第2話 偽物でも恋人になりたい



 俺は幼なじみの莉花の事が好きだ。


 舌足らずな口調で「とーわ」と呼んでくれるその声が好きだ。

 無警戒に俺の近くに近寄って来るところが好きだ。

 無邪気に笑うその顔も好きだ。

 何にでも一生懸命になれる性格も好き。


 けれど、莉花はまだ恋愛についてよく分かっていない様だった。


「好きだ! 莉花ちゃん、俺とつきあってくれ!」

「えーっと、ごめんなさい」


 たまに莉花に告白する男子がいるが、恋愛とかよく分からない莉花はそれらをみな断っていた。


 俺はずっと気になっていたので、俺は学校帰りに何とか勇気をだして、何でそんな風なのか聞いてみる事にした。


 誰かと付き合わないってのがいいけど、このままだと俺もつきあえないし。


 それは困る。


「なあ、莉花。もし俺がお前の事好きだっていったら、お前はどうする?」

「えっと、うーん」


 返事の入り方が、歴代の玉砕野郎達と同じだった事に少し絶望する。


 たまに告白現場をのぞくと、大抵こんな始まり方だった。


 一人絶望タイムに入る。


 これは駄目かもしれないと思った。


 だが、莉花は意外な言葉を返してきた。


「とーわだったら、良いよ。つきあっても」

「え、じゃあ」

「でも、恋愛とかよくわかんないけどね!」

「ええー」

「だって、恋ってどうやって落ちるの? みんなよく人を好きになってるけど、あたしは不思議だな」

「えええー」


 俺は緊張しながらも、最後のオチにがっかりした。


 でもがっかりはしてられない。

 いいアイデアを思い付いたから。


「だったらさ、試しに俺と付き合ってみないか? ほら、告白断る時に、言い訳できるぞ。彼氏いますからって」


 こういう形なら、玉砕せずに付き合えるかも!


 けど、莉花は渋ってるようだ。

 唇をとがらせてる。

 むくれてるのもかわゆい。


「でも、それ不真面目じゃない?」

「形から入るカップルだっているだろ。ほら、お見合い結婚とかあるじゃん」

「けど、告白断るために付き合うなんて、告白してきた人にも失礼だと思うよ」


 ぐぬぬ。

 もっともな正論だ。


 やはりこの手はだめだったか。


「とーわは困ってるの?」

「ん?」

「すっごく困ってそう。よく分からないけど、何か困った事があるなら、とーわと付き合っても良いよ」


 えっ、どうしよう。

 そうしちゃおっかな。


 いやいや、さっき莉花が失礼だって言ってただろうが。


「ぜひ、おねがいしまぁぁぁす」


 でも、俺の心は正直だったようだ。


「決定! はい決定! 俺達は今日から恋人同士だ! カップルだからな!」

「えぇー。なんか、うーん、ちょっと早まったかも」


 莉花、渾身の引き顔。

 うっ、やっちまったか。


 でも俺の口は取り消しの言葉を、一文字も放とうとしない。


 今さら取り消しはできませーん。って感じになってる。


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