14 死後の世界(仮)でチートっぽい話を聞く。

「あれ?」

 気がつくと真っ暗な空間に立っていた。これは前に見たことがある、俺が前世で死んだ時の光景だ。

「死んだ……のか?」


「いいえ、死んではいません」

 声が響く、この声にも聞き覚えがある。

「あんたか……」

 前世で死んだ時、俺をこの世界に送りつけたあの声だ。


 周りを見渡しても漆黒の空間が延々と続いているだけだった。

「あなたは出血と痛みで気を失っただけですよ」

「そうか……また死んだら親を悲しませてしまうから、よかった……」

 少し安心した。前世の親には不幸なことをしてしまったので今の親……バルトとリリアが悲しむ姿は見たくない、というのが正直な気持ちだ。もう八年も一緒にいるから、もう俺にとって大切な二人になっている。


「そ、そうだ。あの声はなんだ?」


(<<企画プランニング、魔力ブーストを発動します>>)


 死ぬかもしれない、と思った瞬間に頭の中に響いた機械的な声、あれは一体なんだろうか?

「あなたに与えた素質……まあ正確にいうと因子ファクターです」

 声が答える。

 因子? 因子ってなんだ?魔法を使う素質以外にもいくつか付与したって言ってたけど……。

因子ファクターと呼んでいますが、まあ単純にいうとチートに近い能力ですね。あなたは魔法の因子ファクターをまず持っています。そして前世の記憶に連なる因子ファクターを付与されて生まれています」

 んー、その一つが今回発動した企画プランニングってことなのか? 前世がゲームプランナーだったからって安直すぎる気が。とはいえ普通の魔法よりも遥かに高い効果が生まれていた気がする。

「今回発揮した企画能力は、ブーストです。通常の効果よりも遥かに高い効果を生み出す能力です。私が見たところ、貴方の前世でもブースト能力に近い企画をいくつか実行していたのではないですか?」


 ブーストというか、まあ強めの施策とかは実施したこともあるし、過去には課金ブーストって禁じ手になった施策なんかもあったし……強化施策をブーストって言ってるのかもな。

 ただ、実際に発動させたあの能力が発動できれば、この世界の魔道士よりも強い効果を生み出すことができるってことか。

「今回命の危険を感じたことで強制的に因子ファクターが発動しました。自由に発動するには訓練が必要です」


「強制的って、今後もそういう条件で出てくるのか?」

 率直に感じた疑問をぶつけてみる。

「それでもいいんですけどねえ、それだと面白くはないでしょう?」

 急にフランクな喋り方になったな。

「いや、チートなんでそれでもいいんですが」

「いえいえ、私の趣味ではありませんね」

 即座に否定か。でもまあ毎回チート出されてもね、流石にゲームでも飽きちゃうよね。


「その他の能力ってなんだ?」

「簡単に教えたらあなたが面白くないですよね?」

 即答か。でもまあ確かにその通りではあるのだよね……RPGとかで最初から能力がわかってたら遊んでもらえないし。

「ですので……あなたはこの先の人生で自分に秘められた能力を解放するために戦うわけです。楽しみですね〜」

 なぜか嬉しそうに喋るなこいつは……。

 でもまあ、今回命が助かったというのは非常に助かる。あの能力チートがなければ一〇〇パーセント死んでいたわけで、死んでしまったら復活できるとも限らないし。


「さて……あなたの仲間が必死に声をかけているので、目を覚ました方がいいですよ」

「また会うことはできるのか?」

「そうですねえ……私が望むタイミングでは会えると思います、あなたの希望で会う気はないですね」

 食えない声だ……ただ今回こうやって声をかけてきたことには理由がありそうな気がする。

 急に視界が狭くなってきた。どうやら時間切れなのだな、と思った。

 急激な眠気を感じ、そして意識が途切れた。

「では、またのご機会に。十分に私を楽しませてください」




 頬に微風を感じる。そしていい匂いがする……そして妙に手のひらに心地よい感触を感じる。なんだろうこの手触り、とてもすべすべしていて吸い付くような。

「あの……クリフさん?」

 いやいや、俺気を失ってるしこれは夢に違いない……。


 はっと気がつくと、俺はベアトリスさんの太ももに頭を乗せて……そして何故か太ももを撫でていた。

「ベアトリスさん……」

 慌てて起き上がると、その瞬間に鈍い痛みが頭に響く。

「いけません、いきなり動いては傷に響きます」

 ベアトリスがそっと俺の頭を抱き抱えて……俺はされるがまま、なんとなく安心した。生きてるってこういうことか、ちょっと幸せだ。


「お、大丈夫か?」

 目の前にカルティスの顔がどアップになる。なぜこんな距離感に。

「よかった、生きてたか……」

 セプティムの顔も視界に入ってきた。何故皆こんなに近いんだろう。少し状況がわからず混乱をしたが、すぐに気を失う前のことを思い出した。

「そうだ、獣魔族ビーストマンは?!」

 慌てて起き上がり周りを見渡す。視界には倒れているあの山羊頭の姿が見えた。

「大丈夫、君が倒した」

 セプティムが優しい笑顔を浮かべ、俺の頭を撫でた。

 ジャジャースルンドもやってきて優しい目をしながら微笑んでくれた……ただトロウルの笑みだったので軽くホラーだったが。

「お前は見た目よりも遥かに強いな、クリフ」


 俺の頬にベアトリスが手をそっと添える。

「クリフさん、無茶をしないでください……まだこんなに小さいのに……」

 見るとベアトリスが目に涙をいっぱいに浮かべて……

「お、女を泣かせるなんて罪作りな男だなあ」

 カルティスの軽口に少し安心した気分になった。

 本当に生きてるんだ。

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