第6話腐り落ちた床と歪む窓
足元が定まらず
景色が歪む
自分が自分じゃなくなる感覚
◇◇◇◇
兄さんボコボコにされてから
兄さんが恐ろしくなった
しばらく身動きが取れない俺を浴室に放置していたくせに町子を迎えに行く時間に行きなり乱暴に髪を っぱりリビングに引きずって行かれた。
「いってぇ、髪ひっぱんな痛い」
そう騒ぐと
雑に床に叩きつけられた。
「町子ちゃん、かわりに迎えに行ってあげるよ
その前に手当してやんねぇと…流石にこれはね」
兄さんはわざと腕を捻って来た
「っ…いってぇ」
身を捩らせ逃げるしかできない
「うわー、キメェェなグロッ」
俺のジャージを剥ぎ取り腫れ上がった身体を見て
笑いながら煙草に火を着け、
適当に消毒し放題を巻いたり絆創膏を貼ったりして行く。
「お前さ、さっきスマホみたけど。
町子ちゃんの家に逃げようとしてたろ?」
「逃げたらどうなるか分からないよ?」
煙草の煙を俺に吹きつけながら余計な事は言うなよと釘を刺して来た。
「事故とか適当に誤魔化しとけ、な?」と。
迎えに行く時間になり兄さんは煙草を灰皿で消し、静かに立ち上がった。
お前はベッドに寝てろよ。無事送り届けてやるからさ。
不安になり、自分が行く大丈夫だと訴えたら回し蹴りをくらい床にしゃがみ込み立てなくなった
「なん…でぇ…」
腹が熱い痛い
「あのさ、そんなダルメシアンみたいな姿で外歩かれたら迷惑なんだよ俺も町子ちゃんも。」
不服そうにしている俺が気に食わなかったのだろう、きっと。
「…テメェの男としての尊厳やプライドは残してやってんのにそっちもぶっ壊されたいか?なぁ…?」
兄さんは俺の襟首を掴み叫び散らした
尊厳やプライド…?この今の状態以上に何かあるだろうか
それとも今以上の事がまだ待ち構えているのだろうか
もうわからない
床拭いとけよ。兄さんはそう言い残し俺の日課だった迎えに出かけた。
憂さ晴らしに雑魚狩りでもしてやろうかと自分の
カバンを見ても衣服もみても端末が無かった
なんなら愛刀すらない。
俺は何が起こってるか理解が追いつかないまま思考停止して自室へと引きこもった。
いくら考えても何も分からない俺が手を出したのが、大切な人を抱いたからこんな事に?――――――――
カッチカッチカッチと規則正しくなる時計
遠くで鳴る何の音
学生のはしゃぐ声。
ただ、ボーッとした意識の中でも薬だけは飲まないとと思い台所で水と薬の錠剤を飲み干した
……マスクは今は顔が腫れているからつけたく無かった。
◇◇◇◇
聞き馴染んだ声が聞こえて来て
目を開けると其処には
町子と兄さんが並んでいた
町子は涙を溜めて俺にしがみつく
「さっくんどうしたの、なんで?」
全身ボロボロの朔を見てただ不安そうに
悲しそうにしていた。
その横で薬は飲んでいるのだろうが
マスクをしていない兄さんが
瞳孔が開いた目、裂けた口で俺を見つめニヤリと笑い
町子の肩の辺りで手のひらをひらひらとしていた。
「さっくん、今朝帰ってくる時ボーッとして事故っちゃったんだってさ痛そうだよねぇ」
兄が口を開くと町子の顔面は真っ青になった
「朝…私今日学校について来てってわがままを…」
「私のせいだ…さっくん,お兄さんごめんなさい…」
純粋な町子は疑う事を知らずただ泣き続けた。
兄が肩を抱き「町子ちゃんは悪くないよ…悪いのはよそ見して歩いた朔だよ」
と言った。
兄は俺を蛇のような鋭い視線で睨み指示した
「そうだよ、俺が悪い泣かないで」
泣いた町子と顔を歪ませた兄さんが忘れられない
「さっくんの看病の為に町子ちゃん、しばらくうちにいる事になったから。よかったなさっくん」
「さっくんが元気になるまで頑張るからね!」
俺は何も知らない町子を人質に取られたのだと理解した。
俺が町子と二人で暮らしたいなんて送信してなければよかった
俺を休ませるからを理由にして町子を部屋から連れ出し
何かのタイミングで兄さんは俺の部屋に戻って来た
「さっくん、いくら頭に血がのぼったからって
やりすぎた。大切な弟を半殺しなんてわるかった、ごめんね」
そう良いながら何かを投げて寄越した
「これ…俺の」
見慣れた端末と紙袋だった。
液晶をつけるとゾッとした
「さっくんが寝てる間にお手伝いしておいたよ、
だから安心して休みなよ…?」
「あとさ…さっくんバカ犬じゃん?また間違えがあったらいけないと思って買って来てあげた。ちゃんと使いなよ?」
そして俺の口にビニール袋から出した何かの肉片をぶち込んだ
「さぁ、食えよ」
吐きそうになりながら飲み込んだのを確認して嫌な笑い方をして兄さんは部屋を後にした
身体が焼かれるみたいに熱くて痛い
「なんなんだよ、これ…」
俺が寝ている少しの間に1000近くポイントが増えていた。どうやったら?いみがわからない
何で…一体何を倒したら数時間でこんなに貯まる?
