第83話 残り十一分の人生でやりたい放題

「へぶぅッ!」

「よし、終わり」


 嘘吐き海賊を鉄拳制裁で黙らせた。あとは海に投げ捨てるだけだ。

 仲間の海賊船が海に浮いているところを助けてくれれば、時間稼ぎにもなる。

 そのぐらいは役立ってくれると期待したい。


「お前達も靴に飛び道具を隠しているんだろう? 俺の防御を突き破るなんて、どんな武器なんだ?」

「痛たたっ、そんな武器持ってないですよ! だから、海賊船から船長が攻撃したんですよ!」

「はぁっ? お前も拳を喰らいたいようだな」


 靴を力尽くで脱がそうとしたら、海賊の男が痛がりながら言ってきた。

 くだらない嘘を吐き通したいみたいだけど、バレた嘘は突き通さない方が身の為だ。

 こっちは海賊の人質なんて要らない。

 四人まとめて海に放り込んで、海賊船に救助させて時間稼ぎした方が得だ。


「本当ですよ! ゼルド船長は炎魔法の使い手で、三キロ離れた船の帆を燃やした事もあるんですから!」

「はいはい、分かりました!」

「ごばぁッ!」


『わぁー、凄い』といった感じに殴ってあげた。

 そんな嘘武勇伝で俺が怖がると思っているなら大間違いだ。

 次は空でも飛んで来ると言い出すに決まっている。

 くだらない嘘をいちいち怖がるつもりも驚くつもりもない。


(まったく、くだらない嘘ばかり吐きやがって。さっさと海に投げ捨てて、おっぱい揉みに行かないと)


 俺は色々と忙しいので、いつまでも海賊と遊んでいられない。

 二人気絶させて残りは一人だ。船の柱に蹴り飛ばした奴は気絶中だから手間が省けた。


「お前で最後だ。一発で気絶しろよ」

「待ってくださいよ! 帆を見てれば本当だって分かりますから! 赤い流星が飛んで来て、帆を燃やしますから!」

「赤い流星ねぇ……」


 海賊の男は顔を殴られないように縛られた両手を持ちあげて、必死にまだ嘘を吐き続ける。

 信じるつもりはないけど、靴に飛び道具は見つからなかった。

 気絶させて捨てるのは簡単だけど、聞きたい事が出来た時にいないと困る。


「ちょっと、こっちに来い」

「うわぁっ!」


 このまま同じ事を聞いても、同じ事を言われるだけだ。

 海賊の男の腕を掴んで、船の後方に引き摺って連れて行く。

 協力的な人質として信用できるか、別の質問に答えてもらう。

 それもとても重要な質問だ。


「海賊船はあとどのぐらいで船に追い付く。正確にだ」


 千四百メートルぐらい先に見える海賊船を指差して、海賊の男に質問した。

 最初に見た時よりも海賊船は、この船に近づいている。

 速いという噂話は本当だったらしい。


「えっーと……『ネレイド号』の時速は三十キロぐらいで、この船は二十二キロぐらいです。だから……」

「さっさと言えよ」

「あぐぐっ! は、はい!」


 俺は計算するつもりも計算する力もないから、海賊の男にさっさと正解だけ教えてもらう。

 早く計算しないと手首を握り潰す。


「距離が千三百メートルだとすると、十一分以内に船の横に並ぶと思います。でも、帆が燃やされたら五分程で追い付かれます」

「ふぅーん……船長、船長、このままだと十一分以内に追い付かれるの?」


 帆が燃やされた時間は余計だったけど、残り時間が十一分は短過ぎる。

 本当の事を言っているのか、海賊を引き摺って、船長に聞いてみた。


「ああ、もうっ! いい加減に邪魔しないでくれ。ああ、そうだ。そのぐらいで追い付かれる。暇なら船室の積荷を海に投げ捨てろ。それで時間稼ぎぐらいにはなる」

「そうなんだ。さっきは疑ってごめんねぇ」

「いいから、失せろ!」


 船長はイライラしながら答えてくれた。ついでに俺も疑ってしまった事を可愛く謝ってみた。

 でも、許してくれるつもりはないようだ。かなり怒っている。まぁ、別にどうでもいいや。


「痛い、熱い、痛い、熱い!」


 痛熱がる海賊の男を引き摺りながら、一段高くなっている甲板の階段を下りていく。


(さてと、五分でも十分でも絶対に追い付かれるな)


 雑魚海賊の船長でも攻撃魔法が使えるなら、冒険者6級相当の実力があるという事だ。

 6級程度なら、爆裂魔法の斧使いタイタスを倒したから問題なく勝てると思う。

 でも、船の上で暴れられると、船が沈没してしまう。


 それに船以外にも問題がある。

 船員と乗客に被害は出てもいいけど、エイミーが怪我するのは嫌だ。

 船長の狙い通りに、運良く陸地の近くまで船で移動できても、寝ている船員と乗客が多い。

 その人達は自力で泳いで逃げられないから、捕まえられるし、船と一緒に沈められる可能性もある。


(戦って勝てる保証はないけど、逃げれば確実に被害者が出るのか)


