間話52話後 ハチミツ取りと眼鏡の狩人

 エイミーの巨乳のお母さん、フェリシアさんに頼んで、蜂蜜を入れる瓶を無料で入手しました。

 いつ見ても、良いおっぱいをしています。

 あのおっぱいを枕にしたら、気持ち良く眠れそうですね。


(ぐぅふふふ、逆に興奮して眠れないかもしれませんね。はぁ……それにしても、出来れば別行動は避けたかったんですけどね)


 くだらない妄想を断ち切ると、朝起きてしまった問題を考える事にした。

 ルディとエイミーの二人が私を疑っている事を早朝、手下のレーガンに聞いたばかりです。

 本当にパーピーの卵を取りに行くのか疑わしいものですが、まぁ、何をやってももう遅いです。

 

 雇い主には手紙を送って、タイタスには、レーガンを含めた三人に私が怪しまれていると報告しました。

 タイタスの話では、私以外にも、10級から5級までの冒険者に協力者がいるそうです。

 多少、私が目を離したとしても、他の協力者がおかしな行動をしていたら気づくでしょう。

 今、集中するべき事はルディとのクエスト勝負です。


 この際だから、私に反抗的な態度を取った手下にも、格の違いを教えてあげないといけません。

 エイミーの家から外に出ると、準備とトイレを済ませて庭に待っていた、二人と一匹にハッキリと言ってやった。


「では、私達も急ぎますよ。今回はスピード勝負なので、走るのが遅いようならば置いて行きますからね」

「体力には自信があるから大丈夫です。毎日、走り込みで鍛えてますから」

「ちくしょう。体力にはあんまり自信がないんだよな」

「クマァ~~」


 エイミーが走り込みを毎日しているのは知っていますが、所詮は女です。相手にもなりません。

 レーガンと熊なんて、腕力しか取り柄がない馬鹿です。

 やれやれ、これだと私とルディの一騎討ちじゃないですか。


「別に構いません。付いて来れないようなら休んでいて結構です。皆んなで仲良くゆっくりクエストをやるつもりはありませんから」

「何だよ、その言い方は? 別に俺もそんなつもりはねぇよ。何なら、この四人で誰が早く見つけられるかやってもいいぜ」

「じゃあ、私はベアーズと組もうかな?」

「構いませんよ。この前の害虫駆除と同じです。お互い好きにやりましょう」


 私の言い方がレーガンは気に食わなかったようですが、問題ないです。

 二人と一匹は戦力外で足手纏いです。

 むしろ、そろそろ手下の交換が必要だと思っていました。

 個人戦にした方が馬鹿にも分かるでしょう。


「さあ、私が先頭で走ります。後ろを振り返るつもりはないので、遅れていても気にせずに進みますからね」

「こっちの台詞だ。蜂に刺されて死にそうになっていても助けねぇからな」

「どうぞ、お好きなように」


 やれやれ、子供の喧嘩にいつまでも付き合ってられませんね。

 目指す場所は街の西の方角にある山の中にあります。

 蜂蜜を見つけるまで、予定では二時間三十分。

 往復で五時間程度で、六時間もあれば達成できます。


 大型の蜂であるハニービーは巣を作りますが、相手は魔物で子供なんて産みません。

 花弁のような形の巣から発生する、蜂蜜の甘い匂いに誘われた虫や動物を食べるそうです。

 巣の近くにいる数匹のハニービーを倒して、布で包んだ巣を砕いて、瓶に蜂蜜をろ過して流す、それでクエスト達成です。


 凡人程度が腕力だけでなく、知力まで兼ね揃えた私に勝てる訳ないです。

 そもそも道具も無しに出発したルディには、クエストは達成できません。

 私の勝ちはクエストを達成するだけで決まります。


 ♢


「ハァ、ハァ……ぐぅっ! 流石は言うだけはありますね!」

「グマ、グマ、グマァッ!」


 傾斜の急な山道を樹木を避けながら、巨大熊に乗ったエイミーが駆け登っていく。

 手下の筋肉は昨日の夜に酒を飲んでいたから、心臓破りの坂でゲェゲェ吐いている。

 私は二人の背中を見失わないように必死に追いかけ続ける。


「ぐぅ、はぁはぁ、自分で走らないなんて、ルール違反ですよ!」


 馬鹿は早々に脱落したので、男と女と熊の戦いになってしまった。

 相手は5級冒険者の従魔です。文句を言っても身体能力で勝てないのは仕方ありません。

 それにこれは戦力的後退です。本気を出せば、いつでも追い抜く事は可能です。


 そして、蜂蜜は熊の大好物だと聞いた事があります。

 こうやって付いて行くだけで、あの二人が蜂蜜の場所まで案内してくれる訳です。

 まったく自分の驚異的な頭脳が恐ろしくなりますよ。


「この匂いは……? 蜂蜜ですか?」


 山道を登り続けて、五十分程。

 山の上から、苦味を含んだような少し強めの甘い匂いが、風に乗って運ばれてきた。

 街からそこまで離れた場所ではないですが、巣を作る場所はランダムです。

 近場でもおかしくありません。むしろ、時間短縮できて好都合です。


「やれやれ、運まで私に味方しているようですね。これでは私が反則しているみたいですよ」


 蜂蜜の匂いだけじゃなく、複数のハニービーの羽ばたく音が聞こえてきた。

 その音に混じって、先行しているエイミーと大熊の声も聞こえてきた。


「私が蜂蜜を回収するから、ベアーズは蜂を近づけないで!」

「グゥガァァ! グガァ、グガァ!」

「くっ、急がなければ全部取られてしまいますね」


 きっと巣ごと回収して、家でゆっくりと、ろ過するのでしょう。

 当然、そんな事をされたら私の負けです。

 女だと思って、少し手加減し過ぎていたみたいです。

 急いで巣を横取りしないといけません。


「ぜはぁ、ぜはぁ、まだ回収していない? 何という不器用な女なんでしょう」

 