俺は何を食わされた?
頑張って来た何かが崩れ落ちる音がした
紙袋の中身は――――――――――。
「なんなんだよアイツ、何がしたいんだよ」
「気持ち悪りぃ」
気持ち悪くて、
許せなくて
情けなくて
痛くて
もう自分がわからなくなった
脚を取られて其処からは出れない、そう――底無し沼に沈む感覚。
ズブリと沈み
掴むものすらない
息ができない。
◇◇◇◇
夕飯に呼ばれ、よろよろとベッドから這い出て
リビングに行くと俺は更に砕かれた
白い大きな襟に淡い生成りのニットカーディガン
白い花柄のワンピース
白いレースの靴下
アイツの好みの服の系統だった
それを町子が着ていた
「さっくん見てみて、さっきお兄さんがくれた!さっくんに見せたら喜ぶよって!」
俺は引き攣りながらなんとか笑って
すごく似合う…夏が来るから丁度いいな
と言いながら脳死した。
別に何を着ても似合う何を着ても構わない
でも
兄さんの好みの服をなぜ
ゆっくり兄さんを見た
兄さんはヒラヒラと手を振っている
何を食べたか覚えてない
何を話したか覚えてない
町子が寝た後兄さんに問い詰めた
「兄さん、昨日の事は本当に俺がいけなかったと
思ってる。兄さんが怒るのはもっともだと思いました…何で執拗に俺を殺しにかかってるか教えてください…」
床に座り込み、もう辛いと訴えた
「朔夜くんはひどいなぁ…愛する弟のポイントと体力回復の為にカシマ狩ってきてやったのにさ」
「カシマは誘き寄せて殺した」
兄さんは伊達眼鏡を外し笑った
アイツ昔から気に食わなかったんだよねと言いながら
「服はりっちゃんが好きなだったショップがショッピングモールに入ってて懐かしくなった。
町子ちゃんはりっちゃんにどっか似てるからね…
ただそれだけ…。俺はりっちゃんが綺麗な服、可愛い服…おしゃれしてたら辛くても頑張れた。
さっくんも元気になるかなーって思っただけど?
あっ紙袋の中身みた??押さえつけたり禁止しすぎてもダメって話あるじゃん?ゲームとかさ。
禁止しちゃうと将来反動がーとか。だから反省したわ。やって良いよ?別に無くなったらまた買ってあげるからさ俺もさっくんくらいの時はヤりまくりだったからね、理解をしてあげないとね爆発しちゃうらしいじゃん?」
兄さんは間を開けず喋り続ける
俺は恐ろしくなった
ただ
視線を外すこともできず兄さんを眺めるしかできなかった
「今は少し休んでいいよ。
元気になったらで良いんだけどお願いがあるンだわ。
もちろん給料は払う。 内容によってはポイント付くし…俺の仕事を手伝ってくれたら町子ちゃんには何もしないし。金あれば好きにデートもいけるじゃん?
俺も本気で反省したんだよ?
だからバイトとして、なんでも屋の仕事手伝って欲しい」
ニコニコと笑いながら話しているが
これは手伝わないと町子に何かすると言ってるよなと即理解した
兄さんがどんな人なのか理解できた気がした
「わかった、やるよ」
目を見てはっきり決意を口にした。
「さっくんちょっとおいで」
兄さんは食器棚から鍵の束を手に取り同じマンションの別の階の部屋の前に俺を案内した。
この部屋の鍵はこれ。赤いテープ貼ってあるやつ。
部屋に入ったら即鍵をかけろ。
変な生臭い匂いがした
嗅いだ事がある…
ここは何でも屋の仕事部屋。
買い取ってる。
浴室で解体、血抜き
壁にある仕事道具は何でも使っていい
あっちにビニールコートとかレザー手袋とか…
あっちに釘…
「兄さん何でも屋って」
「何でも処分屋さんだよ」
楽しそうに答えた
「奥の部屋は何かを聞き出す為にお話をする場所」
ドアの向こうにはベルトがついた椅子
壁にも床にもビニールシートが貼ってある
「さっくんやれるよね」
俺に拒否権はない――――――――――――――。
もう引き返せない場所まで来てしまった
「ポイント…付くやつメインなら…あと本当に町子には何もするな、それならやる」
殴られる予感がした。
身構えたが殴られはしなかった
「いいよ、それくらいは叶えてあげるよ」
「あと、町子ちゃんの前では楽しい家族しなきゃね」
◇◇◇
ただ町子に会いたいだけ
一緒にいたかっただけ
なのに言えないことばかりが増えていく
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