224 冒険者章(ライセンス)更新

「……は? え? 夢見る竜ドリームドラゴン? 本物……?」


「あ、はい……本物です、生きてます」

 翌日、そのマルルト村の冒険者組合ギルドの支店へと移動し、夢見る竜ドリームドラゴンとその付き添いが移動をしている、ということを伝えたところ非常に驚かれた。

 受付嬢が何度も俺の持っている冒険者章ライセンスを見て目を丸くしている……大荒野での冒険以降正式な書面での更新を怠ってはいるが、都度所在を伝えているので除名は免れているはずだ。

「あの……夢見る竜ドリームドラゴンは帝国の冒険者組合ギルドに所在をお伝えいただいた後、足取りが掴めないとかで少し前に調査依頼が出てましたよ?」


「……今ここにきました、と伝えていただいていいですか? 野暮用で……」

 そうか、帝国に来た後に移動での所在を伝え忘れてたな……こういう時のために常日頃アドリアを含めて、対応をしている人材に任せっぱなしの弊害が出てきている。

 戦争に参加した、なんて伝えたら怒られるだろうなあ……基本的には冒険者は国家間の争いには不可侵であれ、というのが建前で、傭兵活動などはあまり良い顔をされないケースも多いのだが、一応目を瞑ってはもらえるはず。

 ただ俺たちが帝国の戦争に手を貸した、というが知れ渡ると他の冒険者から目の敵にされる可能性が残っている。アイヴィーが帝国人であることで、何度か揉め事になったことはあるからだ。

 特に帝国は大陸における最強国家の一つであり、帝国を目の敵にしている冒険者もいなくはない……からだ。この辺りは感情も絡む問題なので仕方ないっちゃ仕方ないのだけど。


「まあ、ご無事で何よりです。冒険者組合ギルドでも有名なパーティですからね……」

 受付嬢は少し苦笑いを浮かべて頷くと、魔道具に記録を残すために受付から書類を持って離れる……この支店は冒険者の所在確認と低級の依頼くらいにしか使われていないようで、冒険者らしい人は少ない。

 それでも自分が駆け出しの頃を思い出させるような、若い少年少女がキラキラと輝く目で依頼板に張り出されている依頼を眺めている。あんな時代もあったよなあ……それとみんなと初めて会った頃の記憶も思い出してしまう。


 アイヴィーとアドリア、そして今は別れてしまったがトニーと一緒に冒険に出たのは数年前だが、すごく過去の経験のようにも思える。トニーは大学が休校となった後、生まれ故郷であるシェルリング王国へと一時的に戻る、という話をしていたっけ。

 あれから何年も会っていないし、この世界の連絡手段の乏しさを考えると無事でいてほしい、というのが正直なところだ。

「トニー元気かな……いつかまた会えるといいな……」


 手続きが終わり、支店を出た俺はそのまま仲間が待っている宿へと戻る……俺が部屋に入ると、部屋の中でロスティラフが複合弓コンポジットボウの手入れをしているところだった。

 彼は俺に気がつくと手入れをする手を休めて、目を細める……竜人族ドラゴニュートとの付き合いが長くなってきた俺はそれで彼が笑顔を浮かべていると理解している。

「みんなは?」


「……買い出しに向かっておりますよ、冒険者章ライセンスは問題なかったですか?」


「うん、戦争に参加して所在確認できてなかったからね……小言は言われたけど大丈夫だよ」


「それはよかったです、冒険者章ライセンスがないと我々ただの放浪者ですから……」

 ロスティラフは荷物を纏め直すと、部屋に集めていた全員分の荷物を点検に入る……この儀式めいた作業はアドリア発案で行われていて、持ち回り制なのだがこの作業を行うことで、忘れ物や不足している物資などの確認が容易になった。

 おそらくだけど、倉庫の棚卸しに近い作業でチェックリストに相当する物を見ながら確認をしていくだけの簡単なものだがアドリアはこういうことをやらせると非常に頼りになるんだよなあ。

 まあそのおかげで俺たちは他を圧倒する財力を持ち合わせたんだけど……確認が終了した荷物を俺が運んでいく……宿の前でロランが待っていたはずなので、そこまで持ち運んでいく。


「お、クリフ荷物持ちさせて悪いな」

 ロランはフル装備の状態で、宿の前にある花壇に腰掛けて彼を興味深そうに眺める子供たちに笑顔を振りまいている……聖堂戦士団チャーチのヘルメットなども珍しいのかもしれないな。

 俺は彼と、その周りを囲んでいる子供たちを避けた場所に荷物を下ろしていく……ロランはそれを見ると、子供たちに手を振ってこちらへ向かってきた。

「大丈夫だよ、それよりなんかあったかい?」


「特にはないな、もうすぐみんなも戻ってくるはずだぞ。アドリアが事前にリストをチェックしてて、買い出しに向かってたhずだ」


「ああ、そうなんだ……」

 その言葉を言い終わらないうちに、アドリア、アイヴィー、カレンが同じ方向から和気藹々とした雰囲気で戻ってくる。彼女たちは俺の姿を見つけると笑顔で手を振りながらこちらへと向かってきた。

 俺は笑顔で手を振るが……その時アドリアの手に何かが握られているのに気がつき、俺は少し目を凝らす……どう見ても……冒険者組合ギルド発行の羊皮紙……依頼の紙じゃないか?

 俺の視線に気がついたのか、アドリアは本当に悪戯っぽく笑うと、その手に持っていた羊皮紙を俺に突きつける。


「もらってきましたよ、依頼完了は次の冒険者組合ギルドで報告で良いらしいですから、ここは冒険者らしい行動をしましょうね、クリフ」

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