111 ゲルト村防衛戦 02

「ガルタン……? ガエタンと関係あるのか?」


 俺は3年前に戦ったガエタン……四本腕の山羊頭獣魔族ビーストマンのことを思い出していた。ネヴァンの部下として俺たちの前に立ちはだかった英雄チャンピオン級の格闘家グラップラーで、今思い返してみても化け物のように強かった。

「ガエタンを知っている……となると貴様が使徒か。グフフ、面白い」

 ガルタンは左右の腕とは別に、左肩から腕が生えており、その全てにガエタンのような金属製の小手を装着している。やはり可動部を大きく取った金属製の鎧を身につけている。四本腕のガエタンと違って、体の傷はそこまでついていないが……三本腕は少しバランスが悪いようにも見える。


「ガエタンが倒されたと聞いてな、我は心のそこから使徒殿と戦いたいと思っておった!」

 ガルタンが大きく吠えると、彼の筋肉が膨張し……体中から黒いモヤのようなものが立ち上る。なんだろうかあれは。そのモヤは複雑な動きを見せながら、ガルタンの身体中を這うようにまとわりつく。

 アルピナが纏っていた対魔法結界の紋様のようなものだろうか? 

 俺は剣杖ソードスタッフを構えて、久々に魔法の盾マジックシールドを展開する。何年も使い込んできた魔法の一つで、ガエタン戦でもかなり重宝した初級魔法だ。とはいえ今の防御能力はかなり向上しており、そう簡単に魔法が崩されることはない。


「いくぞ!」

 ガルタンが一気に距離を詰めてくる、三本の腕を広げているのは何かを狙っているからだろうか。考えても仕方ない、俺は剣杖ソードスタッフを振るう。肩から生えた三本目の腕でその攻撃を受け止めたガルタンがそのまま右腕をまっすぐ突き出してくる。いわゆる渾身の右ストレートだ。

 そのストレートを俺は魔法の盾マジックシールドで受け流すと、かえす刀で剣杖ソードスタッフの柄を押すように振るい刃の部分で斜めに薙ぐ……その攻撃を残った左腕の手甲で受け流すガルタン。

 ぞくり、と背筋が凍るような感覚を感じてこれは離れないとまずいと判断し、俺はすぐにバックステップすると、それまでいた地面を肩口の三本目の腕から放たれたストレートが命中し、地面が陥没して軽く砂塵が舞う。


「グフフ……いい、いいぞ使徒殿」

 ガルタンは口元を大きく歪めて少し距離を取る。こういうところガエタンとそっくりだな……。アイヴィーやロランは他の獣魔族ビーストマンと戦っており、当分はこちらにこれそうにはない。

 冷静に相手の外見や雰囲気を観察する……素早さや、一撃の重さではガエタンの方が威圧感があったが、ガルタンはなんというか……不気味だ。三本しかない……というよりも元々二本腕の生物に無理矢理三本目の腕を生やしたような外見で、とにかく外見のバランスが異常に悪い。それが余計に不気味さを助長している。


「我は強者と戦えることを心待ちにしておった……使徒殿はガエタンを倒した勇者……我は興奮しておる……」

 ガルタンがだらりと涎をたらし……それに気がついたガルタンは手で口元を拭う。こういう行動すらもガエタンにそっくりだ。

「そうかよ、ガエタンも俺は二度と勝てる気がしないけどな……」

「グフフ、ガエタンは強き戦士ではあるが、混沌ケイオスの眷属としてはまだ若くてな……。あと一〇年も生きれば良き英雄チャンピオンとなったであろうよ」

 まじかよ、あれでまだ若いのか……。三年前に戦った時のガエタンは正直偶然に偶然が重なって、さらにチートで勝ったような状況だったのに。


「使徒殿には我の全力を持って戦わせていただこう」

 ガルタンは大きく咆哮すると、全力で突進してくる。左側の2本の腕を大きく振りかぶり……時間差で渾身のストレートを2連続で放ってくる。

 一発目を避けると目の前をゴォオッ! と凄まじい風切り音を立てて拳が通過していく、二発目の拳を避ける……これは俺の肩口を掠め、威力と摩擦で肩に軽い焦げ目をつけて、焦げたような匂いが立ち上る。

 俺は右拳の動きを注視している、確実に左二発はおとりで、右のストレートが本命だろうと予測していたからだ。予想通りに右の剛腕が迫る。

 少し力が込められているのか軌道が大振りだが……カウンターとして俺は杖を持っていない手に魔力を集中させる。ここで使用するのであれば『衝撃フォース』の魔法が最適だ。

 手のひらから衝撃波を打ち出す魔法だが、射程距離が短めで距離に応じて減衰していく特性があるため、この超接近戦ではほぼ一〇〇パーセントの威力で当てられるだろう。


 ガルタンの右フックをギリギリでかわした俺は、左手に貯めた魔力でガルタンの胴体へと衝撃フォースを打ち込む。これなら避けられないだろう。

「くらえ! 衝撃フォース!」

 手のひらから発射された衝撃波が、ガルタンに命中する……いや命中したはずだが、黒いモヤがその衝撃波を吸収したように畝るような動きを見せる。凄まじく獰猛な笑顔を浮かべるガルタン。

 まずい、何かしてくる? その瞬間、黒いモヤが一気に右肩口へと集中し、巨大な黒い腕のような形へと収束していく。ギリギリと握り込まれる黒い拳。やばいこれはやばい。


「クハァッ! 黒の拳ブラックフィスト! これは予想外であろう使徒殿!」

 ガエタンがそう口に出すと、無防備な俺の腹部へと黒の拳ブラックフィストのフックが叩き込まれ、俺は衝撃に耐えきれずに大きく飛ばされ、そこにあった岩へと叩きつけられた。

黒の拳ブラックフィストは我が四本目の腕と同義、この攻撃を避けれたものは過去におらんっ!」


 衝撃で岩がくだけ大きく砂塵が舞っている。

 黒の拳ブラックフィストの手応え的には確実に仕留めたとガルタンは絶対の勝利を確信し、腕を組んで笑う。

「グフフ、使徒に勝った! これにて第三章 完結バッドエンドであるっ!」

「お、おい。勝手に終わらせてんじゃねえよ……」

「な、何っ!?」


 驚くガルタンの前で、砂塵の中に人影が立ち上がる……杖を支えにした人物……クリフの姿がそこには見えた。

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