第34話 フィロメオ

きっかけは父であるゲンベルク17世の病気でした。父が床に臥すようになり、ずっと先のことだと思っていた後継者争いが俄かに現実のものになりました。


私には兄が2人、姉が2人います。ゲンベルク帝国の歴史の中で女帝がいなかったわけではありませんが、姉は2人とも西大陸へ嫁ぐことが決まっていました。つまり、後継者争いは私を含めた3人の皇子の間の問題でした。


正直なところ、私には皇帝になる意志がありませんでした。そもそも2人の兄は私より10以上歳上ですし、それぞれが派閥を率いています。私に出る幕はない筈でした。


火の粉が降りかからないようになるべく貴族には近寄らず、権力から遠い学者を見つけては教えを乞う日々を送っていました。


しかし、これが裏目に出ました。私は加護を授かってしまったのです。学びの神様の加護を。


2人の兄は加護を授かっていません。皇帝には武威を示すような加護が望まれますが、どんな加護でも持たないよりはましです。


私を取り巻く状況は一変しました。派閥に属していなかった貴族達が私に擦り寄り、それまで権力から距離を取っていた筈の学者達までもが私に対する支持を隠さなくなりました。


2人の兄は露骨に私に敵意を向けました。命の危険を感じたことは一度や二度ではありません。いつ殺されてもおかしくない。そんな状況で手を差し伸べてくれたのが竜騎士団の団長、ヴァレミアでした。


中央大陸の南、アルスター王国への亡命は全てヴァレミアが手引きしてくれました。ヴァレミアの操るドラゴンに乗って大森林を越え、アルスター王国へ。祖国を捨てるのは憚られましたが、私は追い詰められていました。


軽薄な私に罰が下ったのでしょう。大森林を越える途中、私達の乗るドラゴンが制御不能になりました。ドラゴンを操る魔道具に不具合が生じたのです。


地面に叩きつけられ、人知れず人生を終える。そんな未来がよぎりました。でも、私は生きています。奇跡と言う人もいるでしょう。しかし、私は必然だったのではと考えています。


今、私はリリパット軍の駐屯地で暮らしています。ここにはリリパットは勿論、人間やエルフも暮らしています。異世界人も。


そうだ。最近リリパットの子供達の間で流行っている遊びを紹介しましょう。こっそり相手の背後に忍び寄り、バレないように鼻を触る。鼻を触られた側は叫び声を上げながら周りの子供達を追いかけまわす。最初は意味が分からなくてポカンとしてしまいましたが、いざ加わってみるととても面白かったです。


ここにはボスと呼ばれる人がいます。ボスの名前を出すと良くないことが起きるらしいので、名前は言えません。


ボスは私にある約束をしてくれました。ボスの故郷の言葉である日本語を覚えたら、異世界へ連れて行ってくれると。


私の日本語は伝わっているでしょうか?上手く話せているかとても心配です。


異世界に行くと、私はショタ担当になるそうです。ショタの意味はまだ習っていません。異世界に行けば分かるそうです。


異世界へ行くのがとても楽しみです。

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