210 本物の愛
「だからこれは純粋に私の魔力を集中させただけ、受け止めてね」
「……くそったれ……」
アルピナが生み出した闇の球体はどんどん大きくなっていく……背後に浮かぶ闇の球体はドス黒く、混沌としたうねりを生み出しており、邪悪とか混沌とかいった表現が正しく思える。
大きく息を呑んだ後、俺はそのうねりを見つめているが、その顔を見てアルピナが歪んだ笑顔をさらに大きく歪める。勝ち誇ってやがるな……。
「クリフ……」
心配そうな顔のアイヴィーが俺の服を軽く引っ張ったことで、相当に弱気な表情を浮かべていたことに気が付き、俺は彼女の顔を見ると少しだけ笑顔を作る。
とはいえ、正直言えば、俺の魔力よりもはるかに強力だな……魔法による攻撃は魔力の総量というよりは、いかに効率よく所定の効果を出すか? の理論でしかなく、俺のようにチートを使って威力を上げられるというのがイレギュラーだと思っている。
単純な魔力の放出、という
なぜか? 『恐ろしく粗野かつ無駄』だからだ……数百年前に遡るがとある魔法大学がフラウエンロープの
結論から言うとこの試みは失敗に終わった……洗練された
失敗の内容は書かれていなかったが、どうやら死人も出ていたようでそれまで積極的に実験を続けていた魔法使いの名前はそこで歴史から消え去ることになっている。
フラウエンロープ以前の魔法使いのやり方と、それ以降のやり方では恐ろしく大きく方法が異なっており、俺は後者に属している魔法使いなのだ。
こんなやり方は乱暴すぎて試したことすらないのだから……知識としては知っていても、だ。
「アイヴィー……こっちへ」
俺に呼ばれてアイヴィーは俺の隣へと進み出るが……俺はそっと彼女の頬に手を添えると彼女の目を見つめる。ああ、美しい目だ、そして俺だけを見つめてくれている彼女のことが愛おしい。
でもここから先は、彼女を巻き込むわけにはいかない……だから、今は少し遠くへ逃げてもらうのだ、巻き込まれないように、そして巻き込まないために。
「……この局面を乗り切って無事に戻れたらさ、ずっと一緒にいよう。子供はそうだな……君が欲しいだけ作ろう」
「え? ……それって……」
アイヴィーの顔が驚きと、そして頬が一気に赤く染まる、俺が言い出したことが遠回しなプロポーズだってことに気がついたらしい。そういえば愛してるってずっと言ってるけど、結婚してくれって言ったことはないんだよな。
モジモジする彼女を前に俺はそのまま言葉を続けていく、今言わなければ伝えられないかもしれないから。
「俺が生きていたら……結婚してくれアイヴィー、無事に戻れたら。そのためにも今はここから巻き込まれないように逃げてくれ……」
「く、クリフ……答えは戻ってからでいいの?」
アイヴィーは俺の言葉を聞いて、俺が言いたいことも察したようだ。すぐに普段の顔色に戻ると、頬に添えられた俺の手を握って優しく微笑む。
俺は頷くと、そのまま彼女の唇に自分の唇を重ねる……彼女もそのまま俺の口づけを受け入れた。永遠にも感じる時間だったが、そっと俺は唇を離す。
「……必ず戻る、だから……」
そう、これは戻るという意思表示だ、絶対に死ぬことは考えていない。
アイヴィーは黙って頷くと
「やだわ、心から妬けちゃう……随分女たらしなのねえ」
「違うよ、本物の愛だ……俺にとって
俺は
純粋な魔力というのは剥き出しの力だ、その力を制御し指向性を与えるのがフラウエンロープの
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「ば、馬鹿な……お前は
俺の築き上げた掌の先に、
純粋な魔力は、俺の頭上で大きく青く輝く球体へと集約していく……わかる……恐ろしいまでに粗野で原始的な周囲から供給されていく魔力。
昔見たアニメで世界中の人から少しづつ力を分けてもらって、大きな力へと変えていく技があったけども、それに近い気がする。
そのまま俺は手のひらを上にしたまま胸の高さに落ち着けると、その魔力は超高密度に集約された小さな青い光球まで収縮していく。
アルピナがドス黒い巨大な球体となった魔力を発射する……同時に俺も小さな青い光球をふわりと前へと打ち出した。
「クリフゥウウウウ! 私はあなたの死体を毎日愛してあげるわ! だから私のものになりなさい!」
「ならないよ、俺には待ってくれている
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