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 佐伯さえき涼太先輩。私の一学年上の、中学時代と、高校に進学してからの先輩。幼い頃から星に興味のあった佐伯先輩は、中学時代と、高校に入ってからも天文部に所属している。小学校、中学校、高校と吹奏楽部に所属している私は、中学二年の夏休みのある時部活動で学校に来ていて、私が吹いているトランペットで、同じパートを何回も間違えた事を顧問の秋月あきづき先生に叱責され落ち込んでいた。そんな時、同じく部活動で学校に来ていて、その事を知った佐伯先輩が、私を訪ねてきてくれた。佐伯先輩とは同じ文化部で、私が一年の時に文化祭で知り合ってから、親しい間柄だった。


池澤いけざわ、今日の夜に、ちょっと学校に来ないかい?」


 私を苗字で呼ぶ先輩。夜に学校に行くというのが不安だったけれど、先輩の優しい眼差しとその声に導かれて、私はその夜八時頃に、何とか学校に赴いた。その日は、夏の夜空が綺麗に見える晴天で、学校に行くと佐伯先輩が待っていてくれた。


「池澤、今日の夜空を見てごらん」


「うわぁ!」


 その日の夜空は、一言では言えない程、星々が綺麗で、街の学校からでも星の輝きが見事に煌めいて見える。私は感嘆の声を上げ、満天の夜空に溜め息を漏らした。


「――綺麗……」


「だろ?」


 そう言うと先輩は、夏の夜空について語り出した。


「夜空にうっすら白く輝く天の川があるだろ?その中に明るい五つの星が十字架の形に並んでいるのが、夏の星座の代表格のはくちょう座。このはくちょう座の一等星デネブから、天の川に沿って南に目を向けて見えるのが、わし座の一等星アルタイルとこと座の一等星ベガだよ。この三つの一等星を結んだのが夏の大三角形って言うんだ。そして七夕伝説の織姫星と彦星は、アルタイルとベガだって言われているんだ」


「うん、――素敵――」


 私が感動していると、先輩は私を慰め話しかけてきてくれた。


「池澤、演奏少し間違えても、またいつか上手くやれればいいさ。星空は、こんなにも壮大で、魅力的なんだ。池澤もいつか吹奏楽で十分に上手くやれるよ。だから、元気を出して――」


 佐伯先輩は、そう言ってくれた。私はそんな佐伯先輩を見る眼差しが、日中とは違っている。そんな事を後から意識した。


 そして私達は、夜空を見上げ星々を観察すると、夜九時頃までには別れ、家に帰った。夜に帰り、両親は私を心配していたが、学校に用事で行ったの、と何度も話をして、その場は何とか収まった。


 帰ってきてから、お風呂に入ってパジャマに着替え、ベッドに横になると、佐伯先輩の優しい声と笑った顔が脳裏に焼き付いて離れなかった。私を心配してくれて、吹奏楽部で頑張ってと元気付けてくれた先輩。そして、夜空の星々はとてもロマンチックな思い出として残り、私の心に温かさをくれる。


「――佐伯先輩――、――ありがとう――」


 その夜、私は先輩を想い、眠りに就いた。


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