150 夢見る竜の新しい仲間(コンパーニョ)

「では夢見る竜ドリームドラゴンに新メンバー……ええと、ヒルデガルド・マルグレッタさんですね」


 ヒルダはスイカップな受付嬢が、冒険者登録用紙に記入された名前を読み上げたのを聞いて少し硬い表情で頷く。

 保証人として俺が、リーダーの権限として彼女を仲間に入れた、ということにした。彼女の出身地は、正直に書くわけにいかないのでセルウィン村で俺の同郷ということにしている。

 細かく色々聞かれたが……そこは事前に聞かれそうな事項をアドリアと俺で考えてヒルダに叩き込んだ。俺個人としては、試験勉強をもう一回してるような気分で正直楽しかったが……ヒルダはかなりしんどそうだった。


「他に何か必要なことはありますか?」

 俺はスイカップさんに尋ねるが……特になかったようで彼女は登録用紙を改めて、見直すと俺とヒルダに微笑む。

「いえいえ、夢見る竜ドリームドラゴンのクリフさんが連れてきた方なら信頼できますから、大丈夫ですよ。それと先日の件ですが、派遣料としてこちらの報酬が出ています」


 その言葉にヒルダは少し安堵の息を吐くと、俺を見て微笑む。俺は彼女に釣られて少し笑うと、スイカップさんが渡してきた袋の中身を確認する……まあこんなものだろう。正直赤字ギリギリだが仕方ない。

「ありがとう、じゃあ俺たちは宿に戻るんで、何かあったら呼んでください」

 俺はヒルダを連れて、冒険者組合ギルドから立ち去る。正直言ってヒルダが冒険者というには不釣り合いなくらい綺麗な容姿をしているため、目立って仕方がなかったのだ。


 さらにはヒルダが用紙へと記入している最中も、周りの冒険者が小声でヒソヒソ話をしているのが聞こえてしまっていた。大半は他愛のない誹謗中傷でしかないが、俺はその話が聞こえてしまって……居た堪れない気分になっている。


夢見る竜ドリームドラゴンのリーダーはいつでも女を侍らせて羨ましいぜ、全く」

「あいつ、ハーレムでも作る気なんじゃないのか? 随分な好きモノだよなあ」

「あの少女にも手を出すのかよ、いくら何でも見境ないだろ、性獣だろ」

「もしかしてあの男の戦士とかも……もしかしてあの魔道士の……うわぁ……」

竜人族ドラゴニュートなら違うんじゃないか? 多分あのリーダーがウケだぜ……尻尾とかで」


 悲しい……俺はアイヴィーとアドリアだけで精一杯なんです……これ以上手を出す気はないのです……。そしてなぜ俺とロランがそういう関係になっていると思うのだ……辛いよう……。そしてなぜロスティラフだけは攻めなのだ……。

 それとヒルダに対する女性冒険者からの揶揄もかなり聞こえていた。はっきりいえば、嫉妬の感情をそのまま出している……ヒルダはかなり純粋に育てられているから、多分言われてること、周りから思われていることには無頓着な気がするが、俺は正直辛い。だから早くここから逃げ出したかったのだ。




「お帰りなさい。無事に登録できました?」

 宿に戻るとアドリアが部屋の椅子に座っていた。今回慌てて宿に入ったため、大部屋を一つ借り切っている。

 使っていないシーツや備品を使って仕切りを作って場所を分けたが、まあ椅子やテーブルはそのままなので……同じ部屋に女性陣がいるという普段では考えられない状態となっている。

「ああ、ヒルダも夢見る竜ドリームドラゴンの仲間として登録してきたよ、名前はヒルデガルド・マルグレッタにしてある」

 なぜジブラカンを切ったか、というとジブラカンという名字は王家にしか許されていなかったそうで、過去の王国の記憶を持つ人間にはすぐにバレてしまうからだ、とアドリアが話していたからだ。

 特に今回緊急として帝国領内の冒険者組合ギルドで登録をしたこともあり、もし先日の山賊騒ぎ……ジブラカン残党とヒルダを結びつけられる、という危険を冒せなかったこともある。


 ヒルダは少し戸惑っていたものの、アドリアの説明でそれまでのミドルネームを苗字として登録することに同意した。とはいえこれは期限付きでいいと思っていて、彼女が夢見る竜ドリームドラゴンで活躍してき、誰もが認める冒険者となった段階で再度宣言すれば良い。

 その時のために、冒険者として名声を得て……再びマーロ城廃墟に報告に戻る。これが彼女の動機となるだろう。

「ありがとうございます、アドリアさん……何から何まで……」

 ヒルダは丁寧なお辞儀をするが、アドリアは笑って彼女に忠告している。

「アドリア、でいいんですよ。私たちは仲間です。私はこういう喋り方なだけなんで……」


「で、でも……」

 なおも渋るヒルダにロランが彼女の肩に手を置いて笑う。驚いたようにロランを見上げるヒルダ。

「よろしく頼むぜヒルダ。俺のことはロランのままでいいからな」

 その言葉にまた泣きそうな顔になって……誤魔化すようにヒルダはロランにしがみつく。そんな彼女の様子を見て、微笑みながらロスティラフ、アイヴィーが声をかけていく。


「私のことはロスティラフで良いですよ」

「私はアイヴィーでお願いね」

 ヒルダは二人にも泣き顔で頭を下げている。ああ、この娘も良い仲間になりそうだ。あとは腕を確認しないといけないが、これはタイミングを見てロスティラフにもお願いをした方がいいな。脱出の時に小剣ショートソード短弓ショートボウを所持していた、ということはそういう武器が得意なのではないか? と思っている。

 立ち回りの訓練はアイヴィーとロランが……このパーティにいれば彼女もあっという間に熟練の冒険者へと変貌していくに違いない。

「ではクリフ様はどうお呼びすればいいですか?」

 一人離れて考え事をしていた俺の顔を見つめてヒルダは問う。そうだな……俺も頭を掻いて……格好良く『クリフでいいよ!』と口を開こうとした時に、アドリアがイタズラっぽい顔で横槍を入れる。

「クリフのことはそうですねえ……冒険者組合ギルドで噂されてるような名前で……性獣とか、エロフとか、スケベ大王とかでいいんじゃないですかね?」


 その言葉に……ヒルダが完全にドン引きした顔で、俺を見ながら『え? この人無理』って表情になったのを見て、俺はドヤ顔のまま固まった。

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