第24話 騎士団からの取調べ

 一階の魔物部屋で巨大熊、トカゲ人間、フレデリックと一夜を共にした。

 手足を縛られた状態で、獣臭が漂う部屋に押し込められた。

 当然、快適な睡眠は約束されない。


 魔物部屋は床に毛布だけという質素なものだった。

 人間と違って、魔物には余計な物は必要ないみたいだ。

 魔物が言っているのか、飼い主が言っているのか分からないけど。


(疲れ過ぎて、全然眠れない)


 エイミーのお父さんは朝方に帰って来た。

 リビングの方で美味しそうな匂いと話し声が聞こえてくる。

 お腹を鳴らして、朝ご飯を待っていると、お父さんが魔物部屋に入ってきた。


「なるほど。そういう事か……」

 

 ジッーと俺とフレデリックを見た後に、何だか一人で納得している。

 出来れば、朝ご飯を食べながら、説明してくれると助かる。


(それだけ?)


 でも、期待したような事は起きなかった。

 お父さんは何も言わずに扉を閉めると、そのまま部屋を出ていった。

 何がしたいのか分からないけど、まだまだ待たないといけないらしい。


 ♢


「探している男はここにいる。連れて行ってくれ」

「なるほど。確かに間違いないようだ。確認後に懸賞金は渡そう」


 体感で一時間ぐらい経過した頃に部屋の扉が再び開いた。

 朝ご飯じゃないのはすぐに分かった。

 お父さんと一緒に知らない男が四人、部屋の中に入ってきた。


 四人共、丈夫そうな厚手の生地で作られた、長袖、長ズボンの同じ黒色の制服を着ている。

 黒い上着の左胸と左腰の黒い鞘に、金色の三日月と赤い剣の紋章が施されている。

 紋章の赤い剣は、三日月の丸く欠けている部分に、剣先を下に向けて置かれている。

 

「ネイマール邸の元使用人フレデリックだな? お前に殺人と暴行の容疑がかけられている。騎士団まで同行してもらう」

「ゔゔっ! ゔゔっ!」

「さあ、立て!」


 短い緑髪の男が床に転がっているフレデリックに向かって言った。

 黒制服の男が二人掛かりでフレデリックを無理無理に立たせると、乱暴に外に連れて行ってしまった。

 多分、取調べられた後に処刑されるんだろうな。


「次はそっちの男だな。年齢十八歳から二十四歳、身長百八十二センチ前後、長い茶色と白色の髪。昨日、ネイマール邸で暴れていた男と特徴が一致する。お前で間違いないな?」

「いえ、私じゃないです」

「何?」


 部屋に残っている緑髪の男が聞いてきたので、とっさに嘘を言ってしまった。

 明らかに男の目は信じてない。

 男の後ろに立っている、もう一人の制服を着た男も信じてなさそうだ。


 というよりも、お父さん。俺を騎士団に懸賞金目当てで売ったんですか?

 扉の前に黙っているお父さんを見るけど、視線を外して、何も言ってくれない。


「嘘を吐いても目撃者が多数いる。嘘ならすぐにバレるぞ。もう一度聞く。お前で間違いないな?」

「いえ、私じゃないです……私じゃないですけど、仮に私がやった場合はどうなるんですか?」


 でも、万が一もあるから聞いてみた。

 助けた人数の方が多い。

 お礼をしたいから探している場合もある。

 本人達は助けられたと思ってないかもしれないけど、助けたはずだ。


「仮の話か……暴力を振るわれたという訴えが二十四件あったが、そのうちの一人、ネイマール氏は今朝、訴えを取り消した。それでも、二十三件の暴行で訴えられている」

「そうですか……私じゃありません」


 一瞬、大丈夫かもしれないと期待してしまったけど、やっぱり駄目そうだ。

 屋敷の主人は奥さんと娘を助けたから、訴えを取り消したみたいだけど、それ以外は無理そうだ。

 俺が助けなければ、怪我じゃなくて死んでいたのに、あの恩知らず共め。


「まだ仮の話は終わってない。その男はマイクという4級冒険者だと名乗ったらしい。調べたところ、この街の冒険者に該当する男は居なかったそうだ」

「へぇー、他所から来たんじゃないんですか?」


 沸々と金持ち達への怒りをたぎらせていると、緑髪の騎士が言ってきた。

 マイクとは言ったけど、4級とは言ってない。キチンと調べてない。


「確かにその可能性もある。他所から来た冒険者なら、この街に登録されていない。だが、一度でもこの街の冒険者ギルドを利用すれば登録される。登録されていないという事は、街に来たのは最近なのだろう」


 なるほど。そういう仕組みがあったんだ。

 全然知らなかった。


「だったら、他所から来た冒険者で間違いないですね。街の宿屋を調べてみたらどうですか?」

「そうだな、考えてみよう。話の続きをしようか」


 う~ん、やっぱり駄目だった。

 二人共、宿屋を探しに行く気配がしない。

 完全に容疑者として疑われている。


「調べたところ、ネイマール邸で二つの物が盗まれていたそうだ。一つは宝石、もう一つは服だそうだ。宝石の方は森の中に置いてあった鞄から見つかったそうだが、服は見つからなかったそうだ」


