春と夏

アキサクラ

プロローグ~もしも〜

俺はなつと出会った頃、正直彼が嫌いだった。

夏が生まれたせいで、母さんの不倫がバレた。もっとも、不倫をした母さんが悪く、夏を攻めるのは筋違いだというのはわかっているのだが。

俺は大好きだった。短い間だったけれど、たった二年と少しだったけれど、家族三人で過ごしたあの時間が、記憶に薄っすらと残る、母さんの笑顔が、父さんの笑顔が。

真田春大さなだはるたと呼ぶそのかわいい声は、昔小さい頃、母さんが俺を呼ぶ声にそっくりで、泣きそうになる。

最後に見た母さんは、後ろ姿だった。


『ごめんね、はるくん‥‥‥』


そう言って俺の手を握り、出ていった母さん。もしかしたらあの出来事は、夢だったのだろうか。



母さんが不倫し、その間に生まれた子、間宮まみや夏。

もし彼がいなければ、俺たち三人は、今もずっと、一緒にいられたのだろうか――。

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