剣聖になれなかった男

晴樹

第1話 兄弟

18歳になると突然、父に呼び出された。

父はこのテルカ王国の王、そして剣聖という異名を持っている凄い人。

そんな父からの呼び出しはそれだけ重要な要件が含まれていることを意味していた。


「父さん、何?」

「来たか、グレイ」


そこには父の姿と父の側近の男、そして我が弟のロンの姿があった。

どうやら兄弟そろって呼び出す必要がある案件の様だ。


「お前たちに来てもらったのは他でもない、次期剣聖となるものを選出するためだ。お前たちには明日、決闘してもらう」

「ちょっと待ってくれよ父さん。次期剣聖ってことは、この国の王を決めるってことだろ。まだ父さんも引退する年でもないし、まだ俺たち18歳と17歳だぜ。ロンだってまだ学園を卒業してないんだ、そんな急ぐとこな……」

「大丈夫だよ、兄さん。僕のことを心配してくれてありがとう。でもその心配はないよ」

「でも、ロンお前……」


「グレイ! もうよい。すでに決めたことだ。それともお前は棄権するか? 明日の決闘を!」

「……」


言葉に詰まった。

正直決闘などどうでもよかった。

剣聖になりたいともおもっていない。

でも剣聖の息子である俺はその宿命から逃げることができないのだった。

なんたって俺たち兄弟は剣聖になるために育てられてきたのだから。


「父さん、明日だな。決闘のルールは?」

「ふ、やる気だな。ルールは決まっている。勝敗が決するまで戦う。それだけだ」

「シンプルでいいな」


俺はそれだけ言うと部屋を後にした。

そのあとを追ってロンも部屋から出てきた。


「兄さん、明日は負けないよ」

そういうロンの顔は本気だった。

こんな顔をするってことは、勝つ気でくるようだ。

「あぁ、明日はお手やわら中に頼むよ、ロン」

俺はそれだけをロンに伝えた。

正直に言えば、ロンに負ける気はほとんどしていなかった。

学園の成績はともに優秀な評価をもらっている。

しかし、剣の才能は俺の方が上だった。

剣聖にもっとも近いのは俺だと皆言っている。

それは俺自身も分かっていた。


すまないが、ロンお前には顔面と人気以外は負ける気がしない。

明日の決闘で負ければ俺は完全にロンに負けることになる。

剣だけはロンに負けたくないのだ、兄として……


夕日が沈み始めたため、自室に戻る。

その間に少女が廊下の片隅に立っている。

1歳年下のアリスという少女だ。ロンと同い年でとても仲良しだ。

王族の家系である彼女は次期王妃になると言われている。

それはロンだろうが俺だろうが、剣聖になったものの妻になる宿命を背負っているということだ。

そんな彼女がこんなところで何をしているのか、俺は問いかけた。


「アリス何してるんだ。こんなところで……いや、それを聞くのは野暮だったかい。ロンなら後でくると思うよ」


「あ、お兄さん。いえ、ロンのことを待ってないわけではないんですが……」


と彼女は言いにくそうにごもごもしている。

あら、予想が外れてしまったようだ。ロン以外に何か用事があったのだろうか。

この反応は、一体に誰を待っていたのだろう。


「お兄さん、明日ロンと決闘するってほんとですか?」


とアリスは言った。さすが次期王妃。情報が入ってくるのも早い。


「そうだよ、明日この国の王を決める決闘をする。そうか君にも関係がある話だもんね。気になるよね」


「はい、気になります。お兄さんに決闘前にこんなこと言わないほうがいいとは思いましたが、実はロンは……」


「アリス!」


突然後ろからアリスを呼ぶ声がした。

姿を現したのはロンだった。


「アリス、何を言おうとしているんだ。僕と兄さんは明日大事な決闘を控えてるんだ。よけいなことはいうな!」


あまり感情を見せない、ロンが怒りを見せていた。

そこまでして怒ることはないと思うが、アリスが言おうとしていることは明日の決闘に関することの様だ。

一体、ロンが何をしようとしているというのだろう。

疑惑が浮上する。


「そうだよ、アリス。君が心配することなど何もない。殺し合いをするわけじゃないんだから」


と俺はやさしくアリスの肩をやさしくたたいた。

そんな俺のもとにロンが近づいてきた。

そして襟元を引っ張り上げると、ロンは

「兄さんはそんな覚悟で明日戦うつもりだったのか!」

と激情を吐き捨てる。

その表情は怒りを語っている。


「兄さんにとっては僕なんか相手にならないと思っているのかもしれない。でも、僕は本気だ。本気で兄さんに勝ちに行く。もしそれでどちらかが死のうとも!!」

それではまるで本当の殺し合いになるじゃないか!

そう思っていてもロンの顔を見ては、言えなかった。

まるでロンは明日にすべてをかけている。そう読み取れてしまったからだ。


「あ、あの、ロン、やめてください」

「くっ……」


アリスが弱弱しくも俺たち兄弟の間に入る。

その様子をみてロンも正気に戻ったのか、次第に普段のロンになっていく。


「ごめん、兄さん」

「いや、きにするな」


俺は今まで見たことないロンの姿をみて驚きと同時に俺は考えてしまう。

俺にはこれだけの気持ちを明日の決闘に持っていくことができるのか。

俺が明日の決闘でもっていこうとしているのは兄としての威厳という至極どうでもよいものだけだ。

しかし、ロンは違う、何かを背負っている。

それだけ明日にかけている。

俺は本当に剣聖になりたいのだろうか……

親が剣聖だから、剣の才能があるから剣聖になろうとしているだけでその先など何も考えていないのではないだろうか。


俺は天を仰ぐ。

俺は一体何なんだろう。

深く明日のことを考えるべきだと、俺はその時思ったのだった……


「」


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