていながらなかなか手を離そうとしない私に、シャニィちゃんは目を泳がせてあわあわと慌てるほかない。

 いや、美人な顔立ちとのギャップが魅力的すぎて、手が離れようとしなかったんだよね。


 けっきょく、スラリアが「もう行きますよっ」と引きずりだすまで、私はシャニィちゃんを一方的に見つめていたのだった。


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【名前】リリア

【レベル】28

【ジョブ】テイマー

【使用武器】スライム:習熟度8

 【名前】スラリア

 【使用武器】ローゼン・ソード:習熟度5


【ステータス】

物理攻撃:105 物理防御:55 

魔力:80 敏捷:35 幸運:50

【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢

知恵の泉、魅了、同調、不器用、統率、灯火

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