Tale12:そこに咲く花、摘みましょう

 いつも通り、ミリナちゃんからの勉強依頼が入っていた。

 時間が合うときは必ず受けるようにしているため、さっそく郊外にあるミリナちゃんの家に向かう。


「スラリアの出番がある範囲だといいね」


「ぷにゅるっぷ」


「ふふっ、なんだって?」


 図形範囲だったら、自在に形を変えられるスラリアは理想的な教材である。

 しかし、分数のわり算とかの計算範囲ではあんまり活躍できない。


「ぽぽぽぽっと分裂できれば、鬼に金棒なのにな……」


 視覚的にわかりやすく、わり算の解説が可能なのだが。


「ぷにゅにゅ!?」


「あはは、冗談だよっ」


 スラリアをからかって遊んでいると、街道の先にミリナちゃん家の農場が見えてきた。

 もう少し進めば、いつも通りにミリナちゃんが家の前で待っていて。


「ん?」


「ぷにゅ?」


 農場の柵のところに人がいる。

 三人、みんな男の人かな。

 地面にあぐらで座っているのと、柵に腰掛けているのと、その隣に立っているの。


 最後の立っている人が、特に目を引く。

 大柄な体格にスキンヘッドの頭、肩にはハンマーを担いでいる。

 名称は知らないけれど、ハンマーの柄ではない重そうな部分。

 その部分が、私の上半身ぐらいの大きさはあるんじゃないだろうか。


 三人で談笑しているようで、私には気付いていない。

 うーん……たぶん、プレイヤーだよね。

 NPCたちが意味のない立ち話をすることはないし、あの場所に人がいたことも今までなかったし。


 できるだけ目立たないように、彼らを避けて道を進むことにする。

 このリリアな姿は、いまは特に有名だから、気づかれずに済むならその方がいい。


「おっとぉっ! 可愛い女神様、はっけぇーんっ!」


 うぇっ、私のこと言ってる……?

 そこまで広い道幅ではないし、気づかれたことは仕方がない。

 しかし、声を上げた男が、私が苦手としている人種だったことは最悪だ。


 そちらに目を向けると、さっきまで地面に座っていたやつがこちらに歩み寄ってきていた。

 軽そうな鎧をチャラチャラ鳴らしながら、赤い髪をなびかせている。

 顔は悪くないのかもしれないけど、私、ピアスをする男性をかっこいいと思わないんだよね。


「ぅおー、近くで見ると、ヤババヤヤッバぁっ! 激カワじゃんっ!」


 私が鬱陶しそうにしているのを意に介さず、チャラ赤髪は舐め回すように見てくる。

 頭からっぽなんだろうなぁ、悩みとかなさそうで羨ましい。


「ちょっとぉ、メイド服じゃないじゃーん。俺も生でスパッツ拝みたかっ――ぐはぁっ!」


「あっ、やば……」


 下から覗きこもうとしたのか、チャラ赤髪が屈んだので。

 ショートパンツだから覗かれることはない、とはいえ。

 その卓球のボールみたいに空洞なのだろうお気楽フェイスを、思わず膝蹴りしてしまった。


 数メートル吹き飛んで、お仲間の二人の近くに落ちる。

 ゲームの世界でなければ、鼻血やらその他の血やらを撒き散らしていてもおかしくなかっただろう。


「あぁ、これが女神様の感触か……悪くねぇな」


 軽やかに起き上がりながら、チャラ赤髪は感慨深そうに言う。

 蹴り飛ばされて嬉しそうなのが気持ち悪い!

 というか、ほとんどダメージが入っていない……?

 魔物相手だったら必殺の一撃なんだけど、やっぱりプレイヤーは強いのだろうか。


「もう満足したか?」


 考えを巡らせていると、柵に腰掛けていた男が苦笑いとともにチャラ赤髪に話しかけた。

 なんだか、大柄なハンマーさんとチャラ赤髪に比べて、マトモそうな感じの人だ。

 スーツが似合いそうな、爽やか黒髪お兄ちゃんね。

 着ている服は黒系統のシャツにズボン、というラフなものだけど。


「いや、満足はできねーのよ! このゲーム、おっぱいを揉むのも、お尻を掴むのも、Nっ! Gぃ! ふぉぅっ!」


 チャラ赤髪は、自分の胸とかお尻に手を這わせながら返事をする。

 本格的に気持ち悪くなってきたな、消え去ってくれないかな。


「異性へのセクハラ行為は厳しいからな、仕方ないさ」


 爽やかお兄ちゃんが、チャラ赤髪を慰めるように肩をたたく。

 そして、私たちの方に、ゆっくりと歩いてきた。


「俺の名前は、シキミだ。うちの連れが迷惑をかけた」


 まったく申し訳なくなさそうに、爽やかお兄ちゃん――シキミは言う。

 私が訝しく思ったのも束の間、唐突に、刺すような痛みが顔の横から走った。


「ぁっ――痛っ……!」


「ぷにゅ?」


 ゲームのシステムを越えて感じる痛みに、思わずよろめいてしまう。

 倒れ込みそうになるのを、踏ん張って耐える。


 いったい、なにが……?


 スラリアを抱えたまま、痛む箇所に手をやる。

 顔の右側、耳の辺り。

 しかし、いくら探しても、私の耳はなかった。


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【名前】リリア

【レベル】9

【ジョブ】テイマー

【使用武器】スライム:習熟度4


【ステータス】

物理攻撃:20 物理防御:40 

魔力:35 敏捷:10 幸運:25

【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢

知恵の泉、魅了

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