 緑髪の騎士は俺が着ている服をジッーと見ながら言っている。

 宝石が見つかったのなら、問題は解決だ。

 服なら借りただけだから、キチンと洗って返せば問題ない。


「それは良かったですね。でも、服は本当に盗まれたんですか? 勘違いかもしれませんよ」

「そうかもしれないな。そういえば、名前を聞いていなかったな。何という名前なんだ?」


 俺の話を軽く流して、緑髪の騎士は名前を聞いてきた。

 そんな見え透いた手には引っ掛からない。マイクなんて絶対に言わない。

 チャロかルディ、もしくは他の名前を言わないと駄目だ。


「ルディです」


 ああ、普通に本名を言ってしまった。


「そうか、ルディか……実はあの屋敷の使用人の服には、持ち主の名前が刺繍されているそうだ。服を盗まれた使用人の名前は『ドワイト』というらしい。服を調べさせてもらう」

「えっ⁉︎ いや、こ、これは⁉︎ その……」


 緑髪の騎士は近づいて来て、しゃがみ込むと、手足を縛られている俺のズボンを調べ始めた。

 正解の名前を言わないと駄目だったらしい。

 慌てて、何とか誤魔化そうとしたけど、間に合わなかった。


「おかしいな? ズボンにはドワイトと書かれている。これはどういう事だ?」

「あぁ……」


 お尻側のズボンの布を軽く捲って、内側を見ると、緑髪の騎士はそう言って聞いてきた。

 もう終わった。人生終わった。


 ♢


「俺です。俺がやりました」


 もう無理というよりも最初から無理だった。

 かなり遅いけど、素直に自分がやったと認めた。


「そうみたいだな。では、問題解決だ。服は着替えて、髪は切った方がいい。出来れば、染めた方がいいかもしれないな」

「えっ? あの、何を言ってるんですか?」


 緑髪の騎士が鞘から剣を抜いて、手足を縛っているロープを切りながら言ってくる。

 確かに服は着替えたいし、髪は長くて邪魔だから切りたいと思っている。


「分からないのか? 無罪放免、見逃すと言っているんだ」

「はい?」


 手足が自由になったので起き上がって、床に座った。

 緑髪の騎士は立ち上がって、剣を鞘にしまうと、状況が分からない俺に向かって話し始めた。


「護衛冒険者の話では、パーティーの主席者達が戦闘と救助活動の邪魔をしていたそうじゃないか。通りすがりの護衛冒険者でもない人間を、危険なパーティー会場に拘束する正当な理由はない」

「まあ、邪魔というか、邪魔でした」


 見逃してくれるなら、この際だから、ハッキリと苦情を言ってみた。

 もしかすると見逃すと言って、「実は嘘だ」とか言いそうな気もするけど。

 

「そうだろうな。被害者と護衛冒険者の話を聞いたところ、そう判断していいと思う。君はパーティー会場から逃げようとしていたところを妨害された。それで突き飛ばした。そう言って、逆に訴えてもいいと思うが、そう出来ない事情がありそうだ」

「えっーと、まあ、そうですね……」


 緑髪の言う通り、訴える事は出来そうだけど、無関係の人間が屋敷にいるのは、おかしい。

 通りすがりの助けに来た人なら、問題ないけど、通りすがりの服泥棒はマズイ。

 逆にあれこれ調べられると、知られたくない事を言わないといけなくなる。


 特に死んだはずのルディだという事は知られたくない。

 奴らに生きている事が知られると、口封じに殺されるかもしれない。

 人間に戻ったのに殺されたくない。


「私達、騎士団も罪の無い人間を捕らえるほど暇ではない。君が問題なければ、こちらでマイクという人物には街の外に逃げられた事にする。それでいいか、返事をもらいたい」

「えっーと、よろしくお願いします」


 少しだけ悩んだけど、すぐにお願いした。

 捕まえられて、牢屋送りにされないなら何でもいい。


「了解した。魔物退治、ご苦労だった。君の協力に感謝する。あとで報奨金を贈らせてもらう」

「えっーと、はい、ありがとうございます」

「では、失礼する。着ている服は湖にでも投げ捨ててくれ。誰かが見つければ届けてくれる」

「はい、そうします……」


 あれ? 本当に帰るみたいだ。

 緑髪の騎士が頭を下げて、お礼を言うと、部屋から出て行った。

 後ろに立っていた、もう一人の騎士も頭を下げると、部屋から出て行った。


「どうやら、話は終わったようだな。まずは朝飯を食べようか」

「お父さん……」


 まだ居たんだ、と言いそうになった。

 とりあえず昨日のお昼にクッキーしか食べてないから、お腹ペコペコだ。

 話は後にして、朝ご飯を食べよう。


 ♢

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る