6

 明くる日。高校の吹奏楽部に行った私は、美緒と一美と共に部活に繰り出す。夏休みの部活をいつもの様に行い、それぞれの楽器で演奏の練習を行う。合同練習も行い、皆の演奏を高校の顧問の先生が評価していく。いつもの練習風景だ。だけれど、今日の美緒と一美、私の三人はちょっと違った。――部活後の〈あの事〉について、私達三人は、部活の合間に話題に興じる。


「夏稀、頑張るのよ!」


「涼太先輩、夏祭りに誘えるといいわね!」


 美緒と一美に励まされ、私もやる気が出る。そうだ、佐伯先輩に夏祭りに告白する。その為に、今日は佐伯先輩を誘うのだ。私はドキドキしながら、その時を待ち、部活に興じた。


「うん、私、佐伯先輩をなんとか誘うわ」


 今日の〈メインイベント〉に備え、落ち着きつつも意気込む。部活もなかなかに気合が入り、演奏にも熱が入った。




 そして、部活後。私と美緒と一美の三人は、天文部に赴いた。どうやら天文部の部活も終わる頃で、部員達が部活後の後片付けをしている。


(そろそろ天文部の部活も終わる頃ね……佐伯先輩と校庭の木の前に行って、誘わなきゃね)


 告白の準備段階の準備段階。夏祭りへ誘う。――佐伯先輩は部活を終え、部室から出てくる所だ。話し掛けようとしたところ。


「――ああ、池澤。今日、約束してたな」


 先輩から私に気付き、話し掛けてきてくれた。先輩が気付いてくれた事に嬉しくなる。そして私は応えていく。


「佐伯先輩、ありがとうございます。覚えていてくれましたね。――校庭の木の前に行きませんか」


「ああ」




 そして佐伯先輩と私は、校庭の木の前に行った。美緒と一美が近くでエールを送り、見守ってくれていた。校庭の木の前に着くと、私と佐伯先輩の話が始まる。


「池澤、今日は何の話かな?悩みの相談かい?」


 昨日、『悩んでいる』という話題があり、私の『悩み』というか想っている事は、先輩へ恋心を持っている、という事なんだけれど……。その想いを秘めて、先輩に話を切り出す。


「悩みというか――頼みたい事があるんですが――」


 いよいよ私は『告白の準備段階の準備段階』を、佐伯先輩に言った。


「佐伯先輩、一緒に今年の夏祭りに行ってくれませんか?」


 私の頼みに、佐伯先輩は「おおっ」という顔をして私を見る。そして言葉を返す。


「夏祭りに?僕と?」


 私は「ええ、そうです」と答え、先輩は「うん」と小さく言葉にして考えていた。そして考えて、こう答えてくれた。


「ああ、いいよ、分かった。一緒に夏祭りに行こう」


「はい、ありがとうございます!」


 私の「願い」に応える先輩に、思わず間髪入れずに感謝の言葉を入れる。私の喜びように、先輩は笑いながら、嬉しそうに、楽しそうにしている。


「ハハッ」


 笑みが零れた先輩と私。私達を見守る様に近くに居た美緒と一美が、ハイタッチをして、私達を祝福してくれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る