花火大会 前編
「ケルベロスの攻略方法、分かったかも」
「マジか?」
俺は蜂が何処から飛んでくるのか、辺りを見渡した。
「ゴエモンさん、向こうから蜂が沢山飛んできてますよね」
「ああ、あっちのデカい木の陰から出て来てるな」
「蜂の巣取って来てもらえません?」
「ちょっと待てよ、刺されまくるだろ」
「大丈夫ですよ。ミツバチですし、アバターに痛覚は無いですですから」
「…お前って時々、人でなしになるよな?」
「俺も一緒に行きますから、凛はここで待ってて」
「私も行かなくて良いの?」
「刺されると、大変だから」
「お前、俺と随分扱い違うじゃねぇか?!」
『はいはい、大人気ない事言っちゃダメですよ〜』
ウィンディって本当に良いタイミングで出て来るよな。
『彼氏さんはカリンちゃんが、とっても大切なんです。男なら、黙って身体を張りましょう』
ゴエモンさんはシブシブ俺について来た。
目標の木の裏に回り込むと、大きなミツバチの巣があった。
巣の周りには、大量の蜂が飛び回り、巣の表面も蜂だらけだ。
ゴエモンさんの顔が青褪める。
「行きますよ」
「行くって、どうするんだよ?」
「この刀で切り落とすんです」
俺は之定を鞘から抜いた。
「お、おま、ちょっと待て!」
「うりゃっ」
落ちて来た蜂の巣を両手でキャッチした。
一瞬で俺とゴエモンさんは、蜂に集られる。
「うわっぷ、痛くないけど、怖ぇよ!」
「ほら、逃げますよ。蜂を追い払って下さい」
ゴエモンさんが、剣で蜂を追い払う。
突破して俺達を刺した蜂が、バタバタと死んで行く。
「ルイス、キリがねぇぞ」
「想像以上ですね」
「ふざけんな、結構HP減ってるぞ」
蜂から逃げる俺達を掠める様に、火の玉が飛んできた。
「凛!」
「もう、何やってるのよ」
次々に凛が火の玉を放つ。
何時の間にか、俺たちの周りから蜂がいなくなっていた。
ゴエモンさんの顔は、ギャグ漫画のように腫れ上がっている。
俺も多分、同じ様なモンだろう。
「デトックス」
凛がアスクレピオスの杖を装備し、魔法を唱える。
蜂の毒が抜ける。
恐らく刺さったまま残っていた針も抜けただろう。
「ヒール」
腫れもひき、HPも回復する。
やっぱり、あの杖凄ぇな。
「有難う凛、助かった」
「ルイス、カリンの持ってる杖、何なんだ?!」
ゴエモンさんが、食いついて来た。
「突っ込む所、ソッチですか?」
「お前ら、ダンジョンに行かないで、武器探してたのか?」
「そりゃ、ユニークアイテムは早い者勝ちですからね」
「確かにそうだな」
「他のプレイヤーには内緒でお願いしますね」
「…分かったよ」
俺達は蜂の巣を持って、デュッヘルンに向かった。
デュッヘルンはアムダス同様、廃墟の街だった。
瓦礫の山と化した広場に、多くのプレイヤーが集まっている。
時々ポップしてくるアバターは、ダンジョンで死んでリスポーンしたプレイヤーだろう。
ゴエモンさんが、集まっているプレイヤーに呼びかける。
「皆んな聞いてくれ。ルイスがケルベロスの攻略方法を思い付いたらしい」
「「「「おおぉぉぉおおお」」」」
一気に注目が集まった。
「ルイス、聞かせてくれ」
「あ、はい。攻略と言っても倒し方じゃないですよ」
注目してたプレイヤーが、明らかに落胆したのが分かる。
「倒さなくても、突破できれば良いんですよね」
「流生、そんな方法があるの?」
「神話をなぞるなら、俺の知る限りでは3つある。一つはケルベロスを地上に引き摺り出す方法だ。だけど、ヘラクレスに相当するキャラがいないから、これはボツだ。2つ目は竪琴の音色で眠らせる方法だ。探せばダンジョンの何処かに、竪琴があるかも知れない」
「そんなの何処にあるんだよ?」
誰かが不満を訴えた。
文句があるなら、自分で考えろって言ってやりたい。
「黙って最後まで聞け!」
「そうだよ、3つ目があるんだろ?」
冷静なプレイヤーが、文句を言うヤツを黙らせた。
「これだ」
俺は蜂の巣とケシシの葉を取り出して、みんなの前に置いた。
