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 次の日、同じく吹奏楽部の美緒と一美に昨日の事を話し、佐伯先輩が気になるという話をすると、二人は凄くがっついて話をしてきた。


「それって、涼太先輩を夏稀が気になってるのよね。――素敵!それ!」


「星空を見て元気づけてくれるかぁ……ロマンチックよねぇ――」


 美緒と一美の発言に私も促され、ポツンと言葉に出す。


「――好き、になっちゃたのかな……」


 美緒と一美が「キャーッ!」と色めき立つ。佐伯先輩に対する感情が恋愛感情だと意識すると、顔が火照ってくるのを感じて恥ずかしくなってしまう。




 その日の吹奏楽部の練習中、顧問の秋月先生が美緒と一美の演奏を褒めた。


神楽かぐらさん、今日の演奏はとても良いわ」


 褒められて嬉しそうに、恥ずかしそうにする美緒。美緒の演奏するホルンは、確かに綺麗な音色で皆の演奏にも溶け込んで、とても良かった。さらにもう一人を褒める先生。


篠原しのはらさんもなかなか良いわ。上達してるじゃない」


 一美も褒められて、顔が綻んでいる。一美のサックスのパートもなかなかに良く、とても良い音色だ。先生はそして私にも話しかけてきた。


「池澤さんも昨日よりずっと良くなってるわ。頑張ってるわね」


 私は昨日とは違い、私の演奏するトランペットのパートで間違わずに、上手くやる事が出来た。褒められて、私もきっと顔が綻んでいた事だろう。


(昨日佐伯先輩に元気付けられて、肩の荷が下りたのかな……嬉しい――)


 その日の吹奏楽部は、明るく、心地良い雰囲気で進んでいった。




 何ヶ月か経った頃、佐伯先輩の志望校が、中学二年生だった当時の私と同じ志望校、永斗ながと高校だと分かり、私はまだ高校生でもないのにどこか嬉しく感じていた。永斗高校は文化部に力を入れていて、吹奏楽部の私も志望校に考えていた。きっと先輩も、天文部のあるという永斗高校に行って星空を満喫しようと、永斗高校を志望校に選んだのだろう。


 同じく吹奏楽部である美緒と一美も、永斗高校を志望校にしていて、私達は同じ高校に行こうと、三人で励まし合っていた。




 そして現在。佐伯先輩は永斗高校に合格し、一年遅れて私達も合格し、永斗高校に通っているのだ。




 私は永斗高校に入学してから、先輩に、あの日の感謝を述べる機会があった。入学してから、幾日か経った学校の放課後、その日の部活動が終わり、天文部の先輩と鉢合わせして、廊下で話し合った。


「池澤、永斗高校に入学したんだな。高校入学おめでとう。同じ高校だな。また一緒の学校で嬉しいよ」


 先輩の「嬉しい」という言葉に、私は嬉しさと恥ずかしさが込み上げてくる。あの時のお礼を言わなければ。


「先輩、ありがとうございます。覚えていますか?私が中学二年の時落ち込んでいたら、先輩が夜空を一緒に観察しようって、学校に行って励ましてくれた事」


 先輩は、「ああっ、あの時の事か」と頷き笑顔になる。


「池澤、あの時の顔、蒼白で、これは元気付けてあげなくちゃなって。俺も何とかしようって必死で考えてたら、星空を一緒に見ようって思い付いたんだ」


 先輩はうんうんと頷いて、私を真っ直ぐに見ている。


「あの時、凄く勇気付けられました。ありがとうございます。お陰で吹奏楽にも打ち込めました。本当にありがとうございます。感謝しています、先輩。私、永斗高校に入ったら、先輩に是非お礼を言おうって、ずっと思ってました」


 先輩は「それは、どういたしまして。いやぁ、微力ながら役に立てて嬉しいよ」と照れくさそうに顔を綻ばせる。嬉しくなって、何だか心が満たされる。


 先輩は「うん、池澤、またな。感謝してくれて嬉しいよ」とその場を後にした。(あっ)と話をもっとしていたいなと、私は感じて、先輩がその場を離れていくのが心寂しく思えたけれど、先輩に感謝を伝えられたと思うと、胸が熱く、温かい心持ちになれた。


(私、やっぱり佐伯先輩の事が好きだな――)


 私はそう自覚すると、体中が熱くなり、きっと顔が真っ赤になっていただろう。心臓の鼓動が跳ね上がり、ドキドキと脈打つのを感じていた。


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