 死にそうな思いで大急ぎで駆け登ったのに、まだまだ余裕があったようだ。

 ハニービーの群れに見つからないように木の陰に隠れて、素早く状況を把握した。

 エイミーは黒い丸盾を何度も上に向かって投げては、落ちて来た丸盾を拾っている。


(盾が全然届いてませんね。あの腕では一個落とすのに二十分以上はかかりますよ)


 薄茶色の花のツボミ状の蜂の巣が、地面から七メートル程の高さの木の枝にぶら下がっている。

 大きさは縦横二十センチ、長さは三十センチ程、それが十個以上バラバラにぶら下がっている。


「さて、あの二人の役割は終わりです。あとは私の仕事ですね」

 

 呼吸が正常に戻ってきたので、休憩終了です。

 若草色のロングコートを捲って、裏側に取り付けられたアイテムポーチから短弓と矢筒を取り出した。

 熊の方は体長五十センチ程の、空を高速で飛び回る、黒と黄色の縞模様の蜂に苦戦している。

 あっちはそのまま任せていいので、私は蜂の巣を落とすだけです。


 弓に木製の矢を取り付けると弦を引っ張っていく。

 スキル【ホークアイ】——命中率を二倍近く上昇させる能力です。

 主な効果は勘の強化と視力上昇程度ですが、お陰で三十五メートル先の小鳥ぐらいは撃ち抜けます。

 木の枝と蜂の巣の接着面で、一番細い部分を撃ち抜く事ぐらいは簡単に出来るでしょう。


「やれやれ、この距離だと外す方が難しいですね!」


 距離二十メートル程先の蜂の巣に向かって、矢を発射した。

 狙いすました矢の一撃が、木の枝と蜂の巣の接着面を破壊して、蜂の巣を地面に落としていく。

 これで破壊する手間も省けそうですね。


「やったぁー! 風圧で落ちたみたい!」

「はい⁉︎ そんな訳ないでしょう! 馬鹿なんですか?」


 私が落とした蜂の巣をエイミーが拾い上げて、エプロンのポケットに当たり前のように仕舞った。

 不器用なだけじゃなくて、頭も悪いようです。


「ま、いいでしょう。回収係は必要ですからね。私は落とすのに集中するとしましょう」


 不器用女には蜂の巣を落とす事は永遠に出来ません。

 なので、眼鏡を指で持ち上げて、気持ちを切り換える事にした。

 全部の巣を落とした後に出て行けば、私が撃ち落としたのは分かるはずです。

 わざわざ隠れて狙撃しているのに、十二匹も飛び回っているハニービーの前に姿を現す必要ないです。


(蜂の巣を落とした後は、ハニービーも倒した方がいいですね。街で売っている蜂蜜を買って来たとか、言い掛かりをつけられるのは嫌ですからね)


 矢筒から次々と矢を取り出して、蜂の巣を落としていく。

 流石に盾を投げてもいないのに、蜂の巣が落ちて来るから、エイミーも気づいたようですね。

 残念ながら、あなた達は囮です。木の下で愚かな蜂の巣泥棒として、蜂達の敵意でも集めていなさい。


「ローワンさん、何でハニービーを先に倒さないですか! 倒した方がゆっくりと蜂の巣を回収できるじゃないですか!」


 ハニービーを熊と一緒に全滅させてから出ていくと、役立たずの不器用女が文句を言ってきた。

 そんなのは矢が勿体ないのと、私がハニービーに気づかれたくないからに決まっている。

 それに怪我してくれた方が、助けた時に感謝されますからね。とは、もちろん言えない。


「蜂蜜を確実に回収した方が良いと思ったからですよ。ハニービーを倒せなくても、蜂蜜を回収しておけば、逃げられますからね。さあ、蜂蜜をろ過して瓶に移してください」

「むぅ~~! 分かりました、貸してください!」


 このぐらいなら出来るだろうと、エイミーに瓶と布を差し出すと、奪い取るように受け取った。

 やれやれ、何を怒っているのか知りませんが、怒るならハニービーを一匹ぐらいは倒してからにしてほしいですね。


「うわぁー、手がハチミツでベタベタするよぉ~」

「クマクマ!」

「あっははは、くすぐったいよ。ダメダメ。これは売り物だから舐めちゃダメ」

「クマァ~~」


 エイミーが蜂の巣を包んだ布を搾って、黄色い蜂蜜を瓶の底に集めていく。

 そのエイミーの手に付いた蜂蜜を熊が舐め取っている。

 まったく熊の癖に羨ましい事をしてますね。

 私がペロペロする分はあるんでしょうね?


 まぁ、冗談はこの辺にして、問題発生ですね。

 予想外に蜂の巣一個から取れる蜂蜜の量が三百グラム程と少な過ぎる。

 買取りしてもらうには、最低でも五キロは必要なのに、手持ちの蜂の巣では一キロ程足りない。


(時刻は十一時二十分ですか……まだまだ余裕ですね。次の巣を探しますか)


 時計を見て、時刻を確認した。ここから冒険者ギルドまでは二時間二十分程度。

 近場に蜂の巣があれば、戦闘とろ過を含めて、午後三時前には到着できそうですね。

 ちょっと走り過ぎて体力が落ちていますが、冒険者ギルドまでは持つでしょう。

 何も問題なさそうですね。


 ♢

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