「ケルベロスは甘い物が好物だ。蜂蜜とケシの粉を練って焼いた菓子を食わせとけば、目の前を素通り出来る。神話では人間の女の子が、この方法でケルベロスをやり過ごし、ペルセポネに会いに行っている」
「「「……」」」
「但し、神話をなぞってるなら、ダンジョンのボスは冥府の神ハデスって事になる。初っ端から、そんな大物が出てくるのかって疑問はあるけどな」
結論から言うと、俺の攻略方法は的中した。
残念な事に、ボスの正体も的中した。
第1期のβでは、ハデスを倒し切る事は出来なかった。
俺も何度もハデスに殺された。
第2期のβでは天叢雲剣を使ってリベンジし、レア度10のユニークアイテム『隠れ兜』を手に入れた。
因みに、もう一つドロップした『バイデント』はレア度7だったが、3番目のダンジョンボス、クロノス特攻の武器だった。
クロノスのドロップ品はレア度10のユニークアイテム『ハルパー』だった。
俺と凛は、第2期βが終わるまでに、レア度10のユニークアイテムを4つも手に入れた。
〜〜〜〜〜
第1期,2期で、私は流生と一緒に、3つのダンジョン攻略全てに参加し、パイオニアと呼ばれる全線プレイヤーの主力となった。
しかし、私達にとって最大にして最高のイベントは、第1期β3日目の花火大会だった。
「凛、今夜は攻略もアイテム探しも休んで、アムダスで花火見物をしないか?」
流生からのデートのお誘いだった。
デートと思って良いんだよね?
「うん、花火大会って初めて」
「凛もか?実は俺も初めてなんだ」
「初めての花火大会が流生と一緒って、何か嬉しいな」
「花火が終わったら、その後はプレイヤーハウスに泊まろう」
「…うん」
『2人とも楽しそうですね。運営が浴衣も準備してますよ〜』
「「ウィンディ!」」
何故かウィンディも冷やかしたり、揶揄ったりしてこない。
流生の雰囲気から何かを察していたのかもしれない。
この日も何時もように流生が、朝食の準備をしてくれた。
流生はゴエモンさんの家から帰って以来、食事の支度を全てしてくれている。
甘え過ぎてるって分かってるんだけど、流生のご飯て美味しいんだよね。
朝食を食べた後は、宿題を片付けた。
流生のお陰で、夏休みを10日以上残して、宿題が全部終わった。
お昼から夕方にかけて、デュッヘルンのダンジョンでレベリングをして、早めに一度ログアウトした。
「流生、花火って夜の8時からだよね」
「そうだよ。お風呂と夕飯済ませてから行こう」
夕飯は、何とも豪勢なステーキだった。
「親父が、ふるさと納税のお礼で貰ったA5のシャトーブリアンだよ」
「こんな凄いお肉、初めてだよ」
「俺も焼くのビビった。失敗してダメにしたら、シャレになんねぇ」
ミディアムレア一歩手前の最高の焼き加減だった。
ソースも流生の手作りだった。
「このソースも凄く美味しい。どうやって作ったの?」
「簡単だよ。林檎と玉葱、ニンニクをすり下ろして、赤ワインと醤油で一煮立ちさせただけ。この肉だったら、塩胡椒だけで食べた方が美味しかったかも」
「そんな事ないよ。もう、流生がご飯作ってくれない生活は、考えられないよ」
決してお世辞じゃない。
本当に流生って、万能なんじゃないかって思う。
夕飯を済ませて、お風呂に入ると、花火が始まるまで30分くらい時間があった。
リビングで休んでいると、珍しく流生がソワソワしている。
多分そうだよね。
期待して良いんだよね。
ログイン直前にママと健介さんが帰って来た。
この2人お盆休み、毎日デートしてるよね。
私と流生も人の事は言えないけど。
「親父、今日は凛と一緒に
「ああ、行っておいで。余り夜更かしするなよ」
「凛も流生君に、余り迷惑かけないようにね」
「私が妹みたいに言わないでよ」
現実世界(リアル)での外泊だったら、こんな簡単に許可は出ないんだろうな。
やっぱり、VR(バーチャル)って良いな。
「流生、行こう」
今夜は最高の夜になりそうだ。
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