237 漆黒の子山羊(ゴート) 03
「……俺を倒しても進化はできないんじゃないか?」
ガラタンが俺の言葉にクフッと笑うと、まるでご馳走を目の前にして涎を拭うかのように腕で口元を抑える。
そういえば、相手を食べるということが神聖な意味を持つ生き物や宗教などがあるという話を魔法大学時代に聞いたことがある。
前世の世界でもそういう風習を持つ部族や人がいた、という話も見たことがあったな……おそらくだけど彼の中では俺を食べることでその能力を手に入れられると思っている節があるのだろう。
「まあ、筋張っていて美味しくなさそうではある……少なくとも女は苗床にするのだから、貴殿とそのほかの男は食料として扱うのである」
「そいつは嬉しくない未来だな……でも少しおしゃべりが過ぎるぜ?」
無詠唱で複数の
前世のアニメでよく見た、エネルギー弾を一斉射撃して飽和攻撃を行う……呼吸のたびに魔力は勝手に補充されていく俺の特性、いや
炎と爆発が連続で巻き起こり、ガラタンの周囲の地面を抉り取っていく……普通の人間ならこれで吹き飛ぶんだけど……ま、それじゃ
「……グフフッ! さすが
煙の向こうから、無傷のガラタンが歩み出る……毛皮に煤がこびりついているが、どうも傷や火傷などは負っていないらしい。
特殊な能力かな……その時心の中にアルピナの声が響く。
<<我々
ぐ……確かに……俺は格闘戦もできるし、それなりに肉体も強靭だけど、ベースは魔法使いでしかないからな……大半の攻撃は魔法頼りにならざるを得ない。
単純な魔法の撃ち合いだと無傷のガラタンに押し切られる可能性があるな……殺気を感じて咄嗟に身を翻すと、ガラタンの右ストレートがそれまで俺がいた空間を轟音と共に撃ち抜く……格闘戦能力はガエタンよりも鋭く、攻撃は重そうだ。
「……考え事であるかな? グフフッ!」
「若人は悩み事が多いんでね!」
魔力を集中させて、空中へとふわりと浮き上がる……攻撃が味方や他の構造物に当たらないように、少し距離を取る必要があるな。
それに応じてガラタンは蝙蝠のような羽を大きく広げると空中へと飛び立つと、空中で俺と対峙する……今のところガラタンの能力は魔法無効化……それと飛行、超強力な格闘能力しか見れていない。身構える俺にガラタンは笑みを浮かべて、再び涎を腕で拭う。
「新しい
ガラタンの言葉は正しい……ただ今の俺の魔力回復速度を考えるとそれほど不利になるわけではないが、呼吸ができればという注釈もつくからな。
俺は黙って
俺はガラタンに向かって指を鳴らすような動作を行うが……不思議そうな顔をしたガラタンが俺から放たれた殺気を感知したのか顔色を変えて慌ててその場から高速移動して回避行動に移る。
「チッ……勘がいいな」
俺の指差した空間に魔力が一気に集中して炸裂弾のように破裂し大体数メートル四方の空間を閃光で埋め尽くす……この世界に満ちる精霊や悪魔などの力を借りる魔法の中でも、比較的メジャーな魔法の一つでもある
普通の魔法使いが込められる魔力というのは大したことがないので、たとえば相手の腕に大きな傷を作るとか、それこそ全力で魔力を込めていけば魔力の炸裂で相手の部位を吹き飛ばすくらいはできるが……今の俺の有り余る魔力を持ってするとその場所を広範囲で吹き飛ばすくらいのことはできるようになるのだ。俺が作り上げる
「……ほれ、ほれ……次はそこだ、油断すると巻き込まれるぜ」
「くっ……規格外というのはこういうことか……!」
ガラタンの逃げ回る軌跡を追って、次々と空間が爆発していく……炸裂する閃光は一瞬の輝きの後に消失していくが、それはまるで花火みたいに見える……そうそう、この世界にも花火という概念はあって、構造や材料は一子相伝の秘密とされているけど一応花火を楽しむ文化のある国も存在しているのだ。
まあ、生まれ故郷のサーティナ王国では花火技師を捉えて生贄にしたりする風習が昔あったとかで、王国内での技術はロストしてしまっているそうだが……。
「俺シューティングゲーム苦手なんだよなあ……そこだっ! <<
俺は一気に腕を振りかぶると、ガラタンの移動先に向かって偏差打ちで指を指し示す……無詠唱でこれまた複数放たれた
「……グガアッ!」
手応えあり……俺の使っている魔法の中でも特に速度と爆発力に長けた魔法の一つだ。
無詠唱で連続して迫り来るミサイルのような
空中戦でそのまま戦うのもいいけど……流石に人じゃない感が凄まじいので少し気が引けるんだよな。
俺は地面に降り立つと、ズタボロの状態で地面になんとか立っているガラタンに向かって声をかける。
「さ、ゲームセットだ。部下に降伏をするように伝えるんだ……とはいえお前ら全員死刑だけどな」
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