 それに逃げられる保証もないし、エイミーを背負ったまま海を泳ぐのもキツい。

 下手に逃げるよりも、海賊を迎え討って倒した方が一番楽なのかもしれない。


「なぁ、海賊船には何人乗っているんだ? それぐらい知っているだろ?」

「おおぉぉぉっ!」


 気絶している海賊達の側まで引き摺っていくと、掴んでいた腕から手を離して聞いた。

 海賊の男は質問には答えずに、身体を折り曲げて、縛られている手で両スネをさするのに夢中だ。

 時間がないので腕を踏ん付けて、もう一度質問した。


「海賊は全員で何人いるんだ?」

「あぐぐぐっ、二十八人です! 俺達を含めて!」

「少ないな。少数精鋭でもないのに」

「うぅぅっ、船長が鬼強なんです。3級相当の実力があるって話してました!」

「二十八人に3級か……」


 海賊の言う事をあまり当てにしない方がいいけど、本当だとしたら勝てない可能性がある。

 風竜並みに強い相手と、狭い甲板の上で戦うのは正直遠慮したい。

 でも、炎魔法に海は戦う場所としては悪くない。丸焦げになる前に海に飛び込めば助かる。


「船長! 船長! 帆が燃えてます!」

「くっ、誰がやったんだ⁉︎ お前か!」

「はい?」


 突然、船の後方で船員と船長が騒ぎ出した。

 振り返って見ると、船長が俺の方を指差しているのが見えた。

 証拠もないのに人を疑うのはやめてほしい。


「絶対に他の帆に燃え移るのは阻止しろ! 陸地まで逃げるまで速度を落とさせるな!」

「「「はい!」」」


 船長と同じように上を見上げると、柱の中で一番船後方の柱の布が燃えていた。

 円を描くように赤い炎が広がっていくので、もうこの帆は助からないと思う。

 船員達が船長の命令で、急いで帆をどうにかしようとしているけど無理だ。

 

「また近づいている。残り一キロぐらいか」


 燃えている帆はどうしようもないから、船の縁に移動して、後方の海賊船を確認した。

 帆が燃やされてしまったから、船の速度は落ちてしまう。

 他の帆も燃やされたら更に落ちるだろう。


 それでも、追い付かれるのに五分ぐらいはかかると思う。

 エイミーの所に行って、骨の黒丸盾を貸してもらおう。

 炎を身体で受け止めるような根性は俺にはない。


「アチチチチッ! 頼む、縄を解いてくれ!」

「俺達は海賊じゃないぞ! このまま焼き殺すつもりか!」


 忙しそうな船員や落ちてくる火の粉を必死に避けている乗客は無視だ。

 全員の縄を解いている間に、海賊船に追い付かれてしまう。

 船内への階段を急いで下りていくと、廊下を走りながら、アイテムポーチから鍵を取り出した。


「ほっ、間に合ったようだ」


 扉を開けて部屋に入ったけど、オシッコの臭いは全然しなかった。

 まぁ、エイミーのならば臭くないと思う。きっと花のような匂いがするはずだ。

 でも、このまま放置して、その匂いを確かめるつもりはまったくない。


「まずは盾と……」


 床に落ちている丸盾を拾った。盾の裏側に手で握れる輪っか状の持ち手が付いてある。

 軽くて丈夫な盾だけど、剣も盾も使い慣れていないから素手の方が良いかもしれない。

 まぁ、それはどうでもいい事だ。盾を取りに来たのは、重要な目的のついでだ。


「ゴクリ……ハァハァ、まだ寝てるよね?」

「ふぅ……ふぅ……」


 寝ているエイミーの二の腕を揉んで、安全なのか確かめる。

 反応がないから、バッチリと睡眠ガスが効いているようだ。

 船を襲ってくれた海賊達には、これだけは非常に感謝している。


『必ず海賊達を倒して戻って来るからね。その時はお礼におっぱいを揉ませてね』——

 なんて聖人みたいな事を言う訳ない。揉める時に揉め。それが後悔しない生き方だ。


「んっ……はぅ……あぅ」


(や、や、柔らけぇぇぇ~~!)


 二の腕と同じ柔らかさらしいけど、全然違う。それに意外に大きい。

 弾力なんて全然感じないし、柔らかすぎて指先がおっぱいの中に沈んでいく。

 チャロの時に触れた事はあるけど、やっぱり触れると触るは大違いだ。

 もう海賊と戦わずに揉み揉みしながら、船と一緒に海に沈んでもいいかもしれない。


「ふにゃ……ふぅ……」


(エイミー様、ありがとうございます! これで死ぬ気で戦えます!)


 部屋に入って、七分後。

 揉み終わると床に頭をつけて、ベッドに眠る女神様に何度も感謝と謝罪をした。

 これで悔いを残さずに戦って死ねると思います。


「ふぅー、流石に甲板に戻らないとな」


 心と身体を落ち着かせると、部屋の鍵を開けて、扉の前で聞き耳を立てる。

 二分ぐらい前に、巨大な何かに衝突されて船が大きく揺れた。

 多分、海賊船が船に体当たりしたんだと思う。

 今頃は甲板の上に海賊と船長が乗り込んでいるはずだ。


「やっぱり乗り込まれたか」


 音を立てないように扉を開けて、廊下に誰かいないかソッーと確認する。

 誰もいなかったけど、甲板の上から無数の足音が聞こえてくる。

 予想は的中したようだ。


(甲板と船内、どっちがいいんだろうな?)


 睡眠ガスの効果が残っているから、このまま船内で待ち構えた方が良さそうな気がする。

 積荷を奪いに来た海賊を襲って、黒布マスクを顔から剥がせば無力化できる。


(あれ? 船長もその方法で眠らせれば楽勝なんじゃないのか?)


 半魔物人間の俺と違って、3級相当の実力者でも人間なら、睡眠ガスには抵抗できないはずだ。

 捕まえた海賊の誰かが睡眠ガスを持っていたら、奪い取ればいい。

 今回使わなくても、持っていれば、冒険者ギルド女子寮とかで使えるんだから。

 

(よし、やるぞ! 船長倒して、睡眠ガスと海賊船を奪おう。あっちの船の方が速いならちょうどいい)

 

 ♢

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