第10話 【本の紹介】海外のもう遅い、平成のざまあ、昭和のロリババア
小説投稿サイトから誕生し、いまや一大ジャンルを築いている「なろう」系。あれと似たジャンルの小説って、実は昔からあったよなあと個人的に思っているので、それを今回は紹介していきたいと思います。
ふだんは感想は控える私ですが、商業作品には勝手にあれこれ言っても許されるだろうと思いまして、自由に語らせていただきます。
――ネタバレ含みますので、注意!
まず、「もう遅い」系の作品。
昭和3年(1928年) 『版画』ヒュー・ウォルポール
<これまでずっと妻の言いなりのATMとして生きてきたが、
妻が俺のコレクションを捨てたので、妻を捨ててやりました。
「やり直したい」って言われてももう遅い!>
という内容でございます。
夫のコレクションを勝手に捨てる妻って、ネットでよく見かけますよね。
あれの昭和3年のイギリス版でございます。
どんなに理不尽な仕打ちをされても耐えてきた夫が、コレクションを捨てられたことだけはどうしても許せなかったっていうところは、ネットで見かける話とそっくり同じ。
まさかこれが元ネタなんでしょうか。
それとも、似たような夫婦が時代も国も超えて存在するのでしょうか!?
私にはさっぱり刺さらないストーリーなんですが、ぐっとくる方もおられるんでしょう。だからこそネットでもずっと語り継がれているのでしょうね。物を捨てる云々の前に、まず夫婦でコミュニケーションをとりなさいよって思っちゃう。物を捨たから夫婦が壊れたのではなくて、もともと壊れていた夫婦が物を勝手に捨てたことで夫婦円満のメッキが剥がれたようにしか見えない。
続いて、ざまあ系のファンタジー小説です。
平成5年(1993年)『青き月と闇の森』サイモン・R・グリーン
<無能だと馬鹿にされている第2王子のルパートは、
王と兄から生きて帰れない無謀なミッションを命じられる。
しかし、なぜか大活躍しちゃって彼女はゲットするわ、みんなから英雄扱いされるわで、王と兄ざまぁ!>
というお話です。コメディ色の強い、お笑いファンタジーです。
ちなみに主人公は童貞です。童貞なので清い体です。清い体なので愛馬はユニコーンです(ファンタジーの世界では、ユニコーンは処女にしか懐かないという設定が多い)。このことも周囲から馬鹿にされています。「えー、王子ったらユニコーンに乗ってるんだ~」「ぷー! ダッサ~!」みたいな。
平成5年の作品ですが、これはなろう小説ですか? ってぐらいに、なろうだと思うんですが、いかがでしょうか。
ただ、ヒロインがなろう系とは雰囲気が違うかな……。もっとこう……、うん……。私は好きだけど、男性受けはしないかも。
最後に、ロリババアものです。
昭和35年 『喜寿童女』石川淳
<いまは江戸時代、私は経験人数1000人の77歳なんだけど、「若返って将軍様とエッチしてみない?」と誘われたのでOKしてみた → 熟練のテクニックを持つ幼女爆誕!>
という、かなりクレイジーな小説です。
人生リセットするというか、意識はそのままで別の体になるというか、広い意味で捉えたら、これも転生ものと言えるのかも……、うーん、さすがにちょっと強引かな。
しかし、このクレイジーな設定がもうなんだかネット小説っぽいなって思いました。あらすじが強すぎる。ちなみにエロ描写はないので、そういうのを期待したらだめですよ!
石川淳についてついでに言うと、『明月珠』も、昨今ブームの「オッサンと女子高生もの」の雰囲気を感じます。こちらは就職活動がうまくいかない中年のオッサンが、若い女の子に自転車の乗り方を教わるっていう話で、劣等感を抱いた中年男性が若い女の導きで自信を取り戻すっていうのにぐっとくる男性も多かろうと、そんなことを思った次第であります。作中は戦時中なので空襲に見舞われるのですが、そんなとき「オッサンは自分の財産(本)が焼かれようとも、この娘だけは守ってみせる!」と決意するところとか熱い。私は女ですけど、「わかる~! ぐっとくる~!」ってなりました。
――
というわけで。
時代とともに小説の形は変わっていっても、
人々が興味を持つことや共感できること、小説に求めるものは変わらないのかもしれないなあって、昔の小説とイマドキのネット小説を交互に読んでいると感じるのでした。
そして、そういった普遍的なものを書ける人を作家と呼ぶのだろうと私は思っていて、だから私はハガキ職人を名乗っているのだなあと再認識しました。私は思いついたネタを自分勝手に放出していくだけの身勝手な人間でございます。まあ、だから楽しいんですけどね! 趣味ってそういうものでしょー。
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