Real World:お姉ちゃんとしてのリリア
ゲームをするためのヘルメット? みたいなものを手探りで外す。
すると、驚くことに、そこは私の部屋だった。
いや、当たり前のことか。
ゲームの世界が現実的すぎて、旅行から一瞬で自室に帰ったような感覚になったのだ。
壁の時計を見やると、まだ晩ご飯の時間には早い。
すごいな、本当にゲーム内では時間が速く進むのか。
それにしても、まだ興奮冷めやらぬというか、なんだか身体がふわふわしている感じだ。
リリアの腕のすべすべ具合とか、スラリアの不思議なぷにぷにとか、仮想の出来事とは思えない。
ベッドのヘッドボードに置いていた眼鏡をかけてから、部屋の外に向かう。
着ているのは可愛いワンピースではなく、中学の頃の学校ジャージだ。
あの頃は、いつかリリアみたいな出るとこが出ているスタイルになると思っていたのだろうに、まさか一ミリも背が伸びないとは思わなんだ。
「あれ、
私が部屋のドアを開けると、廊下に弟の莉央が立っていた。
待っていました、と言わんばかりに顔を輝かせている。
なるほど、やっぱりゲームが気になっていたのだけれど、ゲームをしていて無防備な姉の部屋に入ったら怒られるから部屋の外でそわそわしていた。
そんな感じかな、たぶんね。
「姉ちゃん、どっ、どうだった?」
「すっ――……すごいのね、最近のゲームは」
おう、危なかった。
さっきまでの興奮を、余すところなく莉央にぶつけそうになった。
姉の威厳とかではなく、単純に可愛そうだからだ。
あれほど楽しみにしていたゲームができなくなって、その上普段ゲームに関心の無い姉が楽しそうにしていたら。
ちゃんと勉強していなかったことが自業自得とはいえ、ね。
「そうでしょ? 特に『テイルズ』は現実と変わり映えしないグラフィックに操作感、今までのVRMMOにはなかったシナリオの自由度、いったいどんなサーバが使われているのか、本当にファンタジーの世界から飛び出してきたのかもしれなくて――」
私の心配をよそに、莉央は早口でテイルズ・オンラインがいかに優れたゲームなのかを熱弁する。
言っていることの半分もわからなかったけれど、まあ、素晴らしいゲームという部分は納得だ。
「もう、わかった、わかったから」
しかし、いいかげんにうるさかったから、下から顎をぐいっと押して黙らせた。
まだ高校一年のくせに私よりはるかに背が高いのも、うるさいところね。
「そうだ、姉ちゃん、ジョブはなにを選んだの?」
軽く頭を引いて私の手から逃れながら、莉央は聞いてくる。
「ジョブ? テイマーにしたけど?」
「えっ? あっ、そ、そうなんだ」
「ん? どうしたの?」
なんだ、気になる反応だな。
私がじっと見上げていると観念したのか、言葉を詰まらせた理由を話した。
「いや、テイマーって、その……あんまり人気がないジョブ、なんだよね……」
そう言って、莉央はスマホの画面を見せてくれた。
その画面には円グラフが表示されていて。
「これ、見てみて。運営が発表している、初期プレイヤー10万人のジョブ選択の内訳」
へえ、そんな情報を見ることができるのか。
ふむふむ、ファイター、ウォーリア、マジシャン、シーフなどなど、いろいろなジョブがあるのね。
「あれ? テイマーは?」
思わず、私はつぶやく。
ぱっと見て、画面にテイマーの文字がないのだけれど?
私のつぶやきを聞いて、莉央がスマホの画面に指をやる。
円グラフの、その他の部分。
もし円グラフがホールケーキだとして子どもたちに切り分けていったとしたら、泣き出してしまうぐらいの細い部分。
そこをタップすると、その他に含まれる項目が拡大されて表示される。
「えーと、クリエイター、マーチャント……えっ? もしかして、この一番細いひじきみたいな線が――」
1%、そう数値が書き込まれている項目が。
「そう、テイマー」
見上げた莉央は、気の毒な人を見るかのように私のことを見ていた。
ちょっと、お姉ちゃんをそんな目で見るんじゃありませんっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます