2020年3月2日 一斉休校で暇を持て余していたこの日、新型コロナに感染して苦しんでいる隣人の美少女を拾いました。
逢坂玲奈との出会い
2020年1月6日
武漢で原因不明の肺炎 厚労省が注意喚起
1月11日
武漢で男性(61)が死亡 初めての死者と見られる
1月14日
WHO 新型コロナウイルスを確認する
1月16日
WHO「感染は限定的」
1月21日
WHO「ヒトからヒトへの感染が見られた」
1月23日
WHO「国際的な緊急事態にはあたらない」
1月28日
新型肺炎 日本人で初の国内感染
1月30日
WHO「国際的な緊急事態」を宣言
2月3日
乗客の感染が多数確認されたクルーズ船 横浜港に入港する
2月4日
医療機関でマスクが不足。定価の10倍以上で転売も
2月8日
新型ウイルス 中国国内の死者が700人超える
2月11日
WHO 新型コロナウイルスを「COVID-19」と名付ける
2月17日
厚労省 受診・相談の目安を公表 かぜの症状や37度5分以上の発熱が4日以上
2月21日
菅官房長官「今週中には、マスク毎週1億枚以上の供給を確保予定」
2月23日
新型ウイルス 北海道で新たに9人の感染確認 計17人に
2月25日
WHOのテドロス事務局長「パンデミックに当たらず」
2月27日
安倍首相 全国すべての小中高校に臨時休校を要請する考え
2月28日
新型コロナウイルス 国内の感染919人(クルーズ船含む)
2月29日
WHO 世界的な危険性「非常に高い」に引き上げ。パンデミックを認めず
3月2日
全国の公立校で臨時休校が始まる
――――――――――
『3月2日のニュースをお伝えします。
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ目的で、政府の要請を受けた全国の小中学校と高校で臨時休校が始まりました。当番組は、突然の措置に困惑する生徒・保護者・教職員の様子を取材しました・・・』
――――――――――
「――隣の部屋に住んでいる者だ。気分が悪そうだが手助けは必要か?」
シトシトと、小雨が降っていた。
冬の残り香が居座る季節ゆえ、春といえども肌寒い。
その日、都内は陰鬱に包まれていた。
平日昼間の月曜日だが、街の大通りに人影は少ない。
世界的な感染拡大を続ける新型感染症の恐怖が、人々から活気を奪っていた。
街全体が重苦しさに覆われていたが、『本日マスク入荷予定あり』の看板を掲げたドラッグストアーだけは盛況だった。
客足の絶えない、ドラッグストアーの軒先で。
降りしきる雨の中、マスクで顔を覆った美少女が座り込んでいた。
「……なんでしょうか?」
突然、他人から声をかけられたマスク姿の美少女はつらそうに声を発した。
「俺はおたくの隣の部屋に住む者だ」
「……あの時のお隣さんですか?」
「小早川陸斗だ。引越し挨拶の時は名乗ってなかったな」
短い会話の最中、少女は濡れた地面に腰を下ろして時折苦しげに咳き込んでいた。
傘もささずに雨粒に打たれる、その少女は美しかった。
艷やかな髪、華奢だが女らしい体つき、マスク越しでも分かる美少女である。
美少女はフラフラと立ち上がると、喉から絞り出すように言葉を発するのだ。
「……私に近寄らないでください」
都立高校に通う
それは、新型コロナウイルス感染症の国内蔓延だった。
毎日高校で大勢の生徒と接する息子が震源地の家庭内感染を懸念した父親の要望で、小早川は都内の賃借マンションで一人暮らしを始めることになったのだ。
それなりに高収入で金銭的なゆとりがある両親が用意したのは、小早川が通学する都立高校に近いワンルームの賃借マンションである。
親が契約したマンションの隣室には、とんでもない美少女が住んでいた。
隣室の美少女が着ていたのは、小早川の通う都立
平凡なデザインをした男子用の制服と異なり、女子用の制服はアニメキャラを思わせる特徴的なデザインをしているので、彼女の正体が嫌でも分かってしまったのだ。
晴嵐高校の50年の歴史において、最も可愛い美少女と評される二年生の女子だ。
