180 降伏(サレンダー)
「突撃してくる騎馬の勢いを止めないとな……
俺は複数の
「おい! なんで直撃できねえんだ!」
「馬鹿いうな、あんな移動してる目標に複数の
他の傭兵が俺に文句を言うが……俺も絶叫に近い反論で返す……だが、もはや言い争いをしている場合ではなく、俺は
突撃してくる騎士を見ると、
俺に文句を言っていた傭兵は逃げるようにその場を離れていくが……彼は生きていられるだろうか? とにかく……今は足止め程度の魔法でとにかく時間を稼いでいくしかない。
「ベッテガ! 生きてるか?」
俺は接近してくる騎士の一撃を交わしながら……ここ数日の僚友の名前を呼ぶ。
「まだ生きてるぜ、陣はもうダメだな」
俺たちの担当していた地点は既に俺とベッテガの二人しか残っておらず……他の傭兵は逃げるか、一撃で仕留められて死体となっているかしている。まだ俺とベッテガが生きているのは運がいいのだろう、敵の死体は数体しかなく……ほとんどが俺とベッテガでなんとか倒した敵だらけだ。
よく死ななかったな……と思うが、本当に運が良かったのだろう。正直言えば、何が何だかわからないうちに、形勢はとことん不利になり……破壊と混乱だけが辺りを支配している、と言う状況になった。
そして……遠くで破裂音のような音がなっている。
俺は前世の仕事で多少銃声を調べたことがあって、この音にも聞き覚えがあるが……異世界、しかも中世レベルの文化圏でなぜ銃声が鳴っているのか、理解に苦しむ……剣と魔法の世界に銃声? 冗談だろ? と言う気分になってくる。
「ああ、この音は
「ぶ、ブランダーバス? それはどう言う武器だ?」
ベッテガが鳴り響く音を聞くと、不思議そうにしている俺の顔を見て説明を始める。
「火薬を使って、筒から鉛の球を発射する武器だ。西方に住む
正真正銘の銃かよ……俺は少し頭痛を感じつつも、下手に動き回ると射線に入ってしまうだろう可能性を考えて……身を低くするように体勢を変える。彼も経験からなのか頷くと身を低くしている。
「ロスティラフとカレンを探して脱出しよう、どちらにしても残ってると俺たちは死体になるしかない」
「同感だ、多分あいつらのいる場所はこっちだろう……行くぞ」
ベッテガは頷くと……進むべき場所を指し示して、移動を始める。辺りの喧騒はまだ続いており、俺たちは敵や味方に見つからないことを祈りながら、持ち場を放棄して周りに注意を払いながら移動を始めた。
「ベッテガ兄! 良かった……」
俺とベッテガが考えているよりも早く、ロスティラフとカレンは見つかった。と言うのも彼らも自分達の生存を最優先に無理な戦闘は避けて、身を隠しながらの退避行動を取っていたからだった。
「クリフ! 生きてましたか」
ホッとした顔のロスティラフを見て……俺も安堵のため息をつく。と言うのも比較的体の大きな彼は的になりやすく……こう言った戦場では目立つからだ。それでも今彼は……大きな怪我をしていない、と言うことは相当にうまく立ち回ったのだろう。
「ここはもうダメだと思う、本隊の方向へ逃げた方が良さそうだけど……移動できるか?」
俺の言葉に三人は頷く……もはやこの場所での帝国軍の敗退は確実だ……周りにいたはずの傭兵はその辺りで転がっているか、まだ抗戦を続けているかだが、その音も次第に小さくなってきている。
「おや? 帝国軍がまだ残っているのか……」
知らない男性の声が聞こえて、俺たちは一斉に武器を構えて声の方向を見る……そこには
「誰だ!」
俺は
「名乗らずに申し訳ない、私はカイ・ラモン・ベラスコ男爵……レヴァリア戦士団の隊長だ、君は何者かね」
「「レヴァリア戦士団!?」」
彼の名乗りに、ベッテガとカレンは緊張したように身を強張らせる。俺とはその反応に少し疑問を感じるも……名乗らないわけにもいかないと感じたため、あえて名乗る。
「これはどうも、私は冒険者
「おお、これはこれは大荒野の有名人……
カイはニヤリ、と笑うと手に持った
「でもまあ、帝国軍に味方していると言うことは雇われたかな? 残念だ、酒でも酌み交わせば友人になれたであろうが」
その瞬間、汗が吹き出すような嫌な感覚……相手から殺気と共に剣を向けられて俺は動けなくなる。
目の前に立っている笑顔の男は……明らかにアイヴィーよりも強い。下手に抵抗すれば一撃で俺の頭と胴体は切り離されてしまうだろう。
これはまずい……後ろにいる三人も勘と経験からなのか身動ぎ一つせずに息を殺すように動かない。
「……ロスティラフ、ベッテガ、カレン……時間を稼ぐから逃げてくれ」
小声で三人に伝えると、彼らを庇うように
「自己犠牲……素晴らしい、魔法使いでありながら貴殿は騎士の心を持っているようだ」
「……違うな、俺一人の方がまだ生き残れる可能性があるから、そうしてるだけだ」
背中をひたすらに冷たい汗が流れる……一歩前に出るだけでも、死に物狂いで足を踏み出したようなレベルだ。相手の攻撃を受け止めるだけの力が俺にあるかすらわからない。
「ふむ……ではまず君を無力化して、それからゆっくり追いかけるとするか」
カイはゆらり……とあまりに無防備に、そして唐突に俺との距離を詰める。あまりに自然な動きに俺が呆気に取られていると……全く俺が動けないままの状態で首筋に
見えなかった……全く何も出来ないまま俺は無力化されたことを悟って、
「このまま前に出ると君は死ぬ……どうする?」
俺はゆっくりと両手を上げて……目を瞑って……この瞬間にも殺されないことを祈りながら、口を開いた。
「……わかった……降参する……勝てそうにないからな……だけど逃げた仲間は追わないでくれ」
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