第80話 別れ

ゲンベルク帝国の帝都はいつものように賑わっていた。イシャーン王国の飛行船を退けて以来、ずっと盛り上がっている。


「随分と活気に溢れているな」


「そうですね。飛行船の件が良い方向に転がりましたから。根岸さんの作ったロボット?も大人気なんですよ」


フィロメオは前を向いたまま話す。


「アレは頑張って作ったからな。大事にしろよ」


「はい。重要文化財に指定します」


「ポーズはあのままでいいのか?今ならまだ変更可能だぞ」


「今のままでいいです。かっこいいです」


「そうか」


大通りに沿って歩いていると、コニーを引き取った奴隷商会が見えてきた。


「……コニーはリリパット駐屯地に置いていくつもりだ。コニーの実が必要になったら駐屯地へ行け。その代わり、リリパット達のことを気にかけてやってくれ」


「……やはりあの話は本当だったんですね」


フィロメオが立ち止まり、こちらを見上げる


「どんな話を聞いた?」


「各国から異世界人が引き上げているそうです。大急ぎで」


「ああ、そうだろうな。何せ、地球からダンジョンが消滅し始めたらしい。地球とアルナ星が離れ始めたと考えるのが自然だ」


「……根岸さんは地球人ですもんね」


フィロメオの表情は見えない。


「お前にこれをやろう」


マジックポーチをそのまま渡すと、フィロメオは跳ねるように驚いた。


「えっ、いや、貰えませんよ!」


「いいからとっておけ。中には魔道具やスキルオーブ、それにちょっと変わった召喚オーブも入っている」


「……変わった召喚オーブですか?」


「ああ、神様の化身を呼び出せる」


「えっ!!どういうことです!?」


フィロメオの大声に道ゆく人々が振り返る。


「少し前までアルスター王国に居てな。そこで手に入れた。一軍に匹敵する力があるそうだ」


「……そんなに」


「西大陸の脅威は依然としてある。それに帝国と名乗っている以上、中央大陸の統一も諦めていない筈だ。いずれ必要になるかも知れない。持って行け」


「……はい。有り難く頂きます」


「あと、五条とも別れを済ませておけよ。流石にこちらに残るとは言わないだろうから」


「……はい。うーん?」


じっと顔を見てくる。


「どうした?」


「根岸さん。具合悪いんですか?」


「……気にするな」


「分かりました」


「さて、俺は行くとする」


後ろを歩く近衛に目配せをする。


「じゃあな」


「はい!ありがとうございました!」


「皇帝が軽々しく頭を下げるな」


「はい!!」


フィロメオの声を背に、帝国を後にした。

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