第36話 乗りたい乗られたい
「モチ太郎ー!!」
長身の望月が全身でぶつかってもブラックドラゴンは嫌がらず、目を細めてされるがままだ。
モチ太郎の怪我は大分癒えたようだ。望月がモチ太郎の背に乗ると首を上げて立ち上がり、ふわりと浮き上がる。ドラゴンという生き物は物理的な法則の外にいるらしい。
そんな様子を恨めしそうに見つめる影が二つ。ドラゴンに乗りたいヴァレミアと望月に乗られたい三木だ。
「もういいのか?三木」
「えっ、はい。お陰様ですっかり元気になりました」
取り繕った笑顔で三木が返した。その鼻には鼻ケースが付いている。開心剣の【入換】で鼻とおちん○んの認識を元に戻すことも出来るが、本人が固辞した。羞恥心をコントロールする訓練らしい。周りからすると、鼻ケースを外しても鼻がまた現れるだけのマトリョーシカ状態だ。
「元気と言う割には表情が冴えないな」
「……そんなことはないです」
「自分の欲求に素直になればどうだ?言ってみろ」
「……言えません」
三木の周りにうっすらと盾が現れた。どうやら本当に恥ずかしいらしい。
「そういえばエジンが地球に戻ったらしいな」
「ええ。そろそろ新宿ダンジョンの踏破者を増やさないと私がずっとここに駐在することになっちゃいますしね」
「行きたいところがあるのか?」
「それはありますよ。せっかくの異世界ですから」
三木の表情がやっと明るくなった。
「この中央大陸だけでも北には帝国、南にはいくつもの国があるそうですしね。行くところはいくらでもあります」
そういえば一つ仕事が残っていた。
"いつまで望月達を見ているんだ?"
"別に見ていない!"
"ドラゴンに乗りたいなら乗ればいいじゃないか"
"馬鹿を言うな!魔道具も壊れているのに乗れるわけないだろ!あんなことが出来るのは騎乗の神様の加護持ちだけだ"
"フィロメオもいない。ドラゴンにも乗れない。お前はどうするつもりだ?祖国にでも帰るか?"
"今更帝国に戻れるわけないだろ!"
"おいおい。お前の祖国はアルスター王国だろ"
"……どういう意味だ"
"そのままだ。ヴァレミア。いや、ダルマーノ"
"……貴様。何故それを"
"何故だろうな"
"……"
翌日、ヴァレミアは居なくなった。
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