ゲームプランナー転生 異世界最強の魔道士は企画職

自転車和尚

第一章 混沌の戦士編

プロローグ とあるゲームプランナー死す

「ん……ん? ここはどこだ?」


 暗い。


 目の前が真っ暗で見えない。気がついたらまわりがドス黒い世界に変わっていた。見渡してみても何も見えない、だだっ広い空間に俺がいて視界の先には暗闇しか広がっていないのだ。


 ええと、その前は何をしていた? 仕事……仕事してたよな。俺の職業ってなんだっけ……そうだ、プランナーだよ。俺はゲームプランナーをしていた普通のサラリーマンだったはずだ。何をしていたっけ……家にいて仕事用パソコンで仕様書を作ってたはずなんだが……。


「締め切り近かったんだよな……プロデューサーにまた突き返されるってわかってるけど……仕事だしなあ」


 子供の頃にワクワクしながら遊んでいたゲーム、でも作る側の業界はそこまで楽しいものではなかった。特に俺はプランナーとしてゲーム専門学校を卒業して、すぐに小さなソフトウェア開発会社に就職した後に気がついた。

 ゲーム会社にはパブリッシャーとデベロッパーの二つがあるということに。


 俺が入社したのは中堅どころか弱小デベロッパーで、パブリッシャーから仕事を請け負う所謂「受託会社」だったのだ。

 超有名なRPGや格闘ゲームを発売している所謂世間一般の皆様が想像する「ゲーム会社」は大抵がパブリッシャー。

 そのパブリッシャーから仕事を依頼されて開発を進める会社がデベロッパー。

 デベロッパーでも技術力の高さからパブリッシャー寄りになったり、企画持ち込みでパブリッシャーと共同開発することも可能ではあった。


 ただ俺が入社したデベロッパーは「キツい、汚い、給料安い」という3K職場で、納期に間に合わせるために必死に徹夜を繰り返す労基法くそくらえな職場だった。

 そんな職場で必死に仕様書を作り、ゲーム開発に携わる底辺ゲームプランナー。それが俺だったはずだ。


「残念ですが貴方は死にました、おお……プランナーよ死んでしまうとは情けない」


 突然暗闇の中に女性の声が響いた。


「なんだって? 死んだって言われても実感ねえぞ」


「そりゃあもう可哀想なくらい惨めに死んじゃいました。見つかるまでに数日かかるのでそりゃあもう悲惨でしょうねえ」


「え……えええ……俺の部屋事故物件になるのかよ……」


「そうですね、この後連絡が取れないと会社が鬼電、その後に通報しまして、貴方の親御さんが部屋に来て変わり果てた貴方を見つけるようですね」


 親父と母ちゃんが一応見つけてくれるのか、あ、でもエロ動画とかパソコンに入ったままなんだよな……生前に身支度はしておけっていうけど本当にその通りになっちまった。

 すまねえ、親父……お前の息子は特殊な性癖のエロ動画を集めるのが趣味なんだ……見なかったことにしてくれ……。

 母ちゃんすまねえ……俺恋人すらいなかったよ……毎日仕事しかしてなかったんだ。


「……あの? ……ちゃんと悲しんでます?」


「うーん……割と仕事から解放されたなあって気分でそんなに悲しくないんだよな……」


 そうなのだ。仕様書の締め切りが近かったんだけど、どうせダメ出し食うだけだしなあと思うとあのまま日の目を見ない仕様でよかった気がしている。

 ダメ出しされたらまた徹夜だし、OKが出ても次の仕様を考えるためにまた徹夜、そんな生活から解放された気分で少しホッとしてしまっている自分がいる。


「そうなんですか、人の世界も大変なんですねえ……」


 感心したようにうんうん、と頷くような声が響く。


「あ、ところでこの後俺どうなるの?」


「ああ、すいません。説明してなかったですね。今回貴方は転生対象に選ばれました! おめでとうございます!!」


「へ?」


 祝福のセリフと同時にどこかのRPGで聴いたようなファンファーレが響く。


「貴方はこの後異世界に転生するんですよ! すごいでしょ!」


「はぁ……」


「なんですか、その興味ねえよって反応は」


「いや、もう異世界転生モノって出尽くしてるじゃないですか、もうユーザーも飽きてると思いますよ、その設定」


 そう、俺が住んでいた日本では異世界転生ものが大ブームだった。

 高校生、JKが転生する話、ニートやサラリーマンが転生、あとは魔物に転生、魔王もゴブリンもエルフも転生しちゃったり。色々な転生ものはゲームでも良い題材であった。

 人気ジャンルゆえにたくさんのゲームが作られ、そして大半のゲームはサービスを終えていった。ゲーム自体は面白いものが多いが、転生モノで構成されたゲームが出過ぎていた気もしなくもない。


「いやいや、ここは『俺転生できるんですか! やったー!』みたいな反応が欲しいんですよ、わかります?」


 むくれたような声が響く。

 知らんがな。


「オレ、テンセイデキルンデスカ、ヤッター」


「てめえ、気持ち入れねえともう一度ぶっ殺すぞ」


 ドスの聴いた声が響いた後、おほん、と咳払いをして声が続いた。なんなのこの人。


「まあ、貴方には転生してもらいます! 楽しい楽しい剣と魔法の世界ですよぉ」


「ファンタジーかあ……ありきたりだなあ」


 ぼやく俺を無視するように声が続く。


「まあ、私も鬼ではありません。特に貴方は企画や仕様を作るのが仕事のプランナー、そこで理解しやすいように魔法の素質とか複数の素質をプレゼントしちゃいます・・・・まあ、転生のルール的に子供からやり直してもらうんですけどね。ちょっとだけ危険な世界ですが、まあ私がちょいちょいと弄った素質があれば大丈夫!」


 魔法ねえ……子供の頃は魔法使いの使う魔法のグラフィックに心が躍ったものだ。どういう魔法が使えるんだろう?


「んふふふーっ、それは体験してのお楽しみですよ♪」


 その言葉と同時に猛烈な眠気が襲ってきた。


「なんだ……急に眠く……」


「転生が始まります、良いですか、貴方が次の世界で何をするのか?それは貴方次第です」


「て……テンプレ回答はやめてくれ……」


 目が開かない、急激な睡魔とともに俺の意識はさらに深い暗闇に落ちていった。だんだん何も考えられな……い……。ゆらゆらと優しく揺すられるような感覚。


 気持ちの良い気分のまま、俺は深い眠りについていた。せめて次の人生は可愛い女の子と仲良くなりたいな、と考えつつ。

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