90 道征く者(ロードランナー)
「他の
アドリアがロスティラフに心配そうに話しかける。今俺たちは遺跡の地下へと入り、しばらく迷宮のような内部を探索していた。
「ところで、リーダーである僕の扱いが……とても雑なんですが」
「は? 文句あるんですか?」
俺の体にはアドリアが握るロープが巻き付けられており、彼女から一定の距離が離れないように俺は縛られている。お前を自由にすると何するかわからない、という理由から今この状態で歩かされているのだ。
途中で気になった場所を見ようとした俺をアドリアがロープを使って引き戻すので、俺は何度も転んで傷だらけだ。
「でも私ちょっと楽しいですよ、クリフさんを従えてるみたいで」
アドリアがとても楽しそうな顔でロープをぐいっと引く、その度にロープが俺に食い込んでとても痛い。この世界のロープは麻糸を結って作っているので、あちこちに繊維や何やらが飛び出ていて皮膚を傷つけるものもあるのだ。
「い、痛いって……もう少し優しくしてくれよ……」
アドリアがものすごく楽しそうな顔をして……みんなが見ていない時に顔を近づけて、小声でささやいた。
「次に優しくして欲しければ、言うこと聞いて下さいね。
ぐっ……二人きりの時しかアドリアは俺のことを『クリフ』って言わない……このやり方はずるいと思うが、あまりに色っぽく囁かれ……俺は黙るしかない。
下を向きながら黙って歩く俺を見てアドリアはなぜか満足そうだ。
地下を進んでいくと、広大な……神殿と言うよりはお城の謁見の間のように見える空間へと出てきた。広大すぎて、ここが地下なのか?と訝しむくらいの……とてもではないがどうやって建造したのか悩むくらいの広間が広がっている。
「ここは……」
ファビオラが驚いたようにその空間へと歩き出す。空間のその先には巨大な石像が鎮座している。石像は巨大な……そう、エイの姿に見えるのだが、平たく翼を伸ばしたような巨大な体と、細く長く伸びた尻尾。そして体の下側に巨大な口がついている……前世のエイと違うのは、口の周りが……そうハロウィンのカボチャのような形になっており、異様なほど大きいと言うところと、大きさがどう見てもドラゴンクラスの超巨大サイズだと言うところか。
「
ファビオラが驚きのあまり手で口を押さえながら呟く。え? このエイが
俺たちもその石像へ近づき、各部を見て回る。この空間には俺たち以外の生物はいないようだが、つい最近までここを使用していたかのように、掃除や手入れが行き届いている。
「なんか……不気味な石像ですね……」
アドリアが
「これ……生きてるのかわからないけど、かなりの魔力が見えるわ」
アイヴィーが呟く。彼女の目にはそう言うものが見えるのだった。彼女の目はルビーのように赤く鈍い光を帯びており、少し不思議な印象を抱かせる。
「他には何もなさそうだな、そっちはどうだ?」
「こちらにも何もありません」
ロランとロスティラフが戻ってくる。彼らも
一人熱心に金属板を読んでいるファビオラだけが上機嫌だった。
「これは……そうか……素晴らしい……」
ファビオラは古文書と金属板を交互に見ながら解読を進めている。さてどうしたものか……。その時、ふと視線を感じた。振り返ると鼠が俺の方を見ている。……なんだろうこの違和感。俺の視線に気が付いたのか、鼠が柱の影へと走り去る。謎の不安感、違和感がそれで解消される。なんだ……? この感覚はどこかで?
「そうか、つまり起動キーさえあれば……こいつは起動できるのか……クク」
ファビオラの声で、鼠から目を離して彼女の方を見ると、ファビオラは俺に向かって話し始める。
「この
「いや、あんたの目的は封印か破壊だろ? この大きさの石像なんて破壊は難しいだろうから封印する方がいいのではないか?」
なんとなくだが……ファビオラの印象に良いものを感じていなかった俺は、今ここで封印を口にしないファビオラの態度に……正直やっぱりか、と言う気持ちが強くなっていた。
「封印? そうでしたね。でも私はどうせであればこれを生かして……帝国に行こうかと考えていますよ」
「は? 帝国ですって? そんな化け物を帝国が受け入れるっていうの?」
アイヴィーが少し怒りを感じさせる口調でファビオラを詰問する。
「ああ、あなたは帝国人でしたね。そうですよ、帝国は来るべき戦争に向けて各地の遺跡から発掘した様々な
アイヴィーはその言葉を聞いて……珍しいくらい動揺している。
「そ、そんな戦争を準備しているなんて……お父様の手紙には一言も……」
「そうですか、ではあなたは捨てられているのですね。お可哀想に……この
ファビオラが歪んだ……とても邪悪な笑顔でアイヴィーを見て嘲笑に似た笑いを浮かべている。これは……持ち出させるわけにはいかないな……と覚悟を決めて俺は
口を開こうとしたその瞬間。
「愚かな……貴様の一存でここから持ち出されても困るのだ、矮小なる者よ」
突然俺たちの後ろから……暗闇からずるりと影が一つ現れる……黒いローブに鳥を模した仮面を被り、身長が……二メートル近い巨躯であり、仮面の奥にはとても暗い……空虚な赤い光が宿っている。
「
鳥仮面の男がファビオラに語りかける。その言葉は……言いようのない不安感と嫌悪感を感じる。この感覚は……
「ごきげんよう、使徒よ。私は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます