第81話 最後の転移
「パイセン、もう限界っす!早く地球に戻りましょう!カオスサーガの妖怪ダンジョンも消滅が始まったらしいっす!おまけに地球の魔道具に不具合が出始めたって情報もあるっす!いつ【転移】の葛籠が使えなくなるか分からない状況っす!!っす!!!」
リリパット駐屯地の集会所で和久津が喚く。
「根岸!モンスターを小さくするスキルはないのか!?モチ太郎には【転移】の葛籠は小さ過ぎる」
望月も喚く。
「根岸!ワシハデビュー作ノ記念イベントニ出演スル予定ナノジャ!場所ハ秋葉原ジャ!ドウスレバイイ!?」
ルベリートも続く。
「……フィロ君ともお別れして来ました。名残惜しいですが、帰りましょう」
五条も落ち着かない様子だ。
「ほほほ。皆さん落ち着きなさい。そんな同時にあれこれ言ってもボスも困ってしまいますよ。ところで、ボス。実は最近また太ってしまって、葛籠を抜けられるか不安なんですよねぇ」
「サブロー、全員あの世に送っていいか?」
黛の言葉に全員が震え上がる。
「マレーン」
この場にいるリリパットはマレーンだけだ。
「ハイ」
「俺達は地球に帰る。もうここへ来ることはないだろう」
「……ハイ」
「フィロメオが皇帝をやっているうちは、帝国にここが狙われることはないだろう。その間にしっかりと力をつけろ。自分達で戦えるようにな」
そう言ってマレーンにマジックポーチを渡す。
「コレハ?」
「お前達のチャンネルが地球で稼いだ金を宝石に変えてある。無駄遣いするなよ」
「アリガトウゴザイマス」
「それと、モチ太郎はここが気に入ったらしい。居させてやってくれ」
「ちょっと待て!モチ太郎は地球に連れていくぞ!」
望月が割って入ってくる。
「馬鹿なこと言うな。モチ太郎に限らず他の召喚オーブも置いていけ。こっちの神様の力が及ばなくなった地球でモンスターが生きていけると思っているのか?」
「えっ!パイセン!夏目やゴ右衛門もですか!?」
「当然だろう」
望月と和久津がしょぼくれる。
「午後にはここを発つ。各々、別れを済ませておけ」
#
リリパット駐屯地の広場は見送りの人々で埋め尽くされていた。その雰囲気は湿っぽいものではなく、どちらかというと祭りだ。
酒樽を引っ張りだし、あちこちで酒盛りが始まっている。
「夏目!ゴ右衛門!元気で暮らすんだぞ!!」
酒で顔を赤くした和久津が2体を抱きしめている。
「根岸!ワシノ代ワリニ、イベント頼ムゾ!」
「まだ地球でスキルが使えたらな」
ルベリートのAVデビューイベントには俺が【変身】して出ることになった。最後の頼みだ。とびきり卑猥な姿を見せてやろう。
「……ハァハァ……ヒッ、一人デ生キテ行ケルカ心配ワン」
酒……ではない理由でコニーは顔を赤くしている。黛がコニーの身体を触り納めしているのだ。
「うぉぉおおおー、モチ太郎モチ太郎モチ太郎うぅぅ!!」
望月とモチ太郎が戯れて転がり、何軒か家が潰れた。これ以上別れを惜しんでいると駐屯地が壊滅しそうだ。
「グランピー。これから言うことを伝えろ」
「ハッ」
俺が広場の中央に立つと、スッと音が引いた。グランピーが横に立って咳払いをする。
「俺達は地球に帰る。お前達が生きている内に戻ってくることはないだろう」
「אנו חוזרים לכדור הארץ. לא תחזור בחייםתחזור בחיים」
「だが、数百年後、数千年後は分からない。また地球とアルナ星が繋がるかもしれない」
「אבל אנחנו לא יודעים בעוד מאות או אלפי שנים. כמו כן, כדור הארץ וארונה 」
「その時はまた、俺達の子孫がここを訪れるだろう」
「שוב, צאצאינו יבקרו כאןצאינו יבקר」
「その時のリリパットはどんな種族だろうか?」
「איזה מין גזע הוא ליליפוט באותה תקופה?」
「期待しているぞ」
「אני מצפה לזה」
割れんばかりの歓声が上がる。グランピーを見ると、目元が赤い。
「よし、お前達!地球に帰るぞ!!」
最後の転移だ。
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