第75話 緊急事態!

「一体何があった!」


あちこちから火の手のあがる研究所の周りでは、職員達が必死に消火活動を行なっている。本当に緊急事態だ。


「わ、分かりません!突然、火が!」


問いに答えた職員は必死に水を運んでいるが、このままでは埒があかない。


「どけ。私がやる」


【水生成】【水操作】【念動】【拡散】

【水生成】【水操作】【念動】【拡散】

【水生成】【水操作】【念動】【拡散】


「たのむ、消えろ!」


大量の水を射出すると、俄に火の勢いが弱まった。


「すごい!これならなんとかなります!」


「……はぁはぁ、早く逃げ遅れた職員を救出しろ」


「はい!」


スキルの連発は堪える。膝に手を置いて職員の姿を見送っていると、背後から声が──


「グギャグギャグギャ!!」


なっ!ゴブリン!何故こんなところに!


斬りかかってきたゴブリンを躱すと、次のゴブリンが襲い掛かってくる。


「何体いるんだよ!」


カウンターで短剣をゴブリンに突き入れるも、鎖帷子に阻まれた。こいつら、ただのゴブリンでは──


「室長!」


ハルバードがゴブリンを吹き飛ばした。ダルマーノだ。


「遅いぞ!」


ダルマーノはハルバードを振り回し、どんどんゴブリンを撃退していく。しかしこれは間違いなく陽動だ。襲撃者達の狙いは──


「ダルマーノ、地下室へ急ぐぞ!」


「了解です」



#



火事で見張りこそ居なくなっていたが、地下室の中はいつもと変わらない様子だった。各牢屋の中には洗礼具をつけられた加護持ち達が入れられている。誰かが連れ去られた形跡もない。


「ダルマーノ。召喚オーブが盗まれていないか確認してくれ。すり替えられている可能性もある。注意深く見てくれ」


「了解です」


ダルマーノは鍵を受け取ると、端から順に牢に入って確認していく。襲撃者はこれからやって来るかもしれない。私は地下室の入り口を睨む。


「室長!」


ダルマーノが声を上げた。"羞恥の神様の加護持ち"のところだ。


「どうした!」


牢に駆け込むと、青い光が──


「ォォォオオオォォォ!!」


なんだ!一体何が起きた。"羞恥"の身体が青く輝き、洗礼具が震えている。


「ォォォオオオオオオオォォォ!!!!」


おかしい!何故覚醒しているんだ。"羞恥"を抑えていた洗礼具が吹き飛び、奴の身体の周りには透明な盾のようなものが出来始める。何か原因が──


「ダルマーノ!奴の鼻だ!鼻を挟んでいるクワガタを外せ!」


「了解です」


返事だけして、ダルマーノは牢屋から逃げ出す。


「おい!何をしている!」


"羞恥"がゆっくりと立ち上がり、ドーム状の盾が形成されていく。それはどんどん大きく──


「ォォォオオオオオオオォォォ!!!!」


全てが吹き飛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る