Tale10:LTBによって掲示板の風紀は守られます

 リリアから教えてもらった、ドラゴンの手がかりが掴めるかもしれない街。

 そこは、樹の温かみを感じる木造建築が立ち並ぶ、自然の森の中に人々が住んでいるような場所だった。

 いつものカラフルな煉瓦造りの街やシキミさんたちが拠点にしている朱い和風の街と比べて、よりファンタジーの雰囲気を強く感じてテンションが上がる。


 ただ、行き交う人の流れを見てみると、あまり栄えている街ではないようだ。

 『テイルズ・オンライン』の世界では同様の機能を持った街が複数あり、それはそこに生活するNPCに対しても同じことが言える。

 もちろんまったく同じNPCが存在しているということではなく、ある街に武器屋を営むNPCが5人いるとしたら、他の街にも武器屋のNPCが5人いるということだ。

 つまり、街が賑わっているかどうかは、プレイヤーがたくさん訪れているかどうかによって決まる。


「ここ、面白そうなところなのにね」


「お姉様っ、見てください! でっかーい樹ぃ!」


 繋いだ手とは逆の手で、スラリアは前方を指し示す。

 その先には、樹齢何百年になろうかという大樹がそびえていた。


 あの大樹の根元が、おそらく街の中心部だ。

 ということは、あそこに向かって歩けば冒険者ギルドにたどり着くということか。


「うん、あっちに行ってみよう」


「はいっ!」


 スラリアがご機嫌すぎることがおかしくて、思わず頬がゆるむ。

 さっきから、この子はこの調子なのだ。

 はて、なにか嬉しいことでもあったのだろうか?

 よくわからないが、ご機嫌であればなによりである。


 私たちはどちらが引くでもなく、歩調を合わせて進んでいく。


 さて、街の賑わいの話に戻るのだが、いつもの街で私とスラリアが道を歩いているとよく話しかけられる。

 道ばたでNPCからプレイヤーに言葉が投げかけられることはほぼないので、こうして話しかけてくるのはすべてプレイヤーだ。


 これは自惚れなどではなく、『テイルズ・オンライン』のプレイヤーのほとんどが私の存在を認知している。

 まあ、チュートリアルで初めて会うNPCとそっくりな見た目をしているのだから、当たり前といえば当たり前か。

 さらに、ゲーム外での交流サイト、公式が運営している掲示板においてリリア(私もしくはスラリア)の写真を投稿するという文化が根付いているのだ。

 ここ最近では、“リリア様を盗撮するなんて万死に値する”と主張する掲示板の自治組織が、その疑いのある画像を通報、削除してくれていて。

 そのため、えっちで恥ずかしい格好やアングルのものは激減し、たまに私も覗いてみて楽しむことができるぐらいの健全さになっている。


 そんな感じで有名人な私たちなのだが、この街に着いてからはまだ一度も話しかけられていない。

 街並みが見たかったから入り口の城門に転移させてもらって、中心にある冒険者ギルドの近くまで。

 けっこう歩いてきたけれど、こちらに注目してくるような人も見当たらなかった。


 ふむ、人目を気にせず買い物をしたいときなどは、こっちに来てもいいかもしれないな。

 そんなことを考えていると、私たちは大樹のふもとに着いていた。


「お姉様、おっきい樹の中に入れるようになってますよ?」


「へえ、すごいね……なるほど、この樹自体が冒険者ギルドになってるんだ」


 リリアの言うように、樹の根元辺りには大きな両開きの扉が備えられている。

 付近にそれらしき建物は存在していないので、ここが冒険者ギルドであることは間違いないだろう。


「さーて、オージちゃんみたいな頑固な受付はいるかなぁ?」


「お姉様の堅物おじいさん特攻スキルが火を噴きますねっ」


 オージちゃんが聞いたら大きなため息を吐きそうなことを言いながら。

 私とスラリアは開けっぱなしの大扉をくぐり、大樹の中に入っていった。


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【名前】リリア

【レベル】28

【ジョブ】テイマー

【使用武器】スライム:習熟度8

 【名前】スラリア

 【使用武器】ローゼン・ソード:習熟度5


【ステータス】

物理攻撃:105 物理防御:55 

魔力:80 敏捷:35 幸運:50

【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢

知恵の泉、魅了、同調、不器用、統率

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