55 下水道に潜む魔物 02
日記を読み進めていく俺たち。他愛もない日記も間にあるため、重要そうな記述だけを追っていく。
ーー
明日から仕事のため外に出なければいけない。まだあの音の正体は掴めていない。不安が募るが、仕方ない。まずは仕事に集中することにする。
ーー
仕事から無事戻れた。今後報酬は部屋にある金庫に収納しておくことにする。明日からこの下水道を軽く調査する予定だ。ついでに清掃をしておくことで、異変があったら気がつけるようにしたい。
「仕事って……野外での冒険とかやってたんだろうか」
「金庫があるって書いてあるわね、あれかしら」
アイヴィーが部屋の片隅に置いてある色のついた箱を指差す。俺は気になったので、その箱に近づき感知魔法をかけてみる。罠とかはなさそうだ。開いてみると鍵もかかっていないようで、簡単に開いた。
「なんて不用心なんだ……」
苦笑しつつも中を見てみる。そこには金貨や銀貨が詰まった袋と、数枚の紙、そして小さな人形が入っていた。
「なんだこれ?」
人形は白い木でできていて、人の形を模した……前世でもよくみたデッサン人形によく似たものだ。流石に関節とかはついていないが。とりあえずそれはそれとしてテーブルに置き、紙に目を通す。
「何々……司令書みたいだな。この部屋の持ち主は盗賊か何かかな。村に住んでいる人を攫えとか、こういう特徴の人物を殺せとか、そんなことが書いてあるな」
「犯罪者か……そんなのが首都の地下にいたなんて盲点ね」
金貨は五〇枚、銀貨は二〇〇枚ほど入っており、これだけでもかなりの高額報酬が払われたのだ、と推測できる。しかしこれを使う前にこの部屋の主は戻ってこれなくなったのだろうか。
「とりあえず続きを読んでいこう」
ーー
急にネズミたちの数が減った。別の区画に逃げたらしい。何事かと思って部屋に戻ってきたら、とても魅力的な女がいた。
女は黒いローブを着ていて俺に依頼をしたいと話してきた。気になったので内容を詳しく聞かせてほしいと話した。
どうも首都内部で暴動を起こしてほしいということだった。金さえもらえれば受けてもいいと答えた。女はまたくると言ってこの部屋を出て行った。何やらきな臭い気もするが、金がもらえるなら問題ない。
「ん? これって
その言葉にアイヴィーは少し表情を曇らせる。あ、いかん、まだそんなに時間は経っていないんだ。アイヴィーからすると傷を抉られたような気分になるだろう。
「ご、ごめん……そんなつもりで話したわけじゃないんだ」
「……大丈夫よ続けて」
アイヴィーはぎこちなく笑顔を作るとニコリと俺に笑いかける、ちょっと無理してるな。でもこの先を読んでいけば色々わかるかもしれない、日記を開いていく。
ーー
女のいうことは魅力的で断れなかった。スラムを仕切っている親分を紹介しておいた。どうしてかわからないが、いう事を聞かないといけないと俺の中で声がする。女と打ち合わせをしていると、何かを引きずるような音がしたが女が育てているペットがいるのだという。安心してほしいと言われた。それならば安心だ。
「な、なんか面白いくらい簡単に信じてるな……」
「違和感がすごいわね……」
ーー
このお方は素晴らしい、言葉を聞くたびに俺の中で喜びが芽生える。これが神なのだろうか?仕事がうまくいきそうだ、と礼を言われた時には俺は失神してしまいそうなくらい嬉しかった。この体験は俺だけのものだ。
ーー
ペットに餌をやってほしいと頼まれたので、喜んでペットに餌をあげることにした。白い人形を渡されてこれを持ち歩くように言われた。ちゃんと餌をあげているか確認するとのこと。バケツいっぱいの肉をそれに与えた。なんの肉かと聞いたら聞かないほうがいいと言われたので聞かないことにする。命じられると喜びで倒れそうになる。
ーー
ペットに餌をあげているとあのかたがきた。あのこがしんでしまった、と話している。ぼうどうはうまく行ったのかを尋ねると、それはうまくいってよかった、と頭を撫でられた。嬉しい。
ーー
そろそろおわかれといわれた。えさはもうもってこれないという。どうしたらいいかたずねたら、わたしがしじしたらペットのところへいけといわれた。こわいとこたえたらだいじょうぶだというのでしんじることにする。
ーー
あのかたがきた、そろそろじかんだという、あしたにはかわいいぺっとにあってほしいといわれた。たきのところにいるんだとはなしてた。うれしい。あのかたのやくにたてる。にんぎょうはすてて、いたいかもしれないけどがまんしてねといわれた、だいじょうぶねゔぁんさまのためならうれしいとこたえた。……えがおがすてき。うれしい
ここで日記が終わっている。どうやらそのペットの餌になったのだろうか。
「これ……ネヴァンってのが
アイヴィーが真剣な顔で日記を見直している。そうだな……そして急に文字が乱雑になったりしてきたのは魔法の影響だろうか?
「でも、魔法を使って相手に命令することができるけど、相手の生命に関わることは強制できないはずなんだ、でもこの日記の持ち主は喜んでその命令に従っている」
それはありえないことだ。魔法の強制力で死を命じられた場合、魔法が解除されてしまうことは確認されている。あくまでも命令はその程度のことしか強制できない。
うーん……と悩んだ時に俺の腹が鳴った。その音を聞いて、クスッと笑うアイヴィー。
「軽く食事でも取りましょう、お腹空いてたら仕事もできやしないわ」
携帯食料で食事を取ってこれからのことを話し終えると、眠気が襲ってきた。流石に緊張感の中で過ごしていると疲れも出てくるのだろう。それを見てアイヴィーが短時間だけど部屋の中にある簡易ベッドで休もうと話してきた。
「いや、しかしこれ一人用だからな……」
「……何する気なの?そういう意味で言ったんじゃないわよ」
頬を膨らませて怒るアイヴィー。あ、そういう意味じゃないのね。そうだよねすいません。簡易ベッドは硬そうな箱を組み合わせて作られたもので、長時間寝ると体が痛みそうな気もする。ベッドを叩くとやっぱり硬そうな音を立てている。
「うーむ……硬いな。俺は椅子で仮眠とるよ」
椅子に座ってテーブルに突っ伏す。前世でもどうしても眠気を堪えられない場合はよくこんな姿勢で仮眠をとってた。眠気を取るだけならこの姿勢でも問題なさそうだ。布袋を取り出し、テーブルに載せる。
「じゃあ交代で仮眠をとりましょう、こんな場所で見張りがいないのも問題だし」
「そうだ…ね……も、もう限界……」
テーブルに突っ伏したら意識があっという間に暗転していく。
あっという間に寝てしまったクリフを見てから椅子に座り直すアイヴィー。
「今日は疲れてたのね……仕方ないか」
無防備に寝息を立てるクリフの手に自分の手を絡ませるアイヴィー。暖かい、魔道士というには少し大きく硬い手の感触を楽しむ。父親の手の大きさを思い出しながら欠伸を噛み殺す。かなり疲れているのを自覚する。
「こうして見てると、子供みたいで可愛いなあ……」
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