自分この不可思議な存在

坂西警護

ソロモン王の小さな鍵

「またソロモン王の小さな鍵レメゲトン悪戯いたずらしおったな!」

 師匠『被免達人』が怒声を放つ。

「いいえ、そのようなことは……」

 『新参者』の私はそう返す。

「ふむ、ならばソロモン王の小さな鍵レメゲトンがお前に悪戯したのだろう」

 師匠『被免達人』は独り言ちた。

 私はまだソロモン王の小さな鍵レメゲトンで悪魔、精霊、天使、は召喚できない、あるいは不完全な形でしか召喚できない。

 つまりは未熟者であり、まだ少し悪戯する。つまりは悪ふざけをするぐらいしか能がない。

 なぜ私は魔術の道に進んだか?

 私には一つの悩みがある。

 それは『癲癇てんかん

 原因は不明。

 私は現代医療がさじを投げた、この不治の病を治し、真っ当な人生を歩むため魔術の道を進んだ。

 文学的才能があるならばドストエフスキーにでもなろうかと思ったが、あいにく詩の女神たちムーサイに愛されておらず文学賞は落選続き。文学という異教の神悪魔にも見放された私は寄り異教の道悪魔的な道つまり魔術に走った。

 希代の魔術師アレイスター・クロウリーの忘れ形見『A∴A∴』

 師匠『被免達人』はその一人らしい。

 結社は解体されたが活動自体は秘密裏に続いているらしいので私はそこに入った。

 ただ、第三団……つまり『神殿の首領』『術士』『イプシシマス』は見たことすらない。

 本当にいるのか最近少し怪しくなってきた。

 そもそも師匠の被免達人も単なる自称ではないのか?

 そんな疑念が湧いて出てくる。

「さて今日も春秋分点Equinoxの研究と講義だ」

 師匠はそう言う。

どこから集めたのか大量の古本群のある部屋に一つの浮いている現代的なデザインのホワイトボードに何か文字を書き込む。

 英語か……

 師匠は資産家の息子らしく、金には余裕があるらしい。

 なので海外に行ってよくこういった稀覯本きこうぼんを集めるのが趣味らしい。

 来た!

 講義の途中……空気も読まず癲癇の発作が来た。

 まず

 世界が輝いて見える。

 この一瞬のためならば全てを捨てたくなる

 最後に何やらおかしなものが見える。

 そして倒れる。

 この繰り返しだ。

 私はいま恍惚とした表情だろう。

 師匠はそれを見て何を思うんだろうか……。

「何が見えた?」

 師匠は起き上がった私にそう尋ねる。

「天使と悪魔が性行為をしていました」

 私は見たままを伝える。

「ふむ……」

 師匠は何か考え込むような顔をする。

「やはりホルスのが永劫アイオーンの兆候が見える」

 ホルスの永劫アイオーン……新しい時代のことを指す

 師匠はホルスの永劫アイオーンの兆候を探し、それを証明することを人生の目標にしているらしい。

 私はその一ピースらしい。

 だから弟子にしたと言っていた。

 ああ、全てが曖昧だ。

 私にわかることは、私がおかしなということだ。もしかしたら癲癇ですらないのかもしれない。

 そのまま何事もなかったかのように講義は続く。

 今日は師匠の家にお泊まりだ。

 別段ワクワクしないが、まあ一人でいるよりはいい。

 私は昔、自殺しかけたことがある。

 糸に操られた人形マリオネットのようにフラフラ~と死にかけた。

 家族のいない私は師匠に身元保証人になってもらいなんとか命を繋いだ。

 一人暮らしは少し危険なのだ。

 また夢を見た。

 師匠を殺す夢だ。

 最近よく見る。

 何が目的なんだ私は?

 何かがおかしい。

 人格すら安定しない。

 私は嫌な汗でビッチョリになる。

 そのままソロモン王の小さな鍵レメゲトンを探し当て、開き、その通りに儀式をする。

 フランス語版だが私はフランス語が出来ないので英訳を隣におく。

 英語も不満足なので師匠が断片的に訳した日本語でなんとかする。

 相変わらずひどい訳だ……

 私は師匠の訳に悪態を心の中で吐く。

 さて、何を呼ぼうか?

 ボティスにしよう。

 私は悪魔召喚の準備をする。

 すると。

 醜い毒蛇が現れた。

 私が驚いていると。

 毒蛇は私に襲いかかる!

 結界が私を護らなければ、私は死んでいただろう。

 毒蛇は私を未熟者と見なしニヤリと笑う。

 すると師匠が現れた。

 師匠か呪文を唱えると

 邪魔が入ったか……という感じで去っていった。

「お前にソロモン王の小さな鍵レメゲトンを読むこと儀式を執行することを禁ずる。悪戯で死にたくはないだろう?地獄へは落ちたくないだろう?」

 師匠は私にそう言った

 私は無言で頷く。

___

__

_

 はっ!

 これは夢……。

 私は師匠の講義で眠りの神ヒュプノスに誘われたらしい。

師匠……

 師匠は眠っていた私を怒らない。 

 そもそも、この講義になんの意味もない。

 なぜなら師匠は単なる詐欺師で、私は金はとられていないが、騙されてなお講義を聞いているからだ。

ソロモン王の小さな鍵レメゲトンにまた悪戯するされたのか」

 師匠はニヤリと笑う。

 これを聞くと師匠は本当の魔術師ではないかと思ってしまう。

 詐欺師か魔術師か?

 あるいは私が妄言を言って師匠を騙しているんじゃないだろうか?

 私にはわからない




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る