第4話 俺達、別れました
俺と莉花は同じ学校に通っている。
でも、莉花は年下で学年が違う。
だから登下校時を除いて、会えるのは放課の時くらいだ。
「ねー、とーわ。付き合ったら何するんだろねー」
俺達は昼放課、屋上に出て一緒にお弁当を食べていた。
毎日一緒に。
最初は学食だったけど、こっちの方が広々としてて、贅沢な気分になれるから。
ここで食うのが、習慣になったのだ。
「うーん。そうだな、一緒に出かけたりとか? 遊んだりとか?」
「今までもしてたよ?」
「じゃあ、手をつないだり?」
「今までもしてたね」
「だったら、きっキスしたり?」
「偽物じゃできないね」
「ぐぁぁぁぁ」
本物の関係になる以前に、色っぽい会話にならん!
俺はお兄ちゃん枠で、異性として見られていないんだろうか。
もっと、頼もしい姿見せないとだめなのかな。
でも、何をやればいいんだ?
運動するとか?
むりだ。
やってる間に別れる未来が目に浮かぶ。
それに運動の部活とかやると、一緒にいられる時間がへっちゃうし。やだ。
「とーわ、やっぱり最近何か悩んでるの?」
「なっ、なんでもないよ」
俺が元気がない、と判断したんだろうか。
莉花は翌日、なれないメニューで弁当を作ってきた。
ビーフシチューって。
俺の好物だけど、めっちゃ時間かかるじゃん。
「はい、とーわ。よく噛んで食べてねー」
俺の目の前に置かれたのは、スープボトルだった。
ふたを開けると、本当にビーフなシチュー。
汁だけじゃなくて中身の具材ももたくさん入ってる。
「作り過ぎだろ」
俺は冷静に突っ込んだ。
「そうかな。でも、男の子はよく食べるってお母さんが言ってたよ」
「おふくろさんに手伝ってもらったのか?」
「ううん、自分でつくったよ」
「どうしてそこまでわざわざ」
莉花はだってね、と続ける。
「とーわは大事な人だから、困ってたら早く元気になってほしいんだ」
俺は罪悪感に襲われて、屋上の床をのたうちまわった。
「元気出たかな?」
俺は、俺はなんて卑怯な男なんだ。
自分の事だけ考えてたのが恥ずかしくなってくる。
俺が欲望にまけて、デートでウハウハしてる間に、莉花は俺の心配をしてくれてたなんて!
俺は、がばっと起き上がって土下座した。
「ごめんっ、莉花!」
「えっ?」
「不埒な思いで恋人ごっこに付き合わせちゃって本当にごめん。自分で本当の事を言う勇気がないからって、酷いよな」
偽物でも付き合ってるうちに好きになってくれるかもって、そう思ってごっこに巻き込んだけど。
本当は玉砕するのが分かってるのに告白する勇気が出なかったんだ。
玉砕してでも思いを伝えた奴等の方が俺よりよっぽど莉花にふさわしい!
「恋人ごっこは今日で終わりだ、偽物でも莉花の恋人になる資格は俺にはなかったんだよ」
「とーわ」
「理由は言えない。言う資格なんてない。だから、もう莉花はやりたくない事につきあわなくていいんだぞ」
「そんな事ないよ」
「えっ」
罵倒されるのも覚悟の上だった。
けど、帰ってきたのは予想外の答えだった。
「いつも一緒にいるのに、変だね。恋人って特別なのかな。デートしてるときは、とーわなのにちょっとドキドキしちゃった」
莉花は恥ずかしくて今まで言えなかったけど、と続けた。
もしかして、脈あり。
なのか。
「だからもうちょっと続けてみよ? とーわが何を悩んでたのか知らないけど。好きでもないのに、付き合うのはふせーじつだけど、ちょっとでも好きって気持ちがあったら、ふせーじつなんかじゃないと思うよ」
うぉぉぉぉっ。
なんてこった。
俺の想い人は女神か。
いや、天使か。
いや、俺の救世主だった。
でも、それに甘えちゃだけだよな。
他の奴等に失礼だ。
それでもいったん別れて、関係をリセットするべきだろう。
それで、それからは今度こそ、真正面からぶつかって好きな人に振り向いてもらうんだ。
変わろう。
今までの弱虫な俺にさよならして。
「莉花、大事な話があるんだ」
そういうわけで、俺達は別れた。
告白もしてないから、ただ前の状態に戻っただけだけどな。
でも、何でかちょっとだけ、前向きになった気がする。
「あっ、おはよう。とーわ。一緒に学校いこー」
「おう。今日も莉花は元気だな」
叶うかどうか分からない恋心だけど。
勝てなくても頑張らなくちゃいけない事ってあるんだよな。
好きな人に振り向いてもらうために、好きな人に笑顔でいてもらえるように、もっともっと強くなろう。
「よーし、久しぶりに学校まで競争しよっ、はいっよーいどん」
「ちょ、ひどっ、卑怯だぞっ。待ってくれって莉花!」
好きな少女に告白したい俺の、卑怯で矮小な小細工の話 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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