美少女に目がない男子生徒から崇拝されるも、おせっかいな女子が形成した鉄壁の防御で守られる彼女の噂は、他人の色恋沙汰に興味がない小早川でも耳にしている。
噂が正しいのなら、逢坂玲奈という美少女は、文武両道で才色兼備の完璧超人である。成績は常にトップで、部活には所属していないが運動会で大活躍する身体能力の持ち主で、体つきは細身のスレンダー体型だがそのバストはFかGとささやかれている、神から
逢坂が隣室で一人暮らしをしていたのはただの偶然で、彼女と会話を交わしたのは五日前にした引っ越し初日の挨拶が最後だった。
同じ高校に通う隣人の美少女に、小早川は表情ひとつ変えずに語りかけた。
「嫌われているなら仕方ない。おたくが家に帰るまで見守らせてくれ」
「ゲホッ、ゲホッ……あ、あなたが嫌いではなく……」
「病院に行きたいならタクシーぐらい呼んでやる。それとも救急車が必要か?」
「……けっこうです。救急車を呼ぶほどではありません……」
苦しげに咳き込む逢坂は、手のひらを拒絶の形に向けて顔をそむけた。
ゲホゲホと咳き込みながら、逢坂はソレを口にした。
「近寄らないでください……私はコロナかもしれません……」
ノーマスクの小早川は、逢坂の発したコロナという単語に一歩だけ後ずさる。
逢坂がコロナに感染……ありうる。
感染経路不明の新型コロナの市中感染は、連日報道されていた。
数カ月後に東京2020オリンピックの開催を控えているせいか、日本国政府はPCR検査の拡充に消極的で、大勢の発熱患者や肺炎の患者がPCR検査を受けたくても受けることができず、結果として感染源が野放しになっていると噂されていた。
いま、逢坂の手助けをすることは、リスクが大きすぎる。
小早川が葛藤している前で、逢坂は咳き込みながら言葉を続けていた。
「ゲホ、ゴホッ……私、もう病院に行ったんです……お医者さんに発熱4日ルールがあるから入院もPCR検査も断られて……院内感染が怖いから診察室にも入れてもらえなくて……駐車場で問診されただけで……薬局で薬を貰って自宅で安静にしているように言われて……ドラッグストアーの店員さんに……薬ができるまでの間は店内で待機しないでほしいと言われて……」
苦しげに語る逢坂の瞳から抑えきれない涙が漏れて、マスクに流れる。
逢坂の言葉で状況を理解した小早川は、ふつふつと湧き上がる憤りを感じた。
逢坂がドラッグストアーの軒先で傘も差さないで、雨に濡れていた理由。
それは店内から追い出されて、薬が用意できるのを待っていたからに違いない。
病院の対応も、薬局の対応も、病人相手にして許される対応ではない。
「……おくすり、まだできてなくて……」
その時、店内から薬剤師のおばちゃんが出てきた。
薬剤師は処方箋薬が入った袋を差し出しながら、申し訳なさそうに「本社からの指示で仕方なくてね」と謝罪してきた。
そして「あなた彼氏さん? 彼女を家まで送ってあげて」と爆弾を投げてきた。
「待て。違う。俺が感染したらどうす――」
小早川は即座に否定して、困ったように逢坂を見る。
ゲホゲホと激しく咳き込んでいて、返事どころか帰宅も困難な様子だ。
タクシーは呼べない。運転手に感染する可能性がある。
バスは論外。救急車も同じ。
警察は管轄外だし、自衛隊に災害派遣を要請する権限を小早川は持っていない。
「…………よし」
ならば、俺がやるしかない。
小早川は腹をくくって、逢坂の華奢な腕をとった。
「やめてくださ……ゲホッ」
「安心しろ。昨日テレビで感染症の専門家が語っていたことだが、いま国内で発生している風邪症状の患者の99%以上は新型コロナ感染症以外の病気が原因らしい」
「……私のことは……見捨てて下さぃ……」
「ただの風邪で大げさな女だ。自宅まで送ってやる」
小早川の親切に下心はなかった。
逢坂が美人だからって、逆差別したつもりはない。
薬局にいた隣人が誰であろうが、きっと同じことをしていただろう。
典型的な草食系男子の小早川を動かした原動力は、逢坂が受けた理不尽な扱いへの憤り、隣人を見捨てる罪悪感、根が善人ゆえの親切心